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江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間


■公開:1969年

■制作:東映

■製作:岡田茂、天尾完次

■企画:

■監督:石井輝男

■脚本:石井輝男、掛札昌裕

■原作:江戸川乱歩

■撮影:赤塚滋

■音楽:八木正生

■編集:神田忠男

■美術:吉村晟

■録音:野津裕男

■照明:増田悦章

■主演:吉田輝雄

■寸評:

ネタバレあります。


映画作品が「幻」となるにはいくつ理由があって、プリントそのものが散逸や焼失してしまう物理的な原因、作品の内容および出演者等の今日的評価が得られないという市場的な原因、そして諸般の事情により公開できないという社会的な原因、などあってあまりにも長期間「幻」になってしまうと物理的な存在も抹殺されてしまったりするのでそうした作品を目撃、鑑賞というより目撃した場合は忘れられないように書き残しておくことに大変な価値がある、たぶん。

というわけで精神病院である、のっけから「幻」な香りがする。ほとんど全裸で狂乱している女たち。男に裏切られたらしい女患者・三笠れい子のオッパイ大盤振る舞いやらふんどし女やら。狂った女患者の中におもちゃのナイフを持った女・片山由美子がいる。彼女に追い回されているのは「自分は正常だ(と思っているのが一番アブナイ)」と信ずる医学生の人見広介・吉田輝雄である。SMプレイが好きそうな監守・高英男にシバかれて鎮静剤投与された人見は、自分を監視していた坊主頭の男に襲撃されたのをマーシャルアーツのような技で返り討ちにして病院を脱走する。

人見はある子守唄と頭の中に浮かぶ荒涼とした風景(と、ヘンな踊りを踊る人)の記憶に悩まされていた。秘密を知っていそうな曲馬団)の少女、初代・由美てる子と出会った人見は脱走中のため、バレバレの付け髭という変装をして初代と再会した直後、初代は殺される。「裏日本(当時、現・日本海側)」というヒントを残して死んだ初代の言葉を前面的に信用した人見は殺人犯と間違われて再び逃亡。

お尋ね者なのでまたもや変装をして汽車に乗り込んだ人見は裏日本の資産家、菰田源三郎・吉田輝雄の死亡記事を眼にする。顔も身体の特徴もウリ二つ。菰田家の当主は手に水かきがあるという特殊なスペックだったがキレイな奥さんを貰って人目を避けて無人島に移住し産まれた息子、源三郎を本家に返して無人島を巨大なアミューズメントパークへ改造しているらしい。菰田家に出生の秘密ありと断定して人見は早速、現地へ向かう。

たったこれだけの「らしい」でトンでもない計画を企んだ人見広介は医学的には正常でも、相当にヘンな奴だと思うがどうだろう。

墓を掘り返して菰田源三郎と入れ替わった人見は、坊主・由利徹と坊主・大泉滉のコンビとシンプルな「死体コント」を演じた後、藪医者・上田吉二郎のいいかげんな診断により無事蘇生するのであった。長身の吉田輝雄を小柄な二人が担げるはずもなく吉田輝雄は夢遊病者のように歩いて(仮死状態だけど)本堂へ向かう。

大泉滉とはあきらかにアドリブのキスまでされて懸命に「仮死状態」を続ける吉田輝雄の力の入った顔面は「吹き出すまい」という天晴れな役者魂の表出なのだった。

菰田の家はだだっ広い。真夜中に三人の女中のあられもない寝姿にニヤニヤしている場合か!オマエは!と思うのだが人見はじっくりと家の中を観察する。事前のリサーチ不足から源三郎がサウスポーであることを見逃していた人見はナイスな機転で偽者を演じ続ける。執事の蛭川・小池朝雄、妻の千代子・小畑通子、親戚の静子・賀川雪絵、身近な関係者はあまりにも顔がソックリなのですっかり信じ込むが飼い犬だけはルックスにごまかされないので人見に吠えまくる。

人間どもはもれなくヘンだが、ただ一人、主人を愛するシェパード犬の健気さに心洗われる思いである。

さすが犬好き、石井輝男の面目躍如である。

生前の源三郎は大変な女好きであったらしく、お色気むんむんの千代子は亭主が病み上がりなのに迫りまくるし、静子もお誘い攻撃をしてくるし、一つ屋根の下で繰り広げられていた源三郎のご乱交ぶりも踏襲すべきか否か迷っていた人見は正体がバレるのもものかはついに千代子とヤッちゃうのだった。静子のモーションからも逃れられなくなった人見は「ここまで来て断ると余計に怪しまれるのでは?」との判断で静子とも合体。静子の入浴中に湯殿に毒蛇が乱入。風呂焚きをしていた下男・大木実が疑われたが犯人は不明。静子と千代子のところにはご乱交レポートが届き、屋敷の中をノーメイクでも相当怖いのに思いっきり怖いメイクをした怪しい男・沢彰謙が走り回る。一体、どうなってんだこの家は?と驚く人見であった。

セックスしても正体ばれないと安心した人見と千代子が一つ布団で寝ていると突然、千代子が血を吐いて変死。人見はついに源三郎の父親、菰田丈五郎・土方巽と母親が住む無人島へ向かう。蛭川、静子、下男と一緒に出会った丈五郎は暗黒舞踏で息子一向をお出迎えするのであった。獣のような声を出して鎖につながれた女の軍団に唖然とする一行。ここから先は暗黒舞踏団と土方巽の独壇場。最初に殺されたはずの坊主の人も元気に踊っているように見えたのだがそれって気のせい?

人見はもうひとつ記憶に残っている土蔵を探す。そこにはキレイな娘、秀子・由美てる子があの子守唄を歌っていた。秀子の背後には世にも醜い青年、猛・近藤正臣(かなりの特殊メイクだが、近藤さん、若い頃はいい身体してたのね、ウフッ)がくっついていた。異性の結合児なんてあり?という医学生の人見の判断は正しく、それは丈五郎が作り上げた改造人間だった。人見と源三郎は実は兄弟で、人見は将来、丈五郎の奇形人間造りに協力するように東京の親戚に預けられ医学の道に進まされていたのだった。秀子は実は曲馬団の初代の姉妹だった。奇形人間のパラダイスを作り、世間では疎まれる存在の自分たちが逆に健常者を支配しようという壮大な計画なのだった。

秀子と人見は深く愛し合う。パラダイス島に1ヶ月も軟禁された人見、蛭川、静子、下男はついに丈五郎の妻、とき・葵三津子と再会する。丈五郎は両手に水かきがある不気味な姿のためときに疎まれるようになる。それでも純情をささげていた丈五郎だったがときは情夫の林田・笈田敏夫と結ばれていた。ときは妊娠し産まれた双子が源三郎と広介だった。ときと林田は無人島に幽閉され林田は死亡、その死体に群がるカニを食料としてときは生き延びた。

身体をカニに食われる笈田敏夫も大変だが生きて動いているカニを手づかみで口に運ぶ葵三津子、ナイスファイト!あいかわらず、女優を人間扱いしませんな、この監督は。

そこへ下男の高笑い。その男は趣味で難事件を解決する明智小五郎・大木実なのだった。明智の微妙な関西なまりの解説によれば蛭川と静子はデキており菰田家の財産乗っ取りを企んでいたのだった。パラダイスを完成させるために肉親の縁の薄い若い女を誘拐してくるミッションを担った蛭川は、実は変態で女装が趣味(そんなことどうでもいいような気にするが絵的には面白いし、小池さんがノリノリなのでオッケー)。誘拐した女たちを弄って喜ぶドS野郎なのだった。人見と源三郎を亡き者にして唯一の身内である静子に相続させようとしていたのだった。

そんなある意味マトモな野望を持った二人は丈五郎の手によって池に沈められる。体当たりで水槽にダイブする小池朝雄と賀川雪絵の頑張りに拍手である。パラダイス完成を邪魔された丈五郎は自爆をほのめかしつつ自殺。母親を地上へ逃がした人見と秀子は近親相姦の罪と父親の業を背負って夜空に花火となって散っていった。

夕焼けの中に合体した二人の身体がドカンと吹き飛び、二人の首やら手足やらが冗談のように空を舞い、聞こえてくるのは「おかーさーん」と叫ぶ切ない声。本来ならば泣けるのか?いや、あの一瞬の合体造形と作り物の生首乱舞はあまりの馬鹿ばかしさ、いや、潔さに大笑い。世間の常識をぶっ飛ばす、本作品最大の見せ場と言えよう。

パラダイス島、人間椅子、屋根裏の散歩者、江戸川乱歩の作品てんこ盛りの一品。

2007年09月09日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2007-09-09