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トイレット部長


■公開:1961年

■制作:東宝

■制作:金子正且

■監督:筧正典

■脚本:松木ひろし

■原作:藤島茂

■撮影:玉井正夫

■音楽:神津善行

■編集:

■美術:村木与四郎

■照明:隠田紀一

■録音:伴利也

■特撮:

■主演:池部良

■寸評:

ネタバレあります。


とりいかずよし作「トイレット博士」とは縁もゆかりも無いので池部良ファンの方々は安心しなさい。出てくるのはトイレだけで、ウ●コとかは出てこない。

池部良とトイレ。このカップリングだけで筆者にとってこの映画は百点満点だ。

原始人から現代人まで人間が排泄なくしては生きて来れなかったことを、ご丁寧に寸劇で紹介するオープニング。学芸会のようなセットでトイレの様式を実演付で紹介してくれるのは、腰蓑つけた半裸の土人・池部良、中世日本の貴族・池部良、鎧兜の戦国武将・池部良、そして国鉄(現・JR)のトイレ掃除のおじさん・池部良。そして今や(当時)水洗便所が主流なんだといわんばかりの画面いっぱいに降り注ぐシャワーの中から堂々と「トイレット部長」のクレジットがどかーんと出る。

池部良が草むらにしゃがんで「はあああ(極楽)」という顔するだけでこの映画は二百点満点だ。

国鉄の営繕課勤務の笠島・池部良は、人妻にしておくにはもったいない美人の妻、友子・淡路恵子と天才子役、じゃなかったお父さんの悪いところばかりまねする元気な長男、稔・島津雅彦を養う一家の長である。営繕課というのは施設の管理設計をするところで笠島の主たる担当はトイレ、つまり駅の便所の改善をすることなのだ。世間体を気にする友子は自分の夫が「駅弁」ならぬ「駅便課長」と呼ばれていることにちょっぴりブルー。笠島はとても仕事熱心なので食事中でもおかまいなしに話題はトイレなのである。

池部良が新聞持ってトイレから出てくるだけで筆者にとってこの映画は三百点満点だ。

笠島の部下はお調子者の大場・藤木悠、新入社員の三上・久保明。職場では毎日、便器のデザインやトイレで過ごす時間のリサーチや和式便所でどちらを向いて用を足すか?といった検討テーマについて熱いトークが交わされている。大場はともかく、若い三上には辛い仕事である。そんなある日、笠島の姉、さわ子・沢村貞子の娘、純子・浜美枝が美容師を目指して静岡から上京してくることになった。

池部良が出勤するとき長身を小型車に折り曲げて必死に我慢するだけでこの映画は四百点満点だ。

若い婦女子が一つ屋根の下に同居するとなったらソワソワしちゃう友子であったが実は心配のタネは笠島の職業のほうだった。そりゃあなた「夫はトイレの仕事してます」なんて、ねえ?若くて元気で美人の純子は三上と知り合い一目ぼれ。友子との仲がギクシャクしだした笠島は偶然出会った幼馴染の克代・森光子とぐでんぐでんになるまで飲んでしまい、とうとう友子に愛想尽かしされてしまう。

酔っ払った池部良が敷布団に頭から突っ込んでジタバタするのを見ていて、高倉健が「あにき」(テレビドラマ)で寝ぼけて枕に噛み付いたシーンを思い出してしまうのは邪道だ。

なんだかんだあって純子と三上は結婚することになった。夫婦仲は最悪の状態だったが仲人をひきうけた笠島は「夫婦はお互いに鼻につくようになってから本当の愛情が沸く」という友子に宛てたメッセージを何気に飛ばして夫婦仲も一気に改善。

笠島は課長なのだが、夫に惚れ直した友子は「今日からあなたを家ではトイレット部長と呼ぶわ」と家庭内出世させちゃうのであった。それでウキウキしちゃうところがホント、良ちゃんったらカワイイ!しかし亭主のニックネームに「トイレット」ってのはいかがなものか?

特撮映画では毎回、熱血主人公の久保明であるが本作品ではナイーブな若手社員。おまけに夜道で浜美枝に痴漢と間違われて思いっきり空手チョップされてしまう。浜美枝に岡惚れする美容学校の同期生に桂小金治、講師が塩沢とき、事務長が十朱久雄、どういう学校なんだか、まったく。

原作の藤島茂は実在の人(当たり前だって!)で国鉄で当時和式の便器をいかに綺麗に使ってもらえるか本当に研究していた人だそうだ。大災害などが起きたとき一番に問題になるのはトイレである。あなどれない。特に駅のトイレはそのユーザー数の多さとニーズの多様さにおいてきわめて重要な研究テーマである。「きたない、くさい、詰まる」という難題に日々取り組む池部良、っていうかそういう仕事こそ尊いんだと真面目に思う。トイレット部長というインパクトの強いタイトル、単なるお笑い映画と思いきや職業に貴賎なしを身上(心のよりどころ)とするサラリーマンの琴線に触れるテイストなのはさすがサラリーマン映画の東宝。

2007年03月18日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2007-03-18