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花の生涯


■公開:1953年

■制作:松竹

■製作:大谷隆三、高村潔

■企画:

■監督:大曾根辰夫

■脚本:八住利雄

■原作:舟橋聖一

■撮影:石本秀雄

■音楽:鈴木静一

■編集:

■美術:水谷浩

■録音:福安雅春

■照明:村田政雄、寺田重雄

■主演:松本幸四郎よりも淡島千景(筆者推奨)

■寸評:

ネタバレあります。


桜田門外の変で暗殺された井伊直弼の生涯。松本幸四郎(後:松本白鸚 @初代)の映画初出演作。後に制作されるNHK大河ドラマの主演は尾上松緑。協賛に彦根市、井伊家。よって大老の悪口はいっさい出てこない。

地元の彦根篇と、藩主になって以降の江戸篇とあわせて3時間の超大作。

幕末の彦根城で藩主のせがれだけど兄弟がたくさんいたので優雅なニートライフを満喫していた井伊直弼・松本幸四郎(八世)はポン友にして学者の長野主膳・高田浩吉が連れてきた三味線の師匠、村山たか女・淡島千景に一目ぼれ。当時、直弼には身の回りの世話をしてくれる女性、佐登(理和)・月丘夢路がいたにもかかわらず、彼女のイロは主膳なのにもかかわらず一気惚れ。で、たか女のほうもそんな直弼に気があるそぶりを見せたので一時はのぼせ上がった直弼だったが主膳の愛人だと判明すると悔し紛れに三味線を叩き壊して別離を宣言。

立場的にビミョーな主膳、しかしながら世は尊皇攘夷で祭りが起きている最中、美人でアタマの切れるたか女は主膳のために、そして直弼のために攘夷派の動きを探る女スパイ活動に従事することになる。なんでそこまでモテまくるのかよくわからないのだが、とにかくたか女のお色気大作戦が本作品のもう一つのメインストリームであることには間違いない。病弱だった藩主の跡を継いだのは、顔はオトボケだが弟を高く評価していた兄の井伊直亮・有島一郎、そしてその兄が亡くなると直弼は藩主になる。かねてから直弼ファンだった年寄りの犬塚外記・薄田研二も大満足。そして世間体もあるので直弼は昌子・北見礼子(注:林与一のママ)と結婚するが無骨で仕事一図で実はたか女を忘れられない直弼とは仮面夫婦状態。

さて、米国艦隊が持ってきた大統領書簡に右往左往していた老中、阿部伊勢守・柳永二郎を中心に開催された会議では、開国推進派の松平若狭守・山内明とバリバリの鎖国派、堀田備中守・近衛十四郎らは静かに対立が深刻化。トップの不調も相まって、幕府は将軍の跡目争いの真っ最中でもある。

まさに激震!千代田城(江戸城)、ついでに大地震とかほうき星(彗星)とかの自然現象も大騒ぎ。ほんでもってついに将軍様が亡くなると跡目争いは内部分裂へと発展、ここんところヤクザのそれも江戸幕府もおんなじ、ね。

精力的なスパイ活動を続けていたたか女は、寡の寺侍、多田一郎・河野秋武と結婚するがそれもこれも活動の一環であったからやがて主膳との仲がバレてしまい、多田は錯乱する。多田の一人息子、帯刀・大木実はたか女を悪女として成敗しようとしていたがリベラルでアクティブなたか女と意気投合し、ともに開国推進を決意。ところがこれまた帯刀には許婚ともいうべき宿屋の娘・草笛光子がいて彼女もまたたか女に彼氏を略奪されて(結果的に)しまうのであった。

目的のためには手段を選ばず、井伊直弼の安政の大獄そのものを体現するたか女のライフスタイルである。

再び来襲したハリス・リチャード・シュウィガーは通訳・安倍徹を通じて紳士的に開国を迫る。今がチャンスと井伊直弼は攘夷派の一掃に乗り出す。たか女は九条関白・徳大寺伸にまたもやお色気作戦で急接近、そして直弼は大老になる。大老ったらもう実質的にナンバーワンなわけなので将軍家の跡目争いでも水戸藩と対立し紀州家の慶福を推進。強権的な弾圧制作で吉田松陰も断罪、ローラー作戦の最中、水戸藩も黙っていたわけでなくこちらも負けじとお色気バリバリの女スパイ、黒沢登幾子・宮城千賀子を用いて密書強奪に成功。たか女を追っていた多田は誤って別人を殺害、囚われ人となるが未練たらしくたか女を呼びつけ、差し出された掌に思い切り噛み付いたところを息子に一撃されてしまうのだった。

すでに身辺に危険の及んでいることを自覚していた直弼は余裕ぶっこいて泰然自若。暗殺団は着々と結成され、有村治左衛門・戸上城太郎、関鉄之助・北上弥太郎、黒沢忠三郎・三橋達也、稲田重蔵・若杉英二ら松竹若手オールスターズが勢ぞろいしていた。大雪の朝、千代田城の桜田門外で井伊直弼の乗った籠は襲撃され、江戸屋敷には血まみれの籠が届いた。

実況検分が終了するまでは、遺体が乗ったままの籠に手も触れられない。主膳は自分の命運が尽きたことを悟る。直弼の死後、彦根藩主となった直弼の次男は安政の大獄を主膳とかたか女とかの側近の責任にした。支店の不始末は担当者個人の判断によるもので本社は関与を否定、昨今の大企業の不祥事の後始末と、経営者のやることは決まっている。主膳は断罪、帯刀らも同じ運命をたどる。たか女は女の子だったので晒し者になるだけで生き延び、後に尼さんとなって明治時代まで存命。直弼が花ならたか女はさしずめ実といったところか。

淡島千景姉さんの悪女っぷりは色気もブリブリ、原作者が社会的な認知度がはるかに高いテレビバージョンにも出演を熱望したのに激しく同意。特に女スパイとして立場が逆転する宮城千賀子との対決がいい。宝塚の先輩後輩対決、または男役対娘役、舞台出の人は芝居にハッタリが効くから、表情の固い松本幸四郎の平板なリズムが全体をまったり包んだ本作品においては周囲の男優と女優のキャラが立ちまくりである。

松本幸四郎といえば井伊直弼である。

押し出しが立派(すぎる)な松本幸四郎が演じる若い頃の井伊直弼はジジくさくて、どーかなーと思うが殿様になってからは他の映画俳優を寄せ付けない迫力と姿勢の良さでカッコいい。人柄はともかくやったことの結果責任としては十分すぎるほどの殺されぶりなのだが死骸も流血も一切なし。梨園から文句の一つもでたのかどうかは知らないが、この映画の十数年後、東宝へ移籍した後に出演した岡本喜八監督の「侍」では血まみれになって首をはねられるところまで生々しく描かれてしまうのである。同じ原作で「侍ニッポン」というのもあり。

鶴田浩二はほとんど台詞無しだが大老にトドメを刺す重要な役どころ。このほかたか女をフォローする太夫さんで後に堅気の奥さんになる雪野太夫・嵯峨美智子、ちなみに通訳を演じた安倍徹が驚くほどすらすら英語をしゃべるのが驚き、後の野獣派悪役の姿は想像できず。あ、しかしなんだけど「侍」で中丸忠雄が演った「稲田重蔵」って本作品では若杉英二なんだよなあ・・・うーんちょっと複雑(個人的に)。

2007年08月26日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2007-08-26