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醜聞(スキャンダル)


■公開:1950年

■制作:松竹

■制作:小出孝、本木莊二郎

■監督:黒澤明

■脚本:黒澤明、菊島隆三

■原作:

■撮影:生方敏夫

■音楽:早坂文雄

■照明:加藤正夫

■編集:杉原よし

■美術:浜田辰雄

■主演:三船敏郎

■寸評:

ネタバレあります。


 二十一世紀、若くして結婚しスピード離婚したタレントが記者会見よりも先に心境を自身のホームページに発表したとき「ちゃんとお話したかったのでインターネットで発表しました」と発言するに及び、時代は変わったなあと実感。こうなるとマスコミって何?だな。

 てなわけで黒澤明の手になる権力としてのマスコミ(当時)の暴力とそれに抵抗した小市民の、実に黒澤の黒澤のための黒澤映画が本作品。大体、映画というは主張が強すぎると説教臭くてイライラするものだが、志村喬の人間臭さと相俟って上手く消臭されている。

 新進画家の青江一郎・三船敏郎。ここんところでズッコケル人も多かろうが案外とサマになっているから俳優というのは凄いもんだね。彼は雲取山のスケッチに行ったところ木こりのジジイ・高堂国典上田吉二郎とも気さくに言葉を交わすフランクな人柄である。バスが交渉して難渋していた人気歌手の西条美也子・山口淑子をバイクの二人乗りで旅館へ運んであげる。たまたま美也子の部屋に二人でいるところをゴシップ雑誌のカメラマン・三井弘次大杉陽一に激写されてしまう。

 良心派の編集員・日守新一は裏を取ることを薦めたが編集長・小沢栄(小沢栄太郎)は全然無視、世紀のゴシップを掲載した雑誌は飛ぶように売れる。怒った青江は編集長をぶっとばさずに法に訴えることにした。そこへ寝たきりの娘・桂木洋子を抱えた赤貧弁護士の蛭田・志村喬が訪ねてくる。あきらかに金目当てに弁護を引き受けた蛭田であったが堀は博打好きな彼を金で買収してしまう。そんなわけだから、いざ裁判では蛭田はまったく役立たず。

 青江はそんな蛭田をぶん殴ることなく病弱な娘のために美也子に頼んでミニコンサートを開催、オルガン演奏(手元は映らんが)までやってのける。裁判は蛭田のせいでどんどん青江たちに不利になる。裁判に消極的だった美也子もついに参戦。ヘタレだった蛭田も買収の事実を告白し正義感をスパークさせついに勝利を勝ち取る。

 正義は勝つ!人間の善意は地球だって救うのだ!

 というくらい主張がストレートで見てるこっちが赤面するくらいだが、マスコミが抵抗できない相手にはいかに強気で権力者とカン違いしやすいクソ野郎の集合体であるかということを黒澤明がコンチクショウ!という憤りで一気に撮りあげたという感じ。

 そんなクソインテリと小市民が法廷で繰り広げるギグを、能天気な木こり達が結果的に笑い飛ばすところが痛快だ。金に巻かれて娘も救えず、そんな自分が嫌になった蛭田が飲んだくれるバーのシーンもいい。「生きる」の思いつめた公僕よりも、来年も生きなきゃならないやるせなさが迸っているのがいい。娘を失望させたまま失わなければ振り絞れなかった勇気、ゴシップ記事に興奮する民百姓、なまじスーパー人間が出てこないだけに実に共感できる映画だ。

 バイクに乗ってる三船敏郎がすごくカッコよかったので筆者はそれだけで相当に満足。

2005年08月15日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2005-08-16