「日本映画の感想文」のトップページへ

「サイトマップ」へ


江戸川乱歩猟奇館 屋根裏の散歩者


■公開:1976年

■制作:日活

■制作:結城良煕、伊地智啓

■監督:田中登

■脚本:いどあきお

■原作:江戸川乱歩

■撮影:森勝

■音楽:蓼科二郎

■編集:井上治

■美術:菊川芳江

■照明:熊谷秀夫

■録音:木村瑛二

■主演:宮下順子

■寸評:

ネタバレあります。


速水もこみちが若い頃の吉田輝雄に似ていると思い込んでいる筆者は、若い頃の石橋蓮司が中村獅童にちょっとだけ似ていると断ずる。また、石橋蓮司は若気の至りでアフロやリーゼントをギンギンにすると加齢とともに頭髪がダメージに敗北していくという現物モデルの一人でもある。

時代は大正である。浅草十二階(凌雲閣)は現代(平成十九年)において六本木ヒルズかはたまた東京ミッドタウンか、そういうオシャレな建造物を間近に見る木造の下宿屋。そこには前衛芸術家の美幸・渡辺とく子、救世軍をしている遠藤・八代康二、そして親の遺産でニート生活を満喫している郷田・石橋蓮司が住んでいる。郷田の怠惰な日常について説教するのを趣味としている救世軍の遠藤であるが、その禁欲的な生活に魔がさしたのか下宿で働く女中に懺悔をえさにして不埒な行動に及ぶのであった。

暇な大人がろくなことを考えないのは洋の東西を問わず、また時代を超えて不変なのであって、郷田はある日、押入れの天井板をはずして屋根裏に上り、各部屋の天井から節穴を通してノゾキ見するひそかな楽しみを思いつく。

下宿屋に運転手つきの自動車で通ってくる貴婦人、清宮美那子・宮下順子の部屋を覗いた郷田は、そこに道化師の格好をした男・夢村四郎が待機しており、強姦プレイに突入するのを凝視。郷田の視線に気づいた美那子は声を上げるどころかますますエキサイトしてくるのであった。郷田に視姦されながらプレイに及ぶなんてWで嬉しい下宿屋通い、美那子大満足。

綺麗な花ほど汚してみたい、そんなモテなくて、金もなくて、ダサい野郎の欲望に身をゆだねる快感がエスカレートしてしまった美那子は、成金の夫・長弘とのノーマルセックスに全然感じない。美那子の秘密を知っている運転手、蛭田・織田俊彦もまた同じ穴のムジナ、というよりもプレイの協力者として美那子が日常使用している椅子に入り込み、人間椅子プレイに興じるのであった。

変態というのはその刺激に対する欲求に制限がない。金と暇があったらなおさらである。

郷田と美那子の興味はある1点で偶然の一致っていうか刺激の中では頂点の楽しみを発見してしまうのであった。美那子は努力、いや違った、女の股(又)の力で絶頂期の道化師を絞め殺してしまう。その頃、郷田は道化師からピエロの衣装を買い取り赤線で女郎相手にセックスするが、女郎はまじめな(少なくともこの映画に出てくる他の連中に比較して)労働者であるからそんな変態プレイを受け入れてくれるはずもなく拒絶されてしまうのだった。

世間はそんな甘くないんだよ、このニート野郎!というわけで彼はまた屋根裏生活に逆戻り。

郷田は大いびきをかいて寝る遠藤の口に薬物を投与して殺害する計画を実行に移す。「サルのセンズリ死ぬまで止まらん」のことわざ(嘘)のとおり殺人という究極の刺激に目覚めた美那子は夫に砒素を盛り殺害、さらには椅子に潜んだ蛭田を酸欠に追い込んで殺してしまうのだった。郷田と美那子は互いに惹かれあい、互いに身体に同属の証を刻んで、二人が始めて「出会った場所」で契りを交わす。そこへ大きな地震が襲いかかった。

地震は関東大震災であった。なにもかも瓦礫の下に埋まり、すべては焼失してしまった。人生のリセットに成功したのか、はたまたあまりのショックに発狂したのか、女中は今日も元気に井戸を汲むのであった。

大の大人がうろちょろして下の人間に気づかれないということはよほど、梁や天井板が丈夫じゃないとありえない。っていうかそんなものすごい天井板なんてないと思うのだがそれはさておき。天井裏の暗さと外の世界の明るさの対比。郷田が見つめる窓からは十二階が見えるのだがそこには頑丈な網がかけてあって、出れない。閉塞感ともに奇妙な優越感やら居心地のよさがある。郷田にとっては絶対安全、いわば母親の子宮に戻ったような気分だったのではないか。

同じ明るさでも節穴から覗ける世界はまた生々しく隠微。同じ光の中に生きてる人間の極端すぎる二面性。

ラストシーンで女中がくみ出す井戸水が見る見る血の色に変わっていくのは、美那子と郷田の身体の血管が吹き出したのかもしれない。人間の業を吸い込んだ大地のほんの小さな穴から吹き出した欲望の噴水。

いやあ奥が深いですなあ、日活ロマンポルノって。

大正らしさを演出した美術の頑張りはすばらしく、コンクリート製の電柱に茶色の布を巻きつけて木製っぽく見せるなど実に涙ぐましい。尋常でない壊れ方をしている畳の擦り切れ具合や布団のぼろぼろ加減もグー。ただ一箇所、蛭田が郷田を乗せた自動車が通過するとき車の窓に赤白のだんだらペイントのガードレールが一瞬だけ映り込むシーンがあって実に惜しい。デジタルリマスターの際にはこっそり消しておいていただけると嬉しいな。

2007年04月15日

【追記】

※本文中敬称略


このページのてっぺんへ

■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2007-04-15