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仁義なき戦い


■公開:1973年

■制作:東映

■制作:俊藤浩滋、日下部五朗

■監督:深作欣二

■助監督:清水彰

■脚本:笠原和夫

■原作:飯干晃一

■撮影:吉田貞次

■音楽:津島利章

■照明:中山治雄

■編集:宮本信太郎

■美術:鈴木孝俊

■主演:菅原文太

■寸評:

ネタバレあります。


 今じゃあ劇伴がパロディにされる機会のほうが多くて、実際に映画を観た人間のほうが少ないんじゃないか?と思われる映画作品の横綱である。あと、長谷川一夫が大河ドラマでやった「忠臣蔵」とか、ミリタリーな場面のBGMとして多用される「パトレイバー」とか。

 何十年という時を経ても普遍の魅力を保ち、数世代に渉るファンを獲得するのは世俗の生臭さを消した時代劇映画だけかと思っていたが、どっこい現代劇でもこの「仁義なき戦い」はそのスピード感、リズム感、強烈なアジテーションまでひっくるめて色あせないどころか、ひじょうに高度な娯楽性を保った社会学映画として通用し、社会に対してちょっとだけコンチクショウと思っているすべての労働者の心を揺さぶるサムシングを放ち続けているのが驚きだ。初見時、まだ中学生(しかも女子)だった筆者には誰が誰だか(役者の顔が皆一様に怖いので)、何を喋ってんのか(広島の方言なので)さっぱりだったが、理不尽な年寄りに翻弄される若い衆の悲哀だけはなんとなく共感できたので、やはりここでは恐るべし深作欣二、である。

 原爆の惨禍にあった戦争直後の広島へ、ノッポの同級生(元新東宝ハンサムタワーズ)山方新一・高宮敬二とともに復員した広能昌三・菅原文太は、愚連隊の若い衆、上田・伊吹吾郎、坂井鉄也・松方弘樹、若杉寛・梅宮辰夫らと知り合い彼らの面倒をみていた山守組々組長・金子信雄に認められてしまうのである。

 「人を見る眼がなかった」と言えばそれまでであるが思えばすべての悲劇はここから始まったのであって、なんであんな人徳もクソもないような親分をあの時、最後の一弾でぶっ殺しておかなかったのか?という疑問をシリーズ終焉まで抱かせる。

 貧しいときには団結するが、それぞれに豊かになってくるとエサの奪い合いや村社会を作りたがるのはサル山のサルも同様で、ある者は山守と対立する組織の幹部となり、ある者は下克上を狙い、ある者は貧乏くじを引かされ、臭い飯を食わされたり、虫けらのように殺される。山守組長は時には敵に媚を売り、泣き落とし、身内を売り、ケツを割り、なんのかんのしながら組織を拡大していくのである。

 山守親分はヤクザではない。彼はビジネスマンであるから仁義もヘッタクレもないのは当然なのであって、ヤクザの親分としては風上にも置けないような犬畜生であるが(あ、犬のみなさまごめんなさい)企業の経営者としては実に有能であり組織の拡大によってその風采もTPOをわきまえて笑いを取るなどなかなかに侮れない人材なのである。なんせ数々の修羅場を夫婦(妻・木村俊恵、絶品!!)二人三脚で確実に乗り切ったところがある意味凄い。したがって最も疎まれ嫌われるのは、この山守にベッタリでチンコロかました槙原政吉・田中邦衛であろう。まるで青大将の十年後を体現したような槙原、あいつ、すっげームカつく!とお思いの貴兄は「狂犬三兄弟」でも観て憂さを晴らしてくれたまえ。とまれ、シリーズの中でもその死に様において観客に最もカタルシスを与えたのも彼なのでひとまず許してやろう。

 いくつかの名台詞と呼ばれるものについては語りつくされてはいるのだが、筆者的には戦いの真っ最中に安寧な暮らしを求めるかのような発言をかました坂井鉄也に対して広能昌三が吐いた「そげな考え方しとったらスキができるぞ」をベストとして推薦したい。ビジネスの現場において敵前逃亡のごとき発言は、部下のモチベーションを殺ぐばかりでなく競合他社を大いに活気付かせるという最悪の状況を自ら引き寄せてしまいがちだ。経営者たるもの、臭い芝居には目を瞑って坂井の死に学ぶべきである。こういう台詞をいつか使ってみたいと思うのだが、それにはまだまだ修行が足りないようだ。

 とにかく「仁義なき戦い」の全シリーズを観てみようと思ったら最初の一歩である本作品をまずは観て、主たる人物のキャラクターを把握しておこう、と言っても何人かは手を変え品を変えゾンビのように復活したり入れ替わったりしているので見る者を混乱させる。

 後に「ピラニア軍団」として名をはせる脇役、川谷拓三志賀勝はすでに登場、それぞれに活躍するので見逃さないように。特に薬物製造に関わる理系のチンピラ(か?)・福本清三も要注目だ、何が「要」って理由はないのであるが。

2005年10月30日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2005-10-30