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にごりえ


■公開:1953年

■制作:新世紀プロ(文学座)、松竹

■製作:伊藤武郎

■企画:文学座

■監督:今井正

■脚本:水木洋子、井手俊郎

■原作:樋口一葉

■撮影:中尾駿一郎

■音楽:団伊玖磨

■編集:

■美術:平川透徹

■録音:安恵重遠

■照明:田畑正一

■主演:丹阿弥谷津子(十三夜)、久我美子(大つごもり)、淡島千景(にごりえ)

■寸評:

ネタバレあります。


第一話 十三夜。

お月見の夜、身なりの良い婦人がぼろっちい長屋の戸口に現れる。おせき・丹阿弥谷津子は奉公先の官吏に見初められて嫁入りしていたが、その亭主の女癖が悪く、また、一人息子を産んだとたんに身分が卑しいのなんのとイジメられ嫌気がさして家を出てきたのである。亭主に甲斐性が無いという点において深く共感した(かもしれない)母親・田村秋子はいたく同情し娘を家に留めようとするが、弟の就職の世話やらなんやらで嫁ぎ先の七光り状態でもってなんとか食いつないでいる経済状態を憂う父親・三津田健は「子供抱えて出戻って苦労する覚悟があるなら嫁ぎ先で苦労したほうがよくね?」と諭して嫁ぎ先へ戻るように言う。

そりゃあんまり冷たいんじゃないの?とは思うが可愛い孫の顔も見れなくなる、どうせ男の子はあっちの家に取られるわけだから、っていうハンディもあるから父親の判断もあながち間違っているとは言えないわ、と納得したかどうかはわからないけどおせきは夜の道を人力車に乗って帰っていくのでありました。

と、ここで話が終わってもそれはそれでよかったのかもしれないが、そのバッチイ身なりの車夫が、な、なんとおせきの初恋の相手(たぶん)、元タバコ屋のボン、録之助・芥川比呂志なのだった。運命って皮肉ね、今、彼は独身だわ、ルックスもカッコいいし(少なくとも今の彼女にはそう見えているはず)ああ・・このまま行くところまで行こうかしら!と思った矢先、目の前に橋が!ああ・・これって「マディソン郡の橋」じゃん?時代とか洋の東西違ってもやっぱ橋はドラマ生むねえ。

おせきの亭主ってきっとハゲでデブでスケベにちがいない、ってそりゃ金子信雄(がよくやる役どころ)じゃないの?てなわけでその後の丹阿弥谷津子を知っている現代の観客はそういう反則技を駆使して見るとさらに面白いかも。

第二話 大つごもり。

赤貧の叔父さん夫婦に育てられたため因業な資産家の家に奉公している、美人で育ちのよさそうな(スクリーン外の話ですが)おみね・久我美子。奉公先の後妻、あや・長岡輝子は奉公人が手桶を運んでいてころんだのを目撃した第一声が「手桶は壊れていないか?」というシミッタレで自分は女の子ばかり産んだのだが先妻の息子、石之助・仲谷昇と折り合いがすこぶる悪く、当の石之助もすねかじりの放蕩息子。ただしこの場合、石之助の放蕩の原因の一つが後妻という説もあるので、あやはようするに嫁ぎ先の乗っ取りを企むヴァイタリティのあるオバサンなのである。

おみねの叔父さん・中村伸郎は身体を壊していて働けない。小学生の一人息子が蜆売りで家計の足しにするありさま。叔父さんは2円の借金をしないと年が越せないらしい。おみねはあやに借金を申し込むがシラを切られてアウト。とうとう大晦日がやってくる。

そこへすでに嫁いでいる長女が産気づいたと迎えに来た車夫・北村和夫から聞いたあやは急いで出かける。そこへたまたま帰宅した石之助は、性格の悪そうな義理の妹・岸田今日子にまで馬鹿にされており、フテ寝する。切羽詰ったおみねは石之助が寝ていた茶の間の小引き出しから2円だけ金を盗む。しかし、いつのまにか石之助が残りの金を全部盗んでいたので嫌疑はすべて石之助にかかるのだった。

無事に男の子が産まれたので意気揚々と引き揚げてきたあやは帳簿の整理を始めた。現金と帳簿の残高照合により窃盗がバレるんじゃないかと心臓バクバクのおみねがあやうくセーフになったのは石之助の粋な計らいなのか、はたまた偶然の産物か。美形の仲谷昇がとことんヤらしくて、まあイイトシこいてるけどお母さんの愛情に飢えてるふうなところが母性本能刺激タイプ。

貧乏叔父さんの女房、つまりおみねの叔母さん・荒木道子がいったんは借金をあきらめたが、おみねの決死の覚悟のおかげで2円もらえるとわかったときのばら色の笑顔がかなり怖い、っていうか荒木道子うますぎ。

第三話 にごりえ。

イキな兄さん・小池朝雄らが行きかう新開地。小料理屋の「菊之井」には先輩酌婦をアゴでこきつかうような生意気な酌婦、お力・淡島千景がいる。彼女の通称は「鬼ねえさん」だ。お力はこの店のナンバーワンなので主人・十朱久雄もどこか遠慮ぎみである。かつてお力に入れあげた職人の源七・宮口精二には口うるさい女房のお初・杉村春子と一人娘がいる。お力はある日、羽振りのよさそうな結城・山村聡と知り合う。品が良くて金離れの良い結城に酌婦一同・賀原夏子らは大喜び。

ある晩「菊之井」ではガラの悪い酔客・神山繁らがゲロ吐いたり、酌婦を庭に放り投げたり、身体を触ったりしたのでお力は怒って店を飛び出す。お座敷を勝手に中座するなどもってのほかだが、つくづく己の運命を呪うお力である。お力はそれでもつきまとう源七のことを憎みきれない。お力の父親も職人だったが稼ぎが悪く、ものすごい貧乏で母親はとても苦労してお力を育てていた。おつかいに出かけてやっと買えた食糧を転んで泥まみれにして泣いているお力を必死に探して叱らなかった母親のことが忘れられない彼女は源七の女房に対して申し訳なさ感でいっぱいなんだと、結城に打ち明けて泣く。

お初が源七にお力の悪口を言いまくって家を放り出された夜、お力が行方不明になった。「菊之井」ではお力が駆け落ちでもしたのだろうとうわさしていたが、翌朝、源七とお力が無理心中しているのが発見された。

原作を読んだ気になれる3部オムニバス映画。新劇ファンのみなさまにはノンクレジットで後の大物の若き姿を拝めるというプレミア付。

2007年08月19日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2007-08-19