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黒いドレスの女


■公開:1987年

■制作:角川映画

■制作:角川春樹、黒澤満、青木勝彦

■監督:崔洋一

■脚本:田中陽造

■原作:北方謙三

■撮影:浜田毅

■音楽:佐久間正英

■編集:冨田功

■美術:今村力

■照明:長田達也

■録音:中野俊夫

■特撮:樋口真嗣、立石静、浅野秀二

■主演:妻夫木聡

■寸評:

ネタバレあります。


 「脱アイドル」は密の味。

 最も救いようのない存在「やくざに追われているやくざ」の庄司・菅原分太を海外逃亡させる危険な仕事をダーティーかつ甘党(好物はアイスクリーム)の弁護士・時任三郎から200万円で引き受けた脱サラしたバーのマスター、田村・永島敏行。眼前で華の無い若手やくざのアキラ(ちんぴらの役名の王道)・藤タカシに刺された庄司、やっかいな展開を予想した田村であった。

 田村のところへ給食の牛乳臭フェロモンを漂わせた黒いドレスの女、朝吹冽子・原田知世がやってくる。彼女の「マルガリータ」の一言に生徒手帳の提示を求めなかった田村の判断力はどうかと思うがとまれ田村の店で住み込みで働くことになった冽子であった。経営者(田村)の抜き打ち手荷物検査の結果、拳銃の不法所持、しかもその拳銃には田村との因縁があり、それは殺された元祖黒いドレスの女=田村の女房が持っていた拳銃であり、冽子に渡したのが義理の妹、三井葉子・藤真利子だということが判明。退院した庄司も田村の店にやってくる。初対面の冽子に下半身を揺さぶられてしまう庄司、貴様ロリコンか?そんな人だとは思わなかったわ!文ちゃん!とでも叫んで横っ面を張り飛ばしてやりたいくらいだ。

 冽子を追って店に乱入してきたチンピラは庄司に包丁一本で撃退される。どさくさにまぎれて姿を消した冽子の行方をしつこく追って来た連中に囲まれ腹をボコられてゲロ(ゲルじゃなくてかなり固形)をぶちまけた田村は、見かけどおりめちゃくちゃタフだったので、拾った丸太を振り回して反撃に転じ相手の頭蓋骨はもれなく木っ端微塵くらいの大暴れで再び彼らを撃退する。立岡・室田日出男が段取りつけた逃亡ルートはすでにバレバレ。深夜のだらだらとしたカーチェイスの甲斐も無く田村は庄司を匿うために葉子の家に向かったが、そこで刑事、大野・成田三樹夫の職質を受けた。

 ノベルティらしく断片から徐々に全体像、背景に繋がっていく。さて、ここからが佳境なので寝ちゃだめだぞ。

 田村はセフレの小夜子・一色彩子に冽子を匿ってもらうことにした。店にやって来た大野のおかげで事件の背景やらがやっとこさ判明。本来なら礼の一つも言うべきなのだが(そうだろうか?)小夜子のジェラシー光線に耐えかねたのか?帰って来た冽子を逃がすために刑事の後頭部をビール瓶でカチ割る田村であった。冽子は、スケベで変態な(たぶん、たぶんね)義父の朝吹英一郎・橋爪功にマンションの一室で乱暴されかかりコケて頭を強打、その間に強姦魔じゃなかった義父が転落死したため殺人容疑がかけられており、しかも義父が企業汚職の証拠を隠していたため黒幕の手先のやくざにも追われている。

 ホテルのプールで水泳する冽子。全編中唯一身体のラインを確認できるシーンだったのでドキドキ状態(なのか?)の田村は「身体だけは立派な大人なんだな」とコメント。スクール水着の少女体型の冽子、田村てめえの目は節穴か。まったくどいつもこいつも・・・。

 証拠物件を手に入れた冽子と田村は黒幕、野木原・中村嘉葎雄を恐喝。更正した暴走族(なわけがない)っぽい秘書・本間優二を連れて現れた野木原が事件の真相をコクったところへ大野が現れ、野木原は逮捕された。イキナリ大暴れを始めた田村に気を取られた警官隊。そのスキに冽子、黒いドレスの女は消えていた。

 ためしに原田知世の出演シーンを全部カットしてもたぶん映画として、いやむしろそのほうがハードボイルド映画っぽさがある。特に東映大人俳優たちののびのびとした活躍はいっそ清々しいほど。出場は少ないが室田日出男と成田三樹夫は儲け役。瞬間出演の中村賀津雄との乱闘シーンはなぜか手加減バレバレの永島敏行、さすが運動部出身、序列の重みに負けたのか?そのかわり端役の警官たちには情け容赦なし、いや、まじで力あるのねえ、この人は。

 とにもかくにもヒロインが胸も脚も、いわんや肩すら(水着シーン除く)出さないというのはいかがなものか?橋爪功の強姦未遂シーンなんてもうダサダサ。被害者である冽子もキャミソール姿とかじゃなくて分厚いセーターにミディ丈のスカート、しかも裾なんか全然めくれないし、洋服も破れない。ディスコで踊り狂うときもダブダブの衣装で色気ゼロ。この作品を鑑賞するにはようするにハードボイルドに求められる性的なフェロモンとかを期待しなければいいのであって、原田知世と周囲の温度差を存分に愛でればわりと楽しめる。

 ヒロインを無理やり映画に組み込もうとせずに珍獣だと思えばよい。あきらめちゃいかん、何事もポジティブに考えねば。

 でもってどこいらへんが「脱アイドル」だったかというと中途半端な強姦シーンでも水着シーンでもなくディスコのシーンでカメラに向かって顔をゆがめて罵っているように見える絵柄だったと断言しよう。なにかあったの?知世ちゃん。大人になるって、いろんなところが歪むことなのだと、彼女は言いたかったに違いない、それとも「ったく文句バッカ言いやがって、監督のバカヤロウ」だったらそれはそれでかなりスキ。

2006年10月21日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2006-10-21