脅迫（おどし）

■公開：1966年

■制作：東映

■企画：秋田亨

■監督：深作欣二

■脚本：深作欣二、宮川一郎

■原作：

■撮影：山沢義一

■音楽：富田勲

■編集：祖田富美夫

■美術：北川弘

■照明：元持秀雄

■録音：大谷政信

■特撮：

■主演：三國連太郎

■寸評：

ネタバレあります。

キレた三國連太郎は無敵である。

小市民のお父さんとして東京の郊外の新興住宅地にへばりつくような平屋の一戸建て（しかもまだ汲み取り式の便所）に住み、無学だがセックスだけは強そうな小太りの妻・春川ますみを得て、こまっしゃくれてはいるが一応お父さんを尊敬している昭和の子供の典型のような長男・保積ぺぺをもうけた、広告代理店の営業部長、三沢・三國連太郎は、上司の不倫も見てみぬふりをしてひたすらまじめに働いているのだった。

部下の結婚式から帰った夜、この一家に不幸が訪れる。

公明な医者である坂田博士・三津田健の娘・中原早苗の子供、つまりかわいい孫（まだ赤ちゃん）を誘拐した脱獄囚、サブ・室田日出男と川西・西村晃が三上の自宅へ逃げ込んできたのだった。畑の中の一軒家であるから、いくら安普請でも大声をあげたくらいでは近所に気づかれることもない。ちょっと不釣合いな高級乗用車も持っているから金はある、つまり堅気であるから反撃される心配も無い、実にいいところに目をつけた二人組みである。反対に、三沢一家にとっては災難以外の何物でもない。

昼間、巡回の途中に立ち寄った巡査・田中邦衛に発見されそうになるなどヒヤヒヤしつつ、意地汚いサブはこともあろうに妻の肉体を狙う。帰宅した三沢は思わず妻の横っ面をビンタ、挙句にセックスまでしてしまうのだった。こんな大変なときに何やってんだか？という気もするが、このあたりから小市民の予想外の行動が開始されるのであった。

春川ますみにのしかかる室田日出男を見ていると「人妻集団暴行致死事件」を思い出してしまうのだが貞淑な妻は必死に抵抗し、未遂に終わる。三沢のセックスと脱獄囚のソレを対比するならば、いずれもストレスのはけ口という点で一致しているので差はない、いや、あるけど。

ナイフと拳銃を所持した二人組みは坂田博士から身代金を奪取すべく、その代理人に三沢を指名。妻と被害者の赤ん坊を人質にとられているので川西の命令に背けない三沢は、デパートの屋上でランチ（っていうかどっかから拾ってきたコッペパンかじってた）中のホームレス・内田良平に金の受け渡しを依頼するが案の定、私服の刑事が張り込んでおり無実だがいかにもあやしいホームレスは身代わりとなって逮捕されてしまう。

金を置いて逃げ切った三沢は放心状態となり、いっそどこか遠くへ逃げようかとも思うのだが、駅でのんだくれの土方・沢彰謙がへたばっている傍らでじっと寄り添う超カワイイ少年・下沢広之の姿を見て、あらためて親子の絆の深さに感動した三沢は、腹をくくって帰宅。ストレスがピークに達したサブにボコボコにされるも、その目に宿った野獣の光（っていうかテロリストとか演ってるときの三國連太郎の目）を川西は見逃さなかった。

翌日、再び坂田博士に接触した三沢はまんまと身代金をゲット。取引場所の近傍で車の中に潜んでいた妻子と赤ちゃん、および脱獄囚の目前に姿を現した三沢は彼らを挑発するかのような行動をとるのだった。

父よあなたは強かった。とまあこういうオチなのだが、父性による火事場の馬鹿力というよりも、ちょっと危ないお父さんに見えてしまうのはご愛嬌だ。だって演ってんのが三國連太郎だから。

この映画の当時、三國連太郎は東映の専属を解約されてフリーだったが、すぐに自分をクビにした東映の映画に出演したわけだ。東映のなりふりかまわぬ営業姿勢もすごいが出ちゃう本人もよくわからない。深作欣二にとっても興行成績の振るわなかった頃で再起を賭けた1作であったそうだ。スクリーン外では業の深そうな映画だがオチはわりとあっさりめ。

ゲリラ撮影っぽい都心のロケが効果絶大。一般大衆に三國連太郎がまざると目立つことこの上ないが、群集の渦にもまれる一人の男が抱えた大きな問題、彼以外は何事もなく時間が流れているという事実が、日常にぽっかり空いた落とし穴のような悲劇にさらされている主人公の立場をこれでもかとばかりに観客へ突きつけてくる。

当時、三國連太郎は４３歳だが、息子の佐藤浩市（平成十九年時点で４６歳）に間違いなくよく似ている、当然のことながら父親のほうが数倍カッコいいがＤＮＡって凄い。

（2007年03月18日 ）

【追記】

※本文中敬称略

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