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眼の壁


■公開:1958年

■制作:松竹

■制作:小松秀雄

■監督:大庭秀雄

■脚本:高岩肇

■原作:松本清張

■撮影:厚田雄春

■音楽:池田正義

■編集:浜村義康

■美術:芳野尹孝

■照明:青松明

■録音:吉田庄太郎

■主演:佐田啓二

■寸評:

ネタバレあります。


 ヤな会社だね、まったく。死人に口なし?「彼に一任してしまった僕にも責任がある」なんて後からほざかれても、死んだ人は浮かばれないっちゅうの。

 見るからに気弱そうな会計課長・織田政雄は家族に電話をかけた後、湯河原で鉄道自殺。部下の萩崎・佐田啓二は課長の遺書を手がかりに、自殺の原因が手形をパクられた責任を取ったものであることを知り、なんとしてもその悪者たちを捕らえようと思い立つ。高利貸しの事務所を訪ねた萩崎は、美人秘書、絵津子・鳳八千代の挙動に怪しいものを感じてマークする。天下の二枚目に目をつけられたら普通は嬉しいと思うのだが、そういうシチュエーションではない、当たり前だが。

 サラリーマンが会社休んで探偵ごっこなんかしてて大丈夫なのか?と思うが、会計課長一人に責任をなすりつけて平気な社長・三津田健、専務・永井智雄、常務・十朱久雄にちょっとだけムカついていた(らしい)萩崎は執念で捜査を続行する。同じく顧問弁護士の瀬川・西村晃も元刑事の田丸・多々良純に事件を捜査させていたが手形詐欺グループは凶暴な連中だったので田丸は一味の一人、山本・渡辺文雄に殺されてしまう。

 萩崎は友達の新聞記者、田村・高野真二に協力を要請。田村は新婚旅行の途中、新妻・朝丘雪路の了解を得て萩崎とともに名古屋へ向かう。舟坂英明という人物がどうやら黒幕らしいと目星をつけた萩崎と田村がインタビューを装って舟坂の家を訪ねるが、押し出しが立派過ぎる事務長の山崎・宇佐美淳也に追い返されてしまう。その頃「危険なマネをしないように」と萩崎に彼に忠告していた瀬川弁護士も誘拐された挙句に死体となって発見される。警察は田丸殺害の犯人が、バーテンの山本であることを突き止め、彼を追っていた。

 凶悪な手形詐欺グループは、一旗あげようと貧村を出て行った男が組織したものであった。その男に引き取られた身寄りの無い兄妹は片棒を担がされた挙句に兄は殺され、自殺に見せかけるために硫酸で溶かされてしまう。ド田舎の精神病院にたどり着いた萩崎はあやうく一味に捕らえられそうになるが、警察とともに乗り込んできた田村(意外と強い)に絵津子とともに救出される。犯人は覚悟を決め硫酸プールにダイビングして果てる。

 犯人の幼馴染の老人・左卜全に正体を見破られた犯人は、その友達の目前で溶けてしまう。「村のみんなを幸せにしてやるんだ」と言って彼が出て行ったことを知る老人にはなんともやりきれないエンディングであるが、ちゃっかり絵津子のハートを射止めた萩崎はプラマイゼロといったところか。

 こんな単純な手口でパクられるのか?とも思うが当時のセキュリティ事情を考えればむべなるかな。会計課長を責める気にはならない。まして演じているのが織田政雄であればなおさらだ、絶対に追いつめられて自殺するに違いない(案の定)。大掛かりな犯罪組織の血なまぐさい、手段を選ばない悪行ぶりには黒幕の「成り上がり」への執念が感じられて哀れだ。しかしながら渡辺文雄のバーテンは素晴らしく上手い、リアリティありすぎの悪キャラであるが、おそらくはああでもしないと生きていけなかった恵まれない幼少時代を想像させる。

 宝塚出身の鳳八千代の第一回出演作品とのこと。バーで佐田啓二に上目づかいで「ウソついたでしょ?」的な文句を垂れるところがなかなかにキュート、鼻っ柱が強そうなので前半のクールな秘書なんかのほうが弱々しく組織に利用される後半部分よりもイメージに合ってる。およそ他の映画では冷淡な印象で、後年は大物政治家とかが得意だった高野真二が熱血記者役、ちょっと新鮮。

 お世話になった課長の弔い合戦という動機はやや弱いような気もするが、後任に決まっている自分の将来のためにもこういう連中は始末しておこうと思ったのか?というか、途中からは絵津子の魅力こそが萩崎のモチベーションアップの原動力だったと思えてしまうのはやっぱ佐田啓二が物凄い二枚目だから?

2006年05月21日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2006-05-22