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戦国自衛隊


■公開:1979年

■制作:東宝(配給)

■制作:角川春樹、元村武

■監督:斎藤光正

■脚本:鎌田敏夫

■原作:半村良

■撮影:伊佐山巌

■音楽:井上親弥

■編集:井上親弥

■美術:植田寛、筒井増男

■照明:遠藤克巳

■録音:橋本文雄

■主演:千葉真一

■寸評:エンドロールなし。

ネタバレあります。


 本作品はツカミの上手さが秀でていると言ってよい。なにがなんだかわからないうちに(本当になにがなんだかわからない、説明は台詞だけ)イキナリのクライマックス、登場人物たちと同様の戸惑いを共感できるのだ。

 時空のゆがみというのはSF映画のおまじないであるが、とにかくそんなこんなで伊庭三尉・千葉真一が率いていた作戦途中の自衛隊の小隊が戦国時代の同じ場所にタイムスリップ。しかもヘリコプター、戦車、装甲車、ジープ、それと武器弾薬および食料とともに。そこで伊庭は後の上杉謙信となる長尾景虎・夏八木勲(夏木勲)と遭遇する。好奇心旺盛で優れた武将であった景虎は未来の兵器にすっかりほれ込み、伊庭を同族と呼ぶ。これは同じ中年マッチョ(あのお歳=当時でもあのお肉具合は素晴らしい)でヒゲ面のクマ系だったからという本能的なカンもあるだろうが、本意ではないスパイ活動を命ぜられ仲間のクーデター計画を阻止したというスネに傷持つ伊庭の暴れん坊の匂いが二人を結び付けたと言うのが正しい。

 二人はまず黒田長春・中田博久の陣地を襲撃する。虚を突かれた上に軍勢の規模もそこそこだった黒田軍は敗退する。次に景虎は小泉越後守・小池朝雄の城にヘリコプターでカチコミをかけて全滅させた。東西南北が理解でき、塹壕掘りができればスペック的には必要十分と言われる(おいおい)陸上自衛隊員とは思えないほど頭の良さそうな県・江藤潤は「歴史への干渉はいずれ報いが来る」と伊庭に意見具申したが、税金泥棒と言われ続けた自衛官としてではなく戦う人としての場を与えられたと解釈した伊庭は景虎とともに武力による天下取りに生きがいを見出していた。

 生きている人間を殺傷したことのない自衛隊員たちがゲーム感覚で戦を経験していくうちに徐々に彼らの中の本性がむき出しになっていく。彼女・岡田奈々とのかけおち予定だった菊地・にしきのあきら、女にはもてないが友情に厚い西沢・鈴木ヒロミツ、伊庭に裏切られたといつまでもイジイジしているかつてのクーデター野郎、矢野・渡瀬恒彦、内輪もめや脱走や夜這いや強姦、略奪があいつぐ。伊庭の非情な制裁により、あるいは数に勝る落ち武者の襲撃を受けて隊員たちは一人減り、二人減りしていく。

 一方、伊庭は景虎と越中ふんどし対六尺ふんどし姿で波間をたわむれ、肉体をふれあい、男のロマンを語り合っていた。しかし歴史はやはり彼らを許さない。伊庭との友情を守って個人的な欲求の充足をとるか、それとも戦国大名として組織の長たる栄達をとるか。一足先に到着した京都で本願寺光佐・成田三樹夫、九条義隆・仲谷昇に説得された景虎は、武田軍との死闘でついに武田信玄・田中浩とヘリコプター上のスタントまでこなす武田勝頼・真田広之を倒したが近代兵器のすべてを失って命からがら伊庭と数名の部下が逃げ込んだ寺を包囲する。

 敵方の武将が中田博久と田中浩ってのはショボイ。ビジュアル的にも意気込みもお二人の演技は申し分ないのだが客としては丹波哲郎とかそのアタリを期待してたのでちょっと肩透かしだ。特に田中浩、俳優生活の中では最大級の役じゃないのか?劇場公開映画においては。最後は敗れるにしても千葉ちゃんをかなり追いつめるカッコいい役だ。その点、中田博久は夏八木勲に思いっきり顔踏まれちゃうので気の毒だが。

 景虎と伊庭の立場が徐々にシンクロし逆転する。400年たとうが人間だもの、やることや考えることにそうは大差ないのである。戦国武将がすっかり板についた伊庭が、至近距離からのライフル狙撃一発にもかかわらず、まるでカメハメ波でも食らったかのごとく派手に弾け飛び、これぞアクション俳優の断末魔を見せ付けた後、他の隊員たちとともに景虎によって武人として丁重に葬られる。

 かくして歴史の神に挑んだ実質上、二人の戦いは終了するのだが、父親を失った母子とともに百姓となって生きる道をチョイスした根本・かまやつひろしだけは一人生き残る。歴史に干渉する報いを受けて死ぬべき人たちだったのなら、子種を(おそらくは)残しまくると思われる根本だっていかがなものか?ということになるのだが、緩やかな干渉にはきっと過激でない修復作用があるのであろう。よくわかんないけど。

 たまりにたまった隊員たちの欲望のはけ口として後家さん・絵沢萌子(ああ、やっぱり)に夜這いをかけるイベントを企画した伊庭、やはり人の上に立つものは部下の性生活まで面倒見てやらないといけないということなのね。そして最強といわれた武田軍との戦いは、弾薬の数より多い足軽軍団の猛攻、ここの戦闘シーンはまさに物量作戦の、サービス満点のシーン。生まれて初めて空を飛んだ武田勝頼が子供っぽく感動しているのがとってつけたようでカワイイ、やはり愛弟子には見せ場を作ってやらねばという親心か。鉄製の銃器よりも肉体を駆使するコサック騎兵のような忍者軍団のほうがやたらとカッコいいのは、まさに千葉イズムの真髄と言ってよい。

 千葉真一の心と作品が潤沢な資金でもって最高潮に高められたのは実は他の格闘技映画とかではなく本作品だったと言えるのかも。。薬師丸ひろ子の惨殺シーン、草刈正雄の本編とは何の関係もない汚れた農夫姿での顔出しシーンはオマケ。

2006年01月15日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2006-01-15