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イントゥ・ザ・サン


■公開:2005年

■制作:ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント

■制作:スティーブン・セガール

■監督:ミンク

■脚本:スティーブン・セガール、ジョー・ハルピン

■原作:

■撮影:ドン・E・ファンレロイ A.S.C.

■音楽:スタンリー・クラーク

■編集:マイケル・デューシー

■美術:

■照明:

■録音:

■主演:スティーブン・セガール

■寸評:

ネタバレあります。


 「キル・ビル」したかったの?セガール。栗山千明まで引っ張り出したっつうことは?

 なんで本作品が「邦画」なのかと言うと「だって出演者が日本語喋ってるじゃん?」くらいなノリなのであまり気にしないようにしてね。

 「刑事ニコ」当時よりも倍以上に膨らんだ身体をロングコートにつつんで日本刀を振り回すセガールが若干、ロバート・ミッチャムっぽかったが日本語の上手さと運動量は圧倒的にセガールの勝ちだ。だからと言って映画的に勝ったかどうかは趣味の問題。

 東南アジアの山奥で麻薬製造基地を撲滅すべく仲間とともに潜伏していたCIAのトラビス・スティーブン・セガールは偶然、目撃した現地女性のレイプを食い止めようと部下の制止を振り切って発砲、あっと言う間に戦闘開始。一体何のために苦労して張り込んでたの?と首を傾げたくなる間もなくヘリコプターで救出されるトラビス一行。独断専行的な発砲で結果的に重傷を負わされた部下にも尊敬されちゃうトラビスは、CIA的には伝説の英雄なのである。

 不良外人や不法滞在の外国人が嫌いな都知事が衆人環視の中で射殺され、あまつさえ犯人は悠然とバイクに乗って逃走。実は日本生まれだったトラビスが捜査のため来日、彼は新人のショーン・マシュー・デイビスを引き連れてジャパニーズの文化(特に歌舞伎町方面)をOJT、三国人に支配されている21世紀の東京を嘆きつつ、ガタイの立派な、しかも日本語ペラペラのトラビスに喧嘩をふっかけてきた命知らずのチンピラをぶっ飛ばす。

 すぐに飛び道具に頼ってしまう新人、拳銃なんぞぶっ放してしまったため、表にも裏にも存在感を大いにアピールしてしまった二人組。

 トラビスは財界の大物、松田・寺尾聰と「互いに母国語で話す」というミラクルな会話術により、中国人やくざと結託して世界征服を企んでいる新興やくざのことを知る。そんな重要な会議の最中に鳴るトラビスの携帯電話。「あの、ちょっとスイマセン」と)お断りをして席を立ったトラビスに本部から「蛇頭」の暗躍を知らせる連絡が入る。

 松田の紹介で黒社会にもコンタクトしたトラビスは、広域暴力団の親分、小島・伊武雅刀から残虐非道な新興やくざの親分、黒田・大沢たかおの情報を得る。小島にとっても黒田はジャマな存在なのである。そんな若造の台頭にも大人しい大親分・大木庄司がノーリスク主義を貫いているため、小島は手出しできない。

 まさに飛んで火にいる夏の虫?なセガール。

 やはり新人たるもの血の気の多いのが常であるから、築地の卸売市場内にある(え?)黒田の事務所に忍び込んだショーンは、黒田のイカレタ部下1号・本田大輔と2号・大村波彦らに発見されるが、からくもタクシーで脱出、しかし携帯電話の電池切れでトラビスに救援を求めることができず、惨殺されてしまう。黒田は、部下のミスには徹底的に厳しく、また情報漏えいの責任追及にもことさら厳しい。小僧だろうが女だろうが情け容赦なくぶち殺す。トラビスの元彼女を血の海に沈めた黒田は、とうとう中国人やくざたちとも袂を分かつことに。

 所詮、欲得づくの野望を企む者にとっては同じ目的を持つ同士はいずれライヴァルになるのであるから当然と言えば当然の展開。日本人と中国人との間に流れる深くて暗い、歴史の河を彷彿とさせる台詞もある。いや、実に奥深い映画であるなあ、絵柄は全然違うけど。

 部下と元彼女を殺されたトラビスの私怨爆発。かつて黒田に家族を皆殺しにされた彫り物師の不動明王・豊原功補とともに黒田の本拠地へ殴りこみをかけるトラビス。彼を恋人と慕う女性が後を追ってきた。それを見たトラビスは「ばっきゃろう、来るな、言うたやろ」ってトラビス、あんた東京出身じゃなかったの?とそれはさておき男の戦いの現場に婦女子の同行をキッパリと拒否。

 実は健さんファンだった?セガール。

 逮捕とかする気なんぞ毛頭ない、日本刀でばっさばっさと悪人どもを斬り捨てるトラビス。元彼女の死骸から失敬した鼈甲のかんざしをつけていたイカレタ部下2号の頭頂部を刀の背でめった打ちにしたトラビスはついに、実戦経験はあまりなさそうな黒田と対決するのであった。

 トラビスがなぜCIAで伝説と化しているのかやっと分ったような気がする。緻密で地道な捜査の成果を一瞬にして木っ端微塵にしておきながら、だって今回の案件だって日本の警視庁から褒められちゃうくらいの証拠隠滅工作を必要とする皆殺しだったにもかかわらず、上司から信頼されている。つまりはにファー・イーストで何人、ジャップが殺されようが所詮、アメリカの国家機関としては知ったこっちゃないよーん!っていうことなのね。ゆえに、東南アジアの山奥でおそらくは民間人大量巻き添えの掃討作戦やらかしたってノープロブレム。

 これも一つのオリエンタルミステリーってことかしら?セガール。

 高倉健とロバート・ミッチャムの共演による「ザ・ヤクザ」(1974年)から三十年以上を経ているが、セガールの台詞ではないけれど日本のやくざ業界も変化したものである。グローバリゼーションとでも言おうか。所詮、堅気ではない獣系の人たちであるから、獲物をゲットするまでは協力するがいざその分け前を巡っては凄絶な分捕り合戦を繰り広げるのである。

 セガールが日本語喋ってるところは海外版では差し替えるつもりなんじゃないの?ゆえに、サビの台詞がたどたどしい日本語なのは彼のサーヴィス精神なので、大目に見てあげましょうね。笑えるけどさ。

 大沢たかおは「フィラメント」でキレる若者キャラを披露したが、すでに大分とトウが立っている「若者」ではあるが、ここでは元来の清々しい若者テイストを残しつつ、一歩間違えば「理想に燃える」IT企業の若きCEOくらいな清涼感のある横顔で、怯える部下の頚動脈を一刀両断にしたり串刺しにしたり、と流血三昧を繰り広げるのである。

 美形男子が血まみれになる絵柄というのは婦女子のハートにも火をつけるサムシング満載だ。

 でも東映やくざ映画のアクの強さに慣れちゃってる人にとっては、やくざの大親分が元東宝の大木庄司っていうのはイマイチだったかも。せめて(元気な頃の)今井健二とか名和宏とかにやってもらったらよかったのにね。たとえ落日の旧世代を象徴する存在だったとしても。あんなにあっさり殺されちゃったのは、後釜を狙っていた小島やら他のやくざが仕掛けたんじゃないか?みたいな。ま、内ゲバやらかす分にはトラビスとしても日本警察としても大歓迎?

 で、栗山千明はどこにいたかと言うとほんのすこーしだけ出てくるので見逃さないように。セガールの愛娘ははっきりとソレと分る見え方(テレビのフレームの中、しかもアップ)するのでいやでも視界に入ってくる。て言うかやくざも怪獣映画が好きだったんだという新事実が見えてくるかも。

2006年05月07日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2006-05-08