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第五福竜丸


■公開:1959年

■制作:近代映画社

■制作:

■監督:新藤兼人

■助監督:

■脚本:八木保太郎、新藤兼人

■原作:

■撮影:植松永吉、武井大

■音楽:林光

■照明:田畑正一

■編集:

■美術:丸茂孝

■主演:宇野重吉

■寸評:

ネタバレあります。


 第五福竜丸は米国がビキニ環礁で行った水爆実験のとばっちりで被爆した漁船である。米国はこの事件に対して「漁船はスパイをしていたのではないか?」という実に米国的な言いわけをして慰謝料のみ払い法的責任を一切とらなかった。被爆したマグロは市場に出回る寸前に原爆マグロとして廃棄された。米国はかつての敵国に対して21世紀になっても、相変わらず失礼千万であるがその最たるものの一つがこの事件。この水爆の名前は「ブラボー」と言う、実にふやけた名前である、一事が万事、米国の兵器に対する考え方はこんなものだ。

 1954年、家族や恋人に見送られて焼津港から南洋へ出向した第五福竜丸。船長の笠井・加地健太郎はまだ若く、漁労長の見島・稲葉義男、無線長の久保山・宇野重吉に支えられた二十三人の男たちは毎日、普通に漁を続けていた。魚をもとめてビキニ環礁近くで操業していたとき、水平線に巨大な火の玉が出現する。

 きのこ雲を発見した見張り役が「ピカドンだ!」と叫ぶ。直後に放射能を含んだ大量の死の灰が降ってきたが乗組員たちはなんだかわからなかったので無防備に浴びてしまう。帰港した彼らの顔は真っ黒に焼け、脱毛や火ぶくれをおこしていた。地元の医師・永井智雄は精密検査をしてもらうために灰のサンプルを持たせて乗組員数名を東京へ行かせる。3月1日に米国がビキニ環礁で水爆実験をしたことが報道されると第五福竜丸は一気に注目の的になる。

 地元の新聞記者・中谷一郎が第五福竜丸を撮影。乗組員たち・田中邦衛井川比佐志本郷淳江角英明左右田一平金井大のところへ新聞記者たちが大挙して押しかけてくる。助役・殿山泰司らは東京から来た調査団とともに船体や乗組員をガイガーカウンターで検査。その結果、乗組員たちが多量の放射能に汚染されていることがわかる。

 放射能に怯え、散髪屋はサボタージュ、赤線の女たちは身体を調べてくれと大騒ぎ。お土産のマグロは近所に配布済み、それを食べた駐在・三井弘次はパニック状態。急性放射能症に冒され本来なら同情されてしかるべき乗組員たちはまるで疫病神か汚物扱いされ隔離されてしまう。

 最新の水爆に関するアレコレは軍事機密であるから思いっきり非協力的な米国の調査団・ハロルド・コンウェイは実に流暢な英語で記者会見するが、水爆のデータについては徹底的に非開示。日本の科学者たち・十朱久雄千田是也清水将夫は必死に治療法を研究。米国の調査団の目的は治療ではなく調査なので歩きタバコで実に横柄極まりない、ムカつく家族。乗組員たちは東大病院へ送られることになる。まるで実験動物のような扱いに彼らの不満と不安がヒートアップ。

 東京へ移送するために飛行機を供出するという米軍に対し「まず謝れ!」という乗組員たちの主張は実にクール。東京第一病院の主治医・浜田寅彦は臨床医として心を込めて患者たちを励ます。日毎に衰弱していく患者もいるのに、さらに負担のかかる精密検査を強要する米国調査団の申し出を突っぱねる医師たち。第五福竜丸もまた実験材料として備品を剥ぎ取られ丸裸にされる。大切な働き手をとられた女房や娘たちは必死に働く。

 乗組員たちは詳しい事情を知らされていないから新聞やテレビの報道に一喜一憂する。最年長(四十歳)の久保山が危篤状態になり妻・乙羽信子と子供たち、母・毛利菊枝が呼ばれる。多くの漁船から応援の無線が届くが、一時は持ち直した久保山は「身体の下に高圧線が通ってる」と言い残し七転八倒して死んだ。

 実在の、残された乗組員の方々はその後、何人か亡くなられた方もいらっしゃるのだが、現在、当時の輸血に起因するC型肝炎にも苦しめられているという。

 漁師にとって船は生死を共にする相棒であるから、無言の福竜丸が最も雄弁に抗議しているように見える。福竜丸はその後、練習船に転用され東京湾に放置されていたところを救出され、現在は保存されている。おそらく関係者の中で最も長く現存すると思われるのは第五福竜丸である。

 ゴジラが水爆実験により蘇り日本に来襲するのはビキニ環礁の実験から8ヶ月後、久保山さんが亡くなられた約1ヵ月後だ。戦争さえ起さなければ原爆や水爆の惨禍に遭遇しないと思っていたらとんでもないのだ。いつどこで、どのように被爆するかわからない、核保有国とかいう国の上のほうの人たちは今日も、自分たちだけが犠牲にならないところで密かに核実験を続行中なのであるから。

2005年09月04日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2005-09-04