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ひき逃げファミリー


■公開:1992年

■制作:キティ・フィルム、サントリー、アルゴプロジェクト

■制作:伊地智啓、椋樹弘尚

■監督:水谷俊之

■脚本: 砂本量、」水谷俊之

■原作:

■撮影:長田勇市

■音楽:佐原一哉

■編集:菊池純一

■美術:及川一

■照明:豊見山明長

■録音:横溝正俊

■特撮:

■主演:長塚京三

■寸評:

ネタバレあります。


 現実はいつでも映画を超える。タイトルだけだと笑えそうだが、その実、まったく笑う気にもなれないブラックコメディ。

 身なりのよいソフトな老紳士、元村義一郎・仲谷昇が公園で高齢者のご夫人とわりとカッコよくキスしようとしていた。そこへかけつける元村葉子・中尾ミエ、その長女、あずさ・ちはる、長男、陸王・橋本光成、全員であわてて義一郎を押さえ込み自宅へ連れ帰る。

 義一郎は認知症勃発中なのだった。お相手は見知らぬ人で伴侶はとっくに天国。これだけでもタイヘンだと思うが、結婚式場に就職したあずさは、神式担当で普段は巫女姿、しかも神主の上条・大高洋夫と不倫中。陸王は爬虫類を愛好し学校での苛めが原因で登校拒否中。葉子は洋裁で家計を助け、夫の祐史・長塚京三は中堅企業の中間管理職。

 祐史が接待ゴルフの帰路、豪雨の中で自転車に乗った若い女性を轢殺。目撃者なし、雨のおかげさまで証拠も残らないだろうと考えた祐史は被害者を放置して帰宅。夫の轢き逃げを知った葉子は、普通なら自首を勧めると思われるが「死んだ者は帰ってこない、これ以上、不幸な人(それって加害者)を出しちゃいけないわ」という理屈で家族を暴力的に説得。奇想天外な証拠隠滅作戦を決行する。

 離散しかかった家族が大きな困難に直面して一体化する。認知症に陥った祖父は自分が頼られる存在(体力がいる作業だから)だと知ってめきめき能力回復、登校拒否から家庭内暴力にまで発展した長男もやる気だけは出てきたので全面協力、不倫どころじゃなくなった長女は家族のためにこれまた協力。

 お向かいの原沢夫人・大島智子は一家の挙動不審を夫・岩松了に報告するが取り合ってもらえない。深夜に謎の騒音をたて昼間からカーテン閉めっぱなしの隣人に興味津々の原沢夫人である。おのれはグラディスさん(米国製TVドラマ「奥様は魔女」におけるお向かいのオバサン、サマンサの正体は彼女の野次馬根性により再三のピンチを迎えるが夫の対応のトロさにより毎回ほのぼの回避)かい!

 被害者の命よりも家族の絆を優先したこの一家の運命は、炎とともに最後は「チキチキマシン猛レース」。

 さて、仲谷昇である。劇団「円」で三谷昇と一緒だが一緒くたにしないように(しねえよ!)。コンセプトは知性派、ただし現場にスーツで雪駄という危険ないでたちでやってきてしまう豪傑でもある。ちなみに「革靴が嫌いだから」という理由であるが。そんな仲谷昇の呆け老人役。だが1990年「カノッサの屈辱」でそのキャラクターが逆利用されお笑いもイケる人としてブレイク中だったこともあり、あまり驚きはなかったであろう。しかしながらあんなソフトでダンディなじいさんならたとえボケちゃってても、「キスくらいなら全然オッケー」とすら思える(かも)。特に「キイハンター」のファンならば!

 もひとつ、中尾ミエの主婦マニアもいい感じ。生活感のあまり感じられないミエさんが実にハマる、前掛け(サロンじゃなくて)から昨晩こぼした醤油の匂いがしてきそう。独身のヒトのほうがお母さん役やると上手かったりするので演技とは客観的な観察力であることがわかる。他に池内淳子とか(理由説明省略)。ま、途中から体育会系に飛ぶのであるが。

 妖星ゴラスが東西冷戦を終結させたように、轢き逃げ事件が家族の絆を深めてしまう。ありがとう轢き逃げ!ビバ人殺し!サンキュー被害者!

 ポータブルAV機器を操作しようとして脇見運転、接待の帰りだから飲酒運転または酒気帯び運転、被害者放置で逃走、証拠隠滅のために車を破壊。今日もニュースで報じられる諸々。

 「まるで映画みたいだね」はディズニー作品だけにしていただきたいものである。

2006年10月29日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2006-10-29