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人生のお荷物


■公開:1935年

■制作:松竹

■制作:

■監督:五所平之助

■脚本:伏見晁

■原作:

■撮影:小原譲治

■音楽:堀内敬三

■編集:渋谷実、森信

■美術:五所福之助

■照明:水上周明

■録音:土橋晴夫

■主演:斎藤達雄

■寸評:斎藤達雄の箸の使い方がやたらと変。

ネタバレあります。


売れない画家の栗山・小林十九二はモデルを雇えないので妻の逸子・田中絹代のセミヌード姿を描画中。「ねえ、あなたあ、風邪ひくわあ」って色っぽい声だしちゃう逸子。カンバスに描かれた婦人像には生のオッパイがどーんと、ってまさかそんなモノが画面に出てくるわけがないので、そこのスケベ!期待しちゃダメだって。栗山の家に訪ねて来たのは逸子の姉の妻、つまり栗山の義理の兄で医者の小見山・大山健二である。小見山は妻の高子・坪内美子と喧嘩したら出て行ってしまったと言う。カンの良い逸子は早速、実家へ向かうと、そこには末の妹、町子・水島光代の結納の準備に忙しい母のたま子・吉川満子と、喧嘩したら腹が減ったのか?うどんをすする姉の高子がいた。

ワンピースにフォックスのショールをまとったモダンな逸子と、日本髪を結った高子が、火鉢挟んで亭主を愚痴るという光景がちょっと新鮮。

この家の主人、福島省三・斎藤達雄は初老のサラリーマン。一番下の娘が超カッコいい軍人・佐分利信に嫁ぐことになりやれやれ、と思いきや。この家にはもう一人、長男の寛一・葉山正雄が残っていた。まだ小学生ということはこの夫婦、五十を過ぎてからの子宝である。やるなあ、省三。高齢出産の満子としてはかわいくてしかたないのだが、一家の大黒柱としては、じゃあなにか?七十ちかくまでコイツのために働かなければならないのか?これから夫婦水入らずと思っていたのに割り込んだトンだ邪魔者じゃないか(おいおい)と言いたい放題。おまけに顔も不細工だから(って半分はオマエの責任だろうが)嫁の来てもないだろう、とまあ省三の八つ当たりは続く。

そんな家庭の空気を察している寛一は女中のお浪・六郷清子には懐くが父親の顔見るとユーウツになり、飯も喉を通らない。

あんたがヤったから生まれたんでしょうが!とでも言い返すかと思いきやそんな下品な事を言うわけもなく、昭和の母は一人息子を邪険にする省三に対してついにキレてしまい、逸子の家に寛一と一緒にプチ家出してしまうのだった。ふてくされた省三は夜の街に出る。寛一と同じくらいの子供が花売りをしてボーイにつまみ出されたり、未成年の女給・小桜葉子がタバコをスパスパと吸うのを見た省三は、寛一を商家に丁稚奉公させようとか、捨てちまえ!みたいなことを考えていた自分の態度を深く反省する。

しかし、いざ子供を大事にしようと思っても急には無理。ところが寛一、うっかり省三がいるほうの家へ戻ってきてしまったのでこれはチャンスとばかりに省三は、久しぶりの親子の会話を楽しむ。もうすぐ町子が新婚旅行から帰ってくる。寛一の元気な電話の声にたま子も家に帰る決心をするのであった。

逸子は亭主の絵の才能がないのを逆手にとって母親から小遣いを失敬して、あまつさえその金でパーっとやっちゃう豪傑だ。母親のたま子も駄々っ子みたいな亭主によく仕え、子供四人も育て上げ(一人は仕掛かり中ではあるが)た肝っ玉母さん。「四丁目の夕日」よりも二世代、「サザエさん」の一世代前、といったところか。日常の細やかなエピソードを並べて客をくすぐる冒頭から、われとわが身の老いを実感しつつ、小さな子供の教育費とか養育費とか行く末とか、そういうものにまだ悩まねばならない葛藤まで、正味1時間の尺でオチをつけているのはお見事の一言。

ところで、ぶつくさ文句をいいながら飯を食ったからではないと思うが、斎藤達雄の箸の使い方があきらかにヘンテコである。人差し指だけで固定する握り方なのでどうしても安定性を欠き、口を食べ物に持っていくような形になるため、あまり見場がよろしくない。小市民生活のリアリティなのか、それともお母さん(本物)の躾ミスなのか(謎)。

子供に文句言うくらいなら、お前のマナーのほうを先になおせ!と突っ込みたくなったぞ。ま、しかし、斎藤達雄ファンとしては、きゃっ!カワイイ!って感じではあるが。

父親の斎藤達雄が憎々しげに息子の寝顔を見つめる様は切ないけれど、田中絹代のようなポジティブシンキングもまた父親と母親のDNAだろうから、この夫婦はきっと長男の結婚式にヨボヨボになっても駆けつけることだろう。裕福ではないけれど、幸福感のある世界。

末娘の結婚相手の佐分利信は設定では軍人さんなのだが、それも定かにならないくらいの瞬間出演である。若くてカッコいいのでもっと見たかった。

2007年04月01日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2007-04-01