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散歩する霊柩車


■公開:1964年

■制作:東映

■制作:

■企画:秋田亨

■監督:佐藤肇

■脚本:松木ひろし、藤田伝

■原作:樹下太郎

■撮影:西川庄衛

■音楽:菊池俊輔

■編集:

■美術:進藤誠吾

■照明:城田昌貞

■録音:小松忠之

■主演:西村晃

■寸評:挿入歌「散歩する霊柩車」の作曲者は西村晃(歌も)。

ネタバレあります。


西村晃は本作品を自薦で好きな作品だと言っていたらしい。そんな西村晃がちょっと好き。

ジャンボなお色気を振りまく麻見すぎ江・春川ますみは、人妻だが誰にでも身体を振りまいてしまうため、小柄で貧乏なタクシー運転手の夫、弘・西村晃は気が気ではない。ある日、自宅のおんぼろアパートで浮気の証拠をすぎ江に突きつけた弘は、シラを切るすぎ江の首に手をかけてしまう。小柄といっても一応、男であるから本気でやったら力は強いのである。

すぎ江の遺体を霊柩車に乗せた弘は、霊柩車の運転手、毛利・渥美清に、結婚式場へ行くように頼む。代議士を目指す実業家の北村・曽我廼家明蝶はすぎ江のセフレであった。弘は北村に棺おけを見せ、すぎ江は自殺したのだが残された遺書のイニシアルY.K.を探し出して復讐したいと言う。即座に肉体関係を否定した北村であったが、動揺は隠せない。その場はあっさりと引き上げた弘であった。次に向かったのは大病院、ここの外科部長、山越・金子信雄もすぎ江と肉体関係があった。

実は、すぎ江は生きていて、関係のあった男たちから金を強請ってトンズラしようと弘にもちかけたのだった。肉欲におぼれていた弘の金銭欲をも刺激したすぎ江。実はすぎ江にはもう一人、若くてハンサムな青年、民夫・岡崎二郎という男もいたのだが、彼は恐喝ターゲットではなかった、貧乏だったからである。

こそこそと金を持ってきた北村と取引した夜、計画に万全を期すためにすぎ江は自宅を離れ、山の上ホテルに宿泊した。しかし途中、北村に顔を見られてしまった。しかし根が小心者の北村は幽霊だと思い込んでびっくらこいて死んでしまう。ホテルに到着したすぎ江は誰かと待ち合わせをしているようだった。匿名の電話で呼び出された弘は、すぎ江の隣の部屋へ宿泊した。弘が覗き見した隣室では、こともあろうに外科部長の山越がすぎ江といちゃいちゃしている真っ最中であった。

恐喝作戦の影の首謀者は山越であった。すぎ江にまたもや裏切られた弘であったが、ここでも悪賢いすぎ江はあっさり改心してみせたので、弘は山越を殺害してしまう。大金を手にしたのはいいが、二人も殺してしまった(結果的に)弘とすぎ江は遺体を大病院の霊安室へ隠す。アパートへ戻った二人、しかしすぎ江は弘に睡眠薬を与えて金を奪う。若い民夫のもとへ走ったすぎ江であったが、実は彼には恋人・宮園純子がいたので「ポルシェがほしい」という民夫の心を(っていうか肉体を)大金でつなぎとめようとした彼女が持ってきたはずの包みを開くとそれはすぎ江の死亡通知の束だった。

やるな、弘、やっぱ肉体より金か。

逆上したすぎ江は、大金を手にしても「地道に百姓でもやろう」という発想が貧乏人の弘を捨てて、金を独り占めしようとするが返り討ちにされる。今度こそちゃんと死んだすぎ江の遺体を積んだ霊柩車は毛利の運転で火葬場へ向かった。しかし、毛利は火葬場ではなく墓地へと車を走らせた。毛利は最初からすぎ江が生きていたことを知っていて、すべては恐喝のための二人の芝居であることを見抜いていた。口止め料を要求してきた毛利と話し合うために、弘は彼を森の奥へ誘った。

戦後の日本映画において(そんな大そうなこと言える身分じゃないですけど、はい)上質な大人の喜劇をまともに演じられた唯一の俳優は西村晃だと断言しよう。多少、エロ方面に走った菅貫太郎も捨てがたいのであるが。

その西村晃がノリノリなのである。霊柩車かっ飛ばしながら歌なんか歌っちゃうのである、あの顔で。とはいえ、西村晃のマスクは戦前(第二次世界大戦だってば)に活躍したフランス人俳優のルイ・ジューベ似の彫りの深い、どちらかというと二枚目なのだ。そういう端正な顔がちょっと笑ったりすごんだりすると表情の変化が大きいものだから喜劇よし、悲劇よし、人情劇よし、善良な小市民からいかれた殺人鬼までなんでもできちゃうわけだ。しかも、下品にならない、役を馬鹿にしてない、そういう俳優が今、本当にいないのが悲しい。

それと、この映画では出てくる人が片っ端から怪しい。映画のタイトルからして誰が幽霊になって化けて出るか?とわくわくしていたのだが、本作品は怪談映画ではなく良質のブラックユーモア映画であった。日本で成功したブラック映画というのも珍しいのではないか?ホテルのフロントマン・大辻伺郎、病院の守衛なんかホントに顔出し程度なのに加藤嘉小沢昭一という豪華キャスト(役柄に比べて)であるし、霊安室の番人なんて、もう自分が霊体化してるんじゃないか?という感じの浜村純。このほか、死体を運ぶタクシー運転手・花澤徳衛といういぶし銀も登場するので油断もすきもない。

出演者がみんなで大真面目に、そして楽しげに演じるブラック喜劇のラストはこれまた仰天シーンなので最後の最後までお見逃しなく。

2007年02月11日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2007-02-12