「日本映画の感想文」のトップページへ

「サイトマップ」へ


四谷怪談


■公開:1965年

■制作:東京映画、東宝

■制作:佐藤一郎、椎野英之

■監督:豊田四郎

■脚本:八住利雄

■原作:鶴屋南北

■撮影:村井博

■音楽:武満徹

■照明:今泉千仞

■編集:広瀬千鶴

■美術:水谷浩

■主演:仲代達矢

■寸評:

ネタバレあります。


 仲代達矢が伊右衛門役であるから、きっと物凄い粘着気質なオーバーアクトが期待できると思っていたらまったく予想を裏切らなかった。しかし、出演者がやたらとゴージャスな「四谷怪談」である。新劇、梨園、宝塚、一枚看板を並べてそれぞれに芝居をさせてしまったためか、特殊メイクのドロドロ場面は意外なほど少ない。

 四谷怪談映画はたくさんあるのだが、豊田四郎ってありなのか?「地獄変」のときと同じ違和感、つまり与えられた条件を使いこなせないもどかしさがフルスイングで炸裂だ。大体、こじんまりしたモノクロームのスタンダード画面がお似合いの文芸映画の大家に、だだっ広い面積でこんな血なまぐさいことやらせてもいいのか?という余計な心配もあったが、俳優の芸に救われた、の感ありだ。

 民谷伊右衛門・仲代達矢は欲望全開の、ほれ、あのビー玉のような目をひんむく芝居、身持ちの悪い悪党で、お嬢様育ちである妻のお岩・岡田茉莉子は馴れない赤貧生活のどん底。みかねた父親が娘を奪回しに来たので伊右衛門は父親を惨殺。家計を助けるために売春もいとわないヴァイタリティー溢れる妹のお袖・池内淳子に年甲斐も無く(ビジュアル的に)横恋慕右した仲間、直助・中村勘三郎は許婚、与茂七・平幹二郎を殺害。悪党同士がばったり出会った伊右衛門と直助、互いの利害が見事に一致、父親&許婚の敵討ちをするんだと騙して、お袖と直助、お岩と伊右衛門は各々同居することに。

 ある日、セレブな伊藤家の娘、お梅・大空真弓が伊右衛門に一目ぼれ、父親の喜兵衛・小沢栄太郎は親馬鹿なので、仕官をエサに伊右衛門を婿養子にと囁く。甲斐性も無いくせに見栄っ張りの伊右衛門は、速攻でお岩を捨てるコトを決意。性悪のお梅は乳母のおまき・淡路恵子の協力を得てお岩に毒を盛る。お岩姉妹とは淫売宿の経営者という関係で知り合いの宅悦・三島雅夫が連れてきた小者の小平・矢野宣との不義密通をでっちあげた伊右衛門はお岩を惨殺、小平も殺して戸板に打ち付け隠亡堀へ不法投棄。

 念願かなってお袖と合体した直助がヘラヘラしていたその夜、死んだはずの与茂七がピンピンしてやって来た。殺したのは別人だったと知った直助は与茂七に斬り殺される。この騒ぎに巻き込まれたお袖も死ぬ。新婚初夜にお岩の怨霊が憑いたお梅を錯乱した伊右衛門が斬り、娘の行方を問い詰めに来た舅の喜兵衛も伊右衛門は殺してしまう。

 伊藤家乗っ取りを企むおまきと懇ろになった伊右衛門だったが、寺の住職・東野英治郎の法力も超越したお岩の恨みはおまきにも及び、仕官を推挙する書簡を鼠にかじられたと錯覚した伊右衛門の手にかかりおまきも死ぬ。そして伊右衛門は、改心を勧めたお岩の亡霊に斬りかかって、折れた刀の切っ先に串刺しになって絶命。

 なんて分りやすいキャラクターなんだ、本作品の伊右衛門は。悩み無用のストレイトさがいっそ清々しいと言えるかも、な、わきゃないだろう。しかし粗暴なパラノイアやらせたら仲代達矢の右に出るものはいませんな。そういう役どころと飄々としたキャラクターとのギャップで観客を手玉に取るのがこの人の十八番だ。たまにはフツーの仲代達矢というのも見てみたいものである。あと、江守徹の抑えた演技とか、関係ないけど。

 直助は一見すると度胸がありそうなのだが、根は小心者で善人、放っておいてもこの設定なら儲け役である。四谷怪談のキャラクターの中で屈指の人間臭さを発揮する役どころに無類のおおらかさを誇る中村勘三郎、もちろん先代。ただ難はヒラミキをぶっ殺すほどのド悪党には到底見えないこと。

 おそでの池内淳子、お梅の大空真弓、こんなところで新東宝の女優対決、ちなみに「東海道四谷怪談」(中川信夫)では性悪お梅が池内淳子だったわけだが、本作品では最も観客の同情をさらったのがお袖だ。本物のセレブ感が漂う岡田茉莉子、本物のお水フェロモンがバリバリの淡路恵子、しめて四人の女の戦いがこの映画の核と思われる。せっかく過剰に力を入れまくる仲代達矢がなんとなく影が薄くなってしまったのがちょっと新鮮。

2005年07月31日

【追記】

※本文中敬称略


このページのてっぺんへ

■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2005-07-31