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ローレライ


■公開:2005年

■制作:東宝

■制作:亀山千広

■監督:樋口真嗣

■脚本: 鈴木智

■原作:福井晴敏「終戦のローレライ」

■撮影:佐光朗、中根伸治

■音楽:佐藤直紀

■編集:奥田浩史

■美術:清水剛、松浦芳

■照明:渡邊孝一鈴木静、、安藤和也

■録音:

■特撮:

■主演:役所広司

■寸評:「潜水艦 イ−507降伏せず」の忘れ物。

ネタバレあります。


 ローレライとは船人を惑わし海難事故を誘発する「歌うたい姫(声)」。当時は「耳=聞く」しかなかった潜水艦のセンサーに「目=見る」機能を追加した架空のスーパー潜水艦(の装置)が物語の主役。エスパー少女を搭載した3DCG潜水艦が活躍するトンデモSF戦争映画とでも呼べばいいのか。おそらくは「イ−57潜水艦降伏せず」を観ずして本作品を鑑賞したらこういう感想を持ってしまうと思われるので、時間を無駄にしたくない貴兄はぜひに「イ−57・・・」をなんとかして一見した後に「ローレライ」を観たほうがよろしい。

 太平洋戦争末期、広島に原爆が投下され日本の敗戦が濃厚になった、というかほとんど負け状態の日本。帝国海軍の浅倉大佐・堤真一は命令違反で艦長をクビになった絹見少佐・役所広司に、降伏したドイツから供与された秘密兵器、大型潜水艦イ507の輸送という極秘任務を命ぜられる。

 乗員は先任将校の木崎・柳葉敏郎を除いては新顔ばかり。出自も様々で南方戦線の生き残りや特攻兵器の「回天」操舵手、軍属技師の高須・石黒賢など一癖も二癖もありそう。若い兵隊の折笠・妻夫木聡と清水・佐藤隆太は「N式潜」と呼ばれる装置に忍び込み、そこでエロいボンデージ衣装の美少女と遭遇する。敵の駆逐艦と遭遇したイ507は戦闘態勢になり、折笠が操舵を担当、エロい少女は全身をセンサーと化し、3D映像により敵の位置を正確に表示するというN式潜の人間兵器なのであった。

 長崎出身の折笠は人間兵器、ことパウラ・香椎由宇と仲良くなる。人の心もセンシングしてしまうパウラが折笠の記憶とシンクロしてしまったその瞬間、長崎に2つめの原爆が投下され、パウラはびっくりして気絶してしまう。ナチスドイツによって改造されたパウラは所詮生身なので負荷をかけるとわりと簡単にクラッシュしてしまうのであった。

 突如、潜水艦を占拠した技師の高須と南方帰りの掌砲長、田口・ピエール瀧ら軍上層部に恨みを抱いていた者たち。日本の国土を徹底的に破壊しシステムから体制からなにからなにまで新しく蘇らせようとする浅倉大佐の野望を知った絹見は、情実作戦で反乱者たちを説得。「若い者の血を無駄に流すな」の一言で男気に目覚めた田口が高須を相打ちで仕留める。野望が失敗に終わったことを知った浅倉大佐は、勝ち目がないから早く終わらせましょうという海軍将校たち・伊武雅刀大河内浩らの目前で自決。

 いやあ、大戦末期の海軍将校たちに向かって「戦後は言い逃れしてヌクヌク生き延びるつもりなのか?」って言い切っちゃうなんて、ねえ?凄いや浅倉さん。そんな浅倉大佐に心酔していた若い兵隊が和平工作に赴く途中の西宮・橋爪功を暗殺。かけつけた良識派の将校・鶴見辰吾のオーバーアクトにうんざりしている間もなく、事態は急転直下の様相。

 ローレライの見返りに「東京に第三の原爆を投下する」という合衆国との密約を阻止すべく、テニアン島へ向かうイ507。ほとんどヘナチョコだったパウラも最後の見せ場に根性出して機雷の雨を回避、イ号は発進寸前のB29を撃墜する。敵艦隊に包囲される中、N式を離脱させ逃した絹見たちに集中砲火が浴びせかけられたが、合衆国はイ507の残骸はおろか一人の遺体も発見できなかった。

 当時の生き残りで、最後にローレライの歌声を聞いた米軍海兵は、事件を取材していた作家・上川隆也からローレライの正体を聞かされ唖然とするばかりであった。

 真夏のテニアンで汗ひとつかいてないのがアレですが、それはさておき。

 戦争を終結させるために極秘任務につく潜水艦、謎の美少女、ごはんを食べてくれない少女がやっとアイスクリームを食べてくれたので喜んじゃう若い兵隊、そしてなによりその艦名からして「イ−57潜水艦降伏せず」との関連性がヒシヒシ。軍人として死ぬ以外に「生きる」術をしらなかった男たちの物語が先の作品ならば、人としてどう「生きる」べきかを優先した21世紀の本作品。戦争を愚かな行為と言い切れるのは時代性のなせるところであるけれどもストレートすぎるのが幼稚であるけれども、これくらい正直に言ってくれたほうが余計なことを考えずに済むと言うものである。

 で、ちなみに特撮については超ダサい。先の作品は、ホンモノ(海自の初代「くろしお」)とミニアチュアであったが本作品はどうだどうだの3DCG。喫水線がピクリとも動かないわ、外洋で首出してんのに風速ゼロ(「イ号・・・」のときは少年兵の水葬シーンで長身痩躯の池部良が吹き飛ばされそうだった)だわ、セットはちゃっちい(「イ号・・・」のときは駆逐艦とかも一部ホンモノ)というわけでかなりなトホホ。

 はっきり言ってそこさえ無ければ、また、原作ファンからのブーイングに耳を塞げば、「イ号」へのオマージュとして、良ちゃん(注・池部良、正確には池部良が演じた艦長)と観客の慙愧の念をはらしてくれただけでこの映画は筆者としては全然オッケーだ。若い人を殺しちゃイカン、が、野球のボールに命を懸けてしまった清水はちょっといかがなものか、という気はするのだが、ボール大事にするのはいいけど「折笠〜!」って助けを呼ぶのとそのナウいヘアスタイルだけは勘弁だ。坊主頭で黙って逝ってたらもれなくヒーローだったのにね。違う意味で惜しい人を亡くしましたな。

 ところでヒルマン監督みたいな顔した敵艦の艦長は「愛情物語」のタイロン・パワーの息子だそうだ。どうりで濃い顔だわ。

2006年12月03日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2006-12-03