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サラリーマン弥次喜多道中


■公開:1961年

■制作:東宝

■製作:安達英三郎

■監督:青柳信雄

■脚本:長瀬喜伴

■原作:

■撮影:完倉泰一

■音楽:松井八郎

■編集:

■美術:北猛夫

■録音:西川善男

■照明:森弘充

■主演:藤木悠、高島忠夫

■寸評:

ネタバレあります。


東宝のノッポブラザース(注:高島忠夫は新東宝出身)が繰り広げるサラリーマン珍道中もの。東宝で軽佻浮薄な二枚目(しかも長身でスケベ)とくれば宝田明だが、高島忠夫のちょっと垢抜けないボンボンな感じもグー。

女癖の悪いすちゃらか社員の喜多岡八郎・高島忠夫と酒癖の悪いおとぼけ社員の弥次野良平・藤木悠は農機メーカーの営業部員と宣伝部員である。当然の事ながら日常の素行および営業成績ともに芳しいとは思われない。営業部長・三木のり平(お、出世したな宴会部長)から「東京本社から京都支社まで東海道を営業キャラバンせよ」との業務命令を受けた二人は、送別会を自主的に開催、もちろん交際費で。バーで酔っ払った弥次野はホステス全員同伴出張を宣言、喜多岡はホステス・北あけみを口説いていた。翌日、二人は宣伝トラックで出発しようとしたがそこへホステス軍団が到着、同伴を言った言わないで大騒ぎとなるが社長・有島一郎の鶴の一声でその場は納まった。

秦野(神奈川県)あたりでエンコした自社製品を発見した二人はユーザーの百姓のジジイ・中村是好から無償修理か代替品の無償提供を迫られ、やむなく弥次野が汗まみれになって修理を担当している間に、喜多岡はその家の娘・野口ふみえを口説いていたが、お世辞でお褒めた農作物を高値で売りつけられてしまい、二人は改めて農家の厳しさを知るのであった。ようするに、ひたすらガメツク生きている人々が自分たちのターゲットユーザーであることを身をもって理解。

熱海に到着した二人は、温泉宿でのんびりくつろぐはずだったのだが、隣室の若い女・原知佐子と明らかに不釣合いな中年男・森川信とのラブアフェアに当てられてしまい飲み屋へ直行。ここで酒が入れば暴れん坊の弥次野が飲み屋の娘に絡んできた地元のチンピラをノックアウトしてしまう。ところがそのチンピラ風の老けた若造・谷村昌彦は熱海の農業組合長・柳家金語楼の愛息だった。山下敬二郎じゃなくて!それはともかく。お坊ちゃまのくせにあんな不良・岩本弘司と一緒にいるのが悪いんだ、とも言えるが馬鹿な子ほど可愛い組合長は息子の証言を一方的に信じて農機の購入を断ってきた。

沼津まで来て製品が一台も売れない、それどころか旅情満喫のし過ぎで大赤字出しそうな二人は本社に連絡したのだが、電話口に部長が出ているとも知らずに上司批判をぶちかましてますます窮地に陥る。ここまでやれば落ち込むのが常識的なサラリーマンであるが、モノをあまり考えない二人はあくまでも「明日があるさ」というモチベーションで営業キャラバンを続行。そして温泉宿のあやしい中年男が実は農機のディーラーの社長で、しかも若い娘はそこの従業員であることが判明。妻・千石規子に浮気がバレた社長は夫婦喧嘩の真っ最中。とても製品を買ってくれそうに無い。

ところがそこへ熱海の組合長が謝りに来た。喧嘩の原因は息子にあったというのだ。二人はこれで製品が売れると喜んだが、どっこいたった一台しか売れなかった。個人の義理や人情で農協の金を無駄遣いするなんてもってのほかなのだ。天晴れ!組合長!

そんなこんなで従業員の娘も「いつまでも愛人生活なんてやってらんないわ!」と新たな人生を踏み出す決意をしたようだし、道すがらオープンカーをぶっ飛ばす美女・白川由美も登場して明らかに続編の予感を残して二人は浜松を目指すのであった。

東京のお調子者サラリーマンが地方でカルチャーショックを味わいながら明るく旅する本作品には、まだ頭上を高速道路に覆われてしまう前の堂々と「橋」している日本橋や、車よりもでかい面して悠然と走る都電、交差点で交通整理をするオマワリさんなどついこないだまで普通だった東京の風景が垣間見れて楽しい。これだけでもこの映画が21世紀に生き残る価値があると言えよう。

高島忠夫と藤木悠と有島一郎といえば「キングコング対ゴジラ」である。あの映画から佐原健二と平田昭彦(様)を取り去ってみた、そういう映画。つまりサラリーマンの世界には、いわんや現実の会社組織においては純情熱血馬鹿や大人の知性なるものは存在しないかまたはリアリティがないのだと言える。コンプライアンスとかそういう「角を矯めて牛を殺す」ようなセコイ常識に縛られていなかった時代のおおらかな昭和のサラリーマンライフを堪能せよ。

2007年07月29日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2007-07-29