その壁を砕け |
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■公開:1959年 ■制作:日活 ■企画:大塚和 ■監督:中平康 ■脚本:新藤兼人 ■原作: ■撮影:姫田真佐久 ■音楽:伊福部昭 ■編集:辻井正則 ■美術:千葉一彦 ■照明:岩木保夫 ■録音:橋本文雄 ■主演:長門裕之 ■寸評: ネタバレあります。 |
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目に見えている壁は根性で乗り越えられるが、人の心にできた見えない壁を乗り越えるには勇気が要るのである。小高雄二は端正な二枚目だが演技が硬直気味なので今ひとつ印象に残りにくい。 貧乏な自動車修理工の三郎・小高雄二は禁煙までして金をため新品のワゴン車を購入する。新車をおまけ価格で売ってくれたディーラー・佐野浅夫や修理工場の先輩・垂水吾郎も感心するほどまじめな三郎であった。新潟で看護婦をしている恋人、とし江・芦川いづみを新車でお迎えに行く三郎は途中、食堂でドカ食いしてスタミナ十分。徹夜で三国峠を越え、待ち合わせ場所の新潟駅の手前にある村にさしかかった三郎は真夜中に白いコートを着た若い男を便乗させた。ど田舎に似つかわしくない都会っ子風のその男は天神橋の手前で下車する。何の疑いも抱かず駅を目指していた三郎は突如、警官たちに車を停車させられ連行されてしまうのだった。 わけのわからない状況に大暴れの三郎。実はその夜、その村の郵便局を営む谷川家の当主、徳蔵が脳天を鉈でカチ割られて即死、一緒に寝ていた女房の民子も重症、手提げ金庫から15万円が消失していたのだった。犯行推定時刻にたまたま郵便局の前を車で通り過ぎた三郎に強盗殺人の容疑がかけられている。おまけにアタマ割られて呆然としている民子が三郎めがけて「犯人はこの男だ!」と叫び、同居していた長男の元嫁でいまは後家さんの咲子・渡辺美佐子が裏口に逃げる男の足音を聞いたと証言したために、物証と目撃証言のみで三郎は逮捕されてしまう。 大手柄をあげたのは村の駐在所勤務の森山巡査・長門裕之で、本署の警部・西村晃、署長・清水将夫からも褒められていい気分。裁判に備え圧倒的に不利な三郎の弁護を依頼すべく、新潟からとし江がかけつけ、心優しい署長の紹介で、風体はダサいが有能な弁護士、鮫島・芦田伸介のもとへ向かう。とし江の、三郎を信じる気持ちに感動した鮫島は弁護を引き受ける。その頃、森山は三郎の公判を傍聴していた。あんなに一生懸命働いて手に入れた三郎のワゴン車が証拠物件として雨ざらしにされパンクまでしていたのを見て、なんとなく三郎が人殺しとは思えなくなっていたのであった。傍聴席にはなぜか咲子がいた。鮫島に連れられて入ったうどん屋でとし江を見た森山は「心象シロ」を確信した。 森山は咲子に惚れていたが彼女は再婚して佐渡島にいるという。咲子は村に来ていた石工・神山繁と夫婦になっていたがどうも二人の態度が怪しい。森山はますます三郎の無罪を信じて一人で再捜査を開始、そしてついに天神橋のたもとで挙動不審のコートの男を発見する。後を追う森山、汽車に乗って東京へ向かった男を上野駅近傍のホテルで見失い、万事休すと思いきや、彼はホテルの一室で頭を割られて死んでいた。 1台の車を手に入れるために必死で働いてこれから結婚するぞ!っていう人間が行きがけの駄賃のように人を殺すだろうか?物証はあるけど不十分、現場にいた被害者の証言、それも脳天割られた直後のばあさんの証言一本にすがった捜査ってどうよ?そして事件当夜、犯行推定時刻に自動車のエンジン音を聞いていた石工の親方・松本染升と一緒にいたのは森山であった。どう考えても犯行は時間的に無理なのでは?というわけで事件は詳細な実地検証を行うことになった。 地道な検証に判事・信欣三は民子の証言の証拠能力を覆すヒントを見つけ出す。そして、第一発見者であったはずの咲子が実は、納屋で石工といちゃいちゃしてたところへ偶然、犯人が姿を見せたため実は顔を目撃していたことを告白し、三郎の無実は立証される。いきなり咲子が「嫁ぎ先で邪魔にされてさびしかったのよおお」と語りはじめたときは「おいおい、そんなのどうでもいいだろ?」と思ったが、よそ者=三郎=不審者という田舎ヤな部分のダメ押し。実地検証に同行したとし江に「人殺しの情婦」呼ばわりの上に卵を投げつけた近隣住民に対してマジギレしたのは森山であった。 出世もなにもなげうって三郎ととし江のためにガンバッタ長門裕之、すげーかっこいいぞ! 新品のワゴンがいよいよ廃車寸前となったところで真犯人逮捕の光明がさし、そこへ大粒の雨が降ってきてホコリだらけの車体がみるみるうちに洗われていく。この自動車の使い方が実に気が利いている。最初、東京を出発したときは抜けるような青空、事件に巻き込まれる予感を示す真っ暗な峠の道、そして無罪となった二人が近隣住民に向けて高らかなクラクションを鳴らしながら村を去るときにはまた青空(白黒だけど)である。やっぱ映画は絵が語らないとダメだわね。 (2007年03月04日 ) 【追記】 |
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※本文中敬称略 |
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file updated : 2007-03-04