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屋根裏の散歩者


■公開:1992年

■制作:TBS、バンダイビジュアル

■制作:田澤正稔、鵜之沢伸

■監督:実相寺昭雄

■脚本:薩川昭夫

■原作:江戸川乱歩

■撮影:中堀正夫

■音楽:松下功

■編集:井上治

■美術:池谷仙克

■照明:牛場賢二

■録音:木村瑛二

■主演:三上博史

■寸評:

ネタバレあります。


 1976年、日活ロマンポルノの田中登が撮った宮下順子(散歩者は石橋蓮司)主演の「屋根裏の散歩者(副題は「江戸川乱歩猟奇館」)リメイク。

 宿屋の東栄館に長期滞在中の郷田三郎・三上博史は働きもせず、さりとて遊興に耽るでもなく文学青年もどきの同宿たちとウダウダ過ごしている。同じ宿に、心理学を研究している明智小五郎・島田久作がいた。郷田は押入れをベッドにしていたが、ある日、そこから天井裏へ上がれることに気がつく。表の顔は立派な紳士だが実は妾とSMごっこをしている越塚・寺田農、公衆便所のような淫乱女の奈々子・加賀恵子、統合失調症間者のお嬢様・宮崎ますみ、こそ泥女中、歯医者の遠藤・六平直政。郷田は毎晩、彼らのプライベートを覗き見しているうちに、日頃から自分をさげすむような説教を垂れる遠藤を殺してみようと思い立つ。

 心中未遂事件を起したことがあるんだと、ようするに自分は俗物ではなく「たいしたことたできる奴」だと吹聴していた遠藤が持っていたモルヒネを盗み出し、イビキをかいている遠藤の口に天井裏から糸を垂らしてモルヒネを流し込むという、まるで忍者のような方法を用い、まんまと遠藤を殺した郷田であったが、自殺に見せかけるためには遠藤の部屋にモルヒネの空瓶を置いてこなければならない。うっかり忘れた郷田があわてて屋根裏に戻り小瓶を投棄したその瞬間、遠藤の死体の側に置いてあった目覚まし時計がけたたましく鳴った。

 警察は自殺として処理したが、明智だけは違っていた。目覚まし時計をわざわざ仕掛けてから自殺する者がいるだろうか?明智は東栄館の住人たちの日常生活や習慣の変化を見逃さなかった。そしてついに天井裏に決定的な証拠を見つけた明智は、郷田に事件の手口をスラスラと解説してみせた。自分の死刑を予感する郷田に対して、警察にチクる気がさらさらない明智は、決定的な証拠と言うのは実は単なる誘導尋問に過ぎないかったという種明かしをするのだった。

 江戸川乱歩と言えば「一寸法師」と「芋虫」が個人的にはトラウマだ。どちらも異形の者が登場するビジュアル的にも激コワなのだが読み終えて(ちなみに初見は小学校5年生のとき、そりゃインパクトありすぎだよな)登場人物に深い憐憫の情をもよおしたものである。しかして本作品は「パノラマ島奇談」「人間椅子」と同じくらいな変態度である。同情なんて全然なし、ただでさえ絵柄にしたら正気の沙汰ではなくなりそうなのだが、実相寺昭雄ならなんとかするだろうという見るほうの勝手な期待を裏切らない、さすがは実相寺!である。

 実相寺昭雄の映画を観ているとなぜか窒息しそうになる。基本的にライティングが暗い、ほこりっぽい、スキマから差し込む光がハウスダストを強調するからだろう。ろうそく一本とかで画面に大胆な暗闇を作る。それと、割れた鏡がお約束。平衡感覚が狂う、曼荼羅絵に通じる息苦しさ、ゼラチン透過の万華鏡的な画面には逃げ道がなく、ほんとうに屋根裏みたいな閉塞感に満ち溢れる。ネタと監督の絵心の調和という点において、本作品はまさにグッドマリッジ。

 濃すぎるのではないか?という意見はこの際無視。

 本作品には実相寺ワールドに必要不可欠な清水宏治(宏:当て字でスイマセン)は不在である。だが堀内正美はちゃんと出てくるので一安心ではあるのだが。あと、田村亮はいないが寺田農はいる。変態お嬢様を演じる宮崎ますみは顔はちゃんと実相寺している(どんなんだ?)と思われるがやや迫力不足か。三上博史は日常にふっと湧き出る恨みつらみ人間のドロドロした部分が小心者の仮面をかぶっているようでドンピシャの風貌。

 島田久作のひょうひょうとした空気感は岸田森の役どころか。これと言って何もしないのが物足りないのであるが、押入れにイキナリ島田久作がいたらさぞかし怖いだろうな。

 ある意味、古巣のTBS関係の仕事だったこともあるのか実相寺昭雄による実装昭雄映画に仕上がった本作品、江戸川乱歩との奇跡のカップリング、成人指定映画。

2006年04月01日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2006-04-01