「日本映画の感想文」のトップページへ

「サイトマップ」へ


IZO(以蔵)


■公開:2004年

■制作:IZOパートナーズ、チームオクヤマ

■制作:野秀夫、波多野保弘、伊藤秀裕

■スーパーバイザー:奥山和由

■監督:三池崇史

■助監督:

■脚本:武知鎮典

■原作:武知鎮典(原案)

■撮影:深沢伸行

■音楽:遠藤浩二、友川かずき

■照明:杉本崇

■編集:島村泰司

■美術:松宮敏之

■主演:中山一也

■寸評:

ネタバレあります。


 「田園に死す」の三上寛か?友川かずき。

 テロリスト、それは中山一也をおいてほかにその役柄を尋常ならざるリアリティをもって体現(表現ではなく)できる俳優を知らない役どころである。なにせデビュー作が実在した連続殺人鬼を演じた「冷血」だからなあ。実人生でも、ちょっとあり得ないんですけど?なキャリア。作家を刺して、映画館に車で特攻かけて、腹切りまでやってなお現役の俳優でしかも世間の常識的にはほとんど「無名(知ってる人は彼がクレジットされているだけで驚いて見てしまうのだが)」というのがさらに謎。

 ちなみにキャスト表には「位相」という表記が散らばっているのだがようするにコレ「マトリックス」らしいぞ。しかし、よくかき集めたもんだなこれだけの役者、そこんところだけは手放しで凄いぞ。曽根晴美とか菅田俊とか東映常駐みたいなのもいるにはいるが。

 岡田以蔵を描いた映画では勝新太郎の「人斬り」。アレも相当に漫画っぽかった印象があり、武市半平太が爬虫類なみの扱いだった。以蔵というキャラクターは権力にこき使われて捨てられた、いわば現代のサラリーマンを含むほとんどすべての労働者、つまりは大した甲斐性も大の男をたたきのめせる力も無い市井の野郎どもから強烈なシンパシーを抱かれる人物で、大河ドラマ「勝海舟(渡哲也→松方弘樹)」の萩原健一も限りなく優しい心を持ったテロリストとして描かれていた。「竜馬暗殺」の松田優作(暴力沙汰)、勝新太郎(薬物)、萩原健一(薬物&恐喝)、そして本作品の中山一也、大小問わずスキャンダル起すところ(しかも犯罪)までお揃いでなくてもよかろうに、結果的にだけど。

 武市半平太・美木良介の命令で暗殺を繰り返した岡田以蔵・中山一也が処刑される。槍で何度も突かれる苦しみの中で彼の魂は時空を飛び越えてしまう。ゴミ捨て場のホームレスに転生した彼はIZOとして蘇る。反撃されても(わりとやられる)死なない、死にそうになると(死ぬと)別の次元へIZOは飛んでしまう。古代から現代までIZOはひたすら走る、走る。

 殺人を重ねるたびにIZOは鬼に変異していく。武市半平太も現世の権威集団という謎の組織の人間として登場。その組織は殿下・松田龍平、宰相・ビートたけしらで構成されている。肉弾戦なのでビジュアル系(実力にプラスアルファのビジュアル、ファンの人は怒らないように)格闘家の魔娑斗シーザー武志まで出てくるが究極の飛び道具はボブ・サップ。人体分断はかの石井輝男監督の「怪談・昇り竜」以来の再会だ。今度はハリボテじゃなくてCG。

 まともなチャンバラらしきものは壱番の男・石橋蓮司(亡者)くらいなもんであとは殺陣というより刀をバットのように振り回すだけの甚だ乱暴な格闘シーンが延々と続く、っつーかそれしかない。石橋蓮司もがんばってはいるけど「人斬り」の伊吹聰太朗と比べてはイカンか。実験映画の常として同じ状況が繰り返され徐々にエスカレートしていくのだが、いつもながら明確なストーリーもなく絵柄としての殺戮は、箸休めのようなギャグも織り交ぜつつCGやワイヤーを使って派手で分りやすいアイデア勝負。

 宗教、法律、道徳、義理、教育、母性、暴力、情愛、あらゆる権威と名のつく者を斬りまくり。粗暴な描写はもはやお笑いの域に達しているような気もするが、女子供も容赦なし、ただし小学校の教室ではそそくさと退場。IZOはひたすら進む、ずんずん進む、戦死した兵隊たちを従えて(ここんところ、ほとんどロメロの「リビングデッド」)行き着いた先には、出た!日の丸と勲章!左翼好みのターゲット!

 職業軍人・片岡鶴太郎がこれまた典型的というかなんというか。御前会議に集合する位相の権威たち・ビート・たけし、岡田真澄篠田三郎、曽根晴美を斬首したIZOだが殿下は生き残る。下っ端、木っ端は殺されるのだが親玉はほとんど無傷に終わってしまうIZO。時間と空間を駆巡ったIZOはついに己の遺骸と対面する。

 汗水と鼻水たらして武市半平太を斬ったIZO、磔になったのは・・・。

 アイデア勝負の実験映像はストーリィとして映画が持つ収まりをつけるはずの後半部分が難しい。客を突き放すか着地させるか。この映画は「天誅」が背骨。非戦闘員であっても無辜の民というのは存在せず、国家においては人民は等しく何がしかの権力の協力者であり、故にIZOに斬り殺される、IZOを止めることができない、ことを2時間かけてとっくりと説明。

 台詞のほとんどは禅問答のようで意味不明。なんとも異次元な大量殺戮映画、これだけ人が大量に死にまくるといいかげん感覚が麻痺してくる、なにせ2時間ぶっ通しでIZOの一本調子を見せつけられるのであるから。脳内麻薬のような映像はこの監督には毎度のことであるが、兵士としてのIZOの感覚を疑似体験しているような感じ。ただし、一箇所、中山一也の肩口の疱瘡の予防注射の跡はなんとかしてほしかった。あそこで一気に醒めたから。

 緒形拳松方弘樹も殺っといたほうが良かったんじゃないか?にしても京都の殺陣師も久々に大活躍できてお腹一杯だったんじゃないだろうかね、最近時代劇少ないし。

 暴力三昧は無遠慮なのに、男が「夢」見る女の性の部分は実に可愛らしい。股座の神秘から一歩たりとも踏み出せない、しょせんは母親のフトコロに鼻を突っ込むのがせいぜいだと最初からバンザイしている。遊女・中山麻里、サヤ・桃井かおり、母・樹木希林、一応、情婦にはアソコが臭いと悪態ついて頭カチ割るし、母親も真っ二つにするのだが最後はアソコに喰われて終い。頭から血のりかぶったIZOが最後に戻ったのは子宮なのだから。なんだ、結局、アソコかよ。

 中山一也は一生懸命だしその点は好きなんだけど、滑舌が致命的に悪い、ずばり下手、それも拙いという方向の下手。主役の口跡の酷さが最大の負のパワーだったな。ゴージャスなゲスト呼んじゃったから余計に、敵キャラが皆上手い人たちだったからいっそ一言も喋らないほうが良かったんじゃないか?とすら思うぞ。

 ちなみに本作品は良い子は見れないし悪い子も、ガキは見れない、R-15だから。15歳は見れなくて16歳ならいいってか?今ひとつ、よくわからんが。

2005年08月28日

【追記】

※本文中敬称略


このページのてっぺんへ

■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2005-08-28