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無宿人別帳


■公開:1963年

■制作:松竹

■制作:白井昌夫

■監督:井上和男

■脚本:小国英雄

■原作:松本清張

■撮影:堂脇博

■音楽:池田正義

■編集:太田和夫

■美術:芳野尹孝

■照明:一瀬与一郎

■録音:高橋太朗

■主演:佐田啓二

■寸評:

ネタバレあります。


 住所不定無職どころか戸籍も抹消された人々。佐渡島に一山いくらで駆りだされた無宿人たちのヴァイタリティー。主役以外のときの渥美清はコンプレックスの塊が暑苦しいだけでどうも居心地が悪そうな気がしていたけれど、これだけ個性の強すぎるむさくるしい(設定上)男子に囲まれていると、それもまた可愛い。

 この映画の佐田啓二が妙にクールで吸い込まれそうな眼光であるのは、わずか38歳で物故してしまう少し前の姿であることを見るほうが勝手に感情移入してしまうからであろうか。ヴァランスの良い体躯に誰からも好かれる甘いマスクの二枚目がヒゲ面で憂いを秘めた無宿人である。こりゃ、あなた、色男フェチにとっては観ずには死ねない逸品だと断言してしまおう。

 江戸の無宿人が小心翼翼たる同心、小十郎・長門裕之によって佐渡島へ連れて来られる。自分は大泥棒だと告白した無宿人、長次郎・伴淳三郎はろくな手当てもしてもらえず病で死んだ。彼らは低コストでかつ使用者責任を一切問われない使い捨ての労働力に過ぎないのである。そもそも江戸の牢屋において、イビキがうるさいからと言って仲間を殺害するような鬼畜な生き方をしていた者たちだから、世間の同情も一切得られることがないので、役人たちは一人死のうが二人死のうがドンマイだ。

 野蛮人みたいな無宿人たちの中に、御家人くずれの神田無宿弥十・佐田啓二という腕っ節も男っぷりもイカス奴がいて、彼らの世話役である差配の清兵衛・中村翫右衛門からも一目おかれている。新任の佐渡奉行、横内主膳・田村高廣と一緒に赴任してきた黒塚喜助・二本柳寛の妻、久美・岡田茉莉子は弥十とは昔わけありだったらしく、黒塚は気が気ではない。奉行は正義感の強いタイプだったので、佐渡の豪商、加賀谷庄右衛門・小堀明男による不正を暴こうとする。危機感を抱いた佐渡奉行所の役人たちは加賀谷と結託し、無宿人の世話役である新平・三國連太郎をそそのかして脱走事件のスキャンダルを起す。

 やっぱねえ三國連太郎が単なるイイ人ってのはあり得ないわけである。

 無宿人の世話役、清兵衛の娘、おみよ・岩本美代(現・岩本多代)と恋仲になった仙太・津川雅彦、坊主の覚明・宮口精二、大きなイビキをかく市兵衛・渥美清、元気者の吉助・三上真一郎、盗賊だった定五郎・富田仲次郎、存在すら否定されていた彼らはすてばちな生き方を捨てて必死に生き延びようとする。

 反抗的な無宿人の一掃を狙った奉行所の役人たちはそこかしこで待ち伏せをしており、新平の言葉を信用した者はことごとく殺される。清兵衛の家の近くまで逃げてきた仲間はすでに数人となっていた。新平は清兵衛を殺したが、弥十と争って断崖から転落死。どうしても生き延びたいと懇願した若い仙太をおみよと一緒に逃した弥十、覚明、定五郎は奉行所に潜入し、牢獄の無宿人を解放し火をつけた。

 小十郎の情婦、おりん・左幸子にメロメロになっていた主膳は逃げ遅れて焼死。喜助は嫉妬に狂い弥十とタイマン勝負をして敗北、弥十も奉行所の鉄砲隊に撃たれて死ぬ。奉行所は壊滅的な被害を受け、多くの無宿人が死んだ。夫と恋人(たぶん、ね)を同時に失ったくみは自害。出世をフイにされた小十郎は流れ弾に当たって野垂れ死に。その頃、仙太とおみよは必死に小船を漕いでいた。

 かっこいいじゃん!佐田啓二。殺陣はいただけなかったけど、二本柳寛のほうがどう見てもカッコよかったけど、最後に相打ち覚悟で二本柳を倒したときには深手を負って「下手な斬り方しやがって」と吐く。その台詞、まるっきし東映ヤクザ映画の健さんレヴェルのインパクト。そういえば本作品、まるで石井輝男監督作品のようなマニアックさにも溢れている。生意気な現場監督の八蔵・天王寺虎之助のリンチシーンではどてっ腹に岩石落しの残虐刑。無宿人と役人の大喧嘩シーンでは、腕が飛んだり、指が落ちたり、そりゃもうお祭り騒ぎの様相だ。

 それと、劇画から切り抜いてきたような富田仲次郎、「七人の侍」からスライドしたような宮口精二の寡黙な坊主もえらくカッコよかった。お行儀のよろしい松竹映画にしては男臭さもムンムンでちょっと意外。六尺ふんどしにケツもあらわなのでその趣味のある方々にはたまらないのかも。でも、津川雅彦だけはサルマタなのよね。

 せっかく意欲的な囚人モノなのに映画としてははなはだまとまりがなく、てんでバラバラの印象だったのはチト惜しい。だけどこの作品の楽しみ方はほかにもある。長門裕之と津川雅彦の声が大変よく似ているのと、佐田啓二が中井貴一によく似てる(逆だ、逆!)のと、三國連太郎が佐藤浩市に良く似てる(こっちも逆だってば)のと、田村高廣がバンツマと田村亮に似てる(マサカズさんには似てない)のと、スクリーン外で現実と地続きな血縁関係を実感する映画でもあった。

2006年01月28日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2006-05-20