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■公開:1952年

■制作:松竹

■製作:山本武

■監督:野村芳太郎

■脚本:中山隆三

■原作:

■撮影:赤松隆司

■音楽:木下忠司

■編集:

■美術:平高主計

■照明:田村晃雄

■録音:西崎英雄

■主演:石浜朗

■寸評:

ネタバレあります。


鳩を飼育する少年といえば大島渚の「愛と希望の街(原題:鳩を売る少年)」が有名だが本作品のほうが先である。しかも、本作品の主人公は詐欺まがいの行為を繰り返したりせず、不注意で失った高価な鳩の弁済のため家出をしてしまうほど真面目である。そういう一途なガキほど危ないのであるが。

高校生の三浦勇・石浜朗が通学している学校では伝書鳩の飼育がブーム。金持ちの息子だが性格のよい友田一郎・磯貝元男に勧められ勇も鳩を飼いたいと思うようになる。勇の家は低所得で父の俊一・有島一郎、年頃の姉、秋子・美山悦子、祖母のとよ・草香田鶴子の四人暮らし。家もかなり狭いので当然のように鳩の飼育は父親に反対されるのであるが、勇は思い込んだら突っ走るタイプなので「全部一人で面倒見る」と約束しやっとこさ許可をもらう。

こういう子供の「一人でできるもん!」的な約束ってアテになんないんだよなあ、絶対に。

真面目な勇は台風の最中も鳩小屋を作った屋根に陣取り、ぼろっちい小屋を身体で風雨から守り抜く。ほっとしたのもつかの間、鳩小屋は野良猫に襲撃され、こともあろうに友田君のお父さん・北龍二から借りた超優秀なレース鳩だけが噛み殺されてしまうのだった。茫然自失の勇であったが、学校に鳩の死体を持って行き友田君に謝罪する。しかし友田君も鳩大好きっ子であったから、父親の鳩を失ってパニックに陥るのであった。口さがないクラスメートから「弁償しろ」やら「言い訳しても鳩が生き返るのか」やら言葉のストレートパンチを浴びた勇はどん底まで落ち込むのであった。

ここで頭の固い学級委員みたいな女子生徒、榎本・小園蓉子が勇をフォロー。「気にしちゃだめよ」ってオマエ、友田の気持ちにもなってみろってんだ!と思うのだが、榎本さんは地味な友田君ではなく、鼻筋の通った美少年の勇が大好きなのでエコヒイキは仕方ない。

昭和のお父さんは責任感と男気と愛情たっぷりであるから、見かけは頼りないけど昭和の父親である俊一が友田君の家に謝りに行ってやると勇を慰めた。しかし勇は鳩の弁償として2万円必要らしいと聴いて、実家の経済状態に鑑み、自力で資金調達を決意。翌日の早朝、家出してしまうのだった。もちろん責任放棄のためではなく職を探して金を稼ぐためである。

緊急事態発生に、俊一も友田君の両親および友田君も「思いつめやすい人にうっかりしたことは言えないね」ということに気づくのであった。その頃、勇はためた小遣いを持って山梨のぶどう園にいた。「身寄りのない少年」と身分を詐称し親切な農家の人に拾ってもらったのだった。勇は生真面目なので一生懸命働いて農家の少年にも兄と慕われるほどになっていた。

わずか5日間でこれだけの人間関係を構築するとは、将来は大物の予感であるな、勇は。

恋人の榎本さんに手紙を書いたことで居所が判明。友田君と榎本さん、そして父親の俊一たちは勇を迎えに現地に向かった。友田君と勇は和解し、無事だったことを伝書鳩で知らせるために友田君持参の鳩に手紙を添えて勇は鳩を放したのだった。

子供の浅はかな行為が招いた不測の事態に対し、大人が愛情をもって接すれば子供たちも愚かさに気づいて反省し成長する。いいなあ、こういう素直なお話は、心が洗われるね。

主演の石浜朗は当時、松竹の少年俳優、子役じゃない、高校生だから。凡百の同年代の少年たちと比較しても長身痩躯で彫りの深い顔立ち、綺麗な歯並び、こりゃあんたモテモテだよねーって感じ。同性からは思いっきりなジェラシー浴びるタイプ。こうしてみると石浜朗のキャリアってものすごく長いわけだ。

半世紀前の高校生は思いっきり笑って、歌って、泣いて、健康度百パーセントで実に清々しい。行動の幼さは見ていてちょっと気恥ずかしいけれど、いいな、眩しくて。単なる添え物映画に終わらせるにはモッタイナイ。きっちり理詰めで追い詰める手法はこの頃すでに完成?というわけで本作品は野村芳太郎監督デビュー作なのであった。

2007年04月22日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2007-04-23