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姑獲鳥の夏


■公開:2005年

■制作:日本ヘラルド

■制作:荒井善清

■監督:実相寺昭雄

■脚本: 猪爪慎一、」阿部能丸

■原作:京極夏彦

■撮影:中堀正夫

■音楽:池辺晋一郎

■編集:矢船陽介

■美術:池谷仙克

■照明:牛場賢二

■録音:藤丸和徳

■特撮:

■主演:堤真一

■寸評:

ネタバレあります。


 いしだあゆみを蹴り倒してダッシュする原田知世を拝めるだけでこの映画は百点満点である。カエルのような赤子、それは「無頭児」(「ブラックジャック」参照のこと)っていうヤツ、ある年齢以上の人たちにはトラウマ。あの「クエ・・」という力ないフキダシ。ゆえに「おぎゃあ」という本作品の産声SEに違和感を覚えた方も多かったはず。

 実はそこんところが鍵だった、と言えるかも。

 奥が深いわあ、この映画。

 関口巽・永瀬正敏は不思議な夢を見る。古本屋の店主と陰陽師を兼業する胡散臭い京極堂(中禅寺秋彦)・堤真一のアドバイスにより相手の記憶が読めてしまうハイパーな巨大探偵、榎木津礼二郎・阿部寛の事務所を訪れた関口は、そこで年齢のわりには童顔な婦人、久遠寺涼子・原田知世に遭遇する。なにやら涼子は関口と過去に面識があったようなそぶりだが関口には覚えがない。

 20ヶ月も腹ボテの妹、久遠寺梗子、それってほとんど便秘だと思うが、それはさておき、彼女の失踪した夫を探してほしいという涼子の依頼を受けてしまった関口のお願いにより、ぶつくさ言いながらも同行してくれた榎木津は、梗子が寝ている部屋に入ったとたん「こんなもの事件じゃない!」「とっとと警察呼べ」と捨て台詞を吐いてずんずん帰ってしまう。残された関口は繰り返し現れる幻影に悩まされる。

 久遠寺家は代々続く産婦人科。現在の当主はロレツがピンチ気味(がんばれ!すまけい)の院長かつ涼子&梗子の父親、久遠寺嘉親・すまけい、そして視線が完璧にイっちゃってる母親、久遠寺菊乃・いしだあゆみ。両親は「芸名ひらがな」コンビ、これもなにかの因縁か。この二人が両親では遺伝子的にいかがなものか?とは思うが、予感は的中。

 病院の門前には出産時に死亡した子供の親たちが大勢おしかけていて、単なる出産時の事故死や死産ではない様子。軍隊時代に関口の部下だった刑事、木場修太郎・宮迫博史は、子供を失ったとび職の父親、原澤伍一・寺島進に事情聴取を開始。かつて久遠寺家の使用人だった澤田富子・原知佐子はこの事件の真相を知っていた。

 事態は関口の記憶回復とともに、たいした活躍もせず「ふんぎゃあっ」と唐突に絶叫して客を驚かすだけの母親と娘の相克があっちへ飛び、こっちへ飛びしているうちに病院は業火に包まれる。妖怪漫画家・京極夏彦は、無気味な紙芝居屋・三谷昇が「墓場の鬼太郎」を上演するのを見て薄笑いを浮かべるのであった。

 頭がパッパラパーになった原田知世の「全部お前が悪いんじゃあ!」という怒りのキックが芸能界の大先輩いしだあゆみに炸裂。まさにお宝的キャットファイトである。一瞬なので見逃さないようにね。

 見えるはずのないモノが見えてしまうのも困るが、見えるはずのモノが見えないというのはさらに根の深い問題らしい。関口の記憶を封印している理由の深さと、涼子の抱える因縁とのギャップがいささかアンマッチなためか、仕掛けのスケール感が見終わったときに、貧乏性な観客(筆者)はモッタイナイ感が強く残る。

 関口の妻・篠原涼子と京極堂の妻・清水美砂が瞬間出演だし、実相寺ワールドの浮遊霊マッドサイエンティスト・堀内正美の挙動不審が途中で消えちゃうし、ちりばめられたアクセサリーがいつの間にやら雲散霧消。

 その代わりと言ってはなんだがわかりやすい芝居をする人が大勢出てきて、実相寺のムードを味わいたいオールドタイマーズとしては、フルコースの料理にプッチンプリンがデザートで出てきちゃいました的なダルダル感を満喫。

 そこで提言、映画プロデューサおよびスポンサー諸兄へ。

 実相寺映画における俳優の心得は3つ。1つ、余計なことをしない、2つ、台詞は棒読み(を生かした感じで)、3つ、大真面目に荒唐無稽かまたは変質者っぽいことを言う(またはする)。この三原則に思いっきりアンマッチなので、今は実相寺映画に小者の芸人や小者のアイドルを使うのは止めるように。ただし宇宙人は可、宇宙人っぽい人は尚可。

 ああ、そういえばいたね、っていうくらいの存在感、中禅寺敦子・田中麗奈、今後は仕事選びなさいね。

2006年11月05日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2006-11-05