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大日本帝国


■年度:1982年

■制作:東映

■制作:幸田清、天尾完次、太田浩児、瀬戸恒雄

■監督:舛田利雄

■脚本:笠原和夫

■原作:

■撮影:飯村雅彦

■音楽:山本直純

■美術:北川弘

■録音:宗方弘好

■照明:小林芳雄

■特撮:中野昭慶

■主演:丹波哲郎

□トピックス:

ネタバレあります。


 タイトルからしてキテる映画だ。だからといってタクシー会社大手四社のことではない。え?だからさー、大和と日本と帝都と国際だってば。丹波節が他の出演者の熱演を全部さらっていく、東条英機と丹波哲郎のシンクロニシティ、津川雅彦@太陽族の「プライド」と比較してみるといいかも。

 主要な登場人物は、陸軍少尉の小田島・三浦友和、下町の床屋で二度の応召でサイパンに送られる幸吉・あおい輝彦、その妻の美代・関根恵子(現・高橋恵子)、士官学校出の江上・篠田三郎はクリスチャン(複雑だね彼の立場)、その恋人で肺病の京子・夏目雅子、敗戦後も「天皇が助けに来る」と信じて止まない特攻隊の大門・西郷輝彦、東条英機・丹波哲郎、昭和天皇・市村萬次郎。なにせ途中休憩が入る大作なので有名無名を問わず膨大な出演者数。

 詳しくは日本映画データベースさんところで確認してね。

 太平洋戦争の中でも南方戦線の話。近年の日本映画も教科書も避けてとおるだろう激戦地の話。

 死んだフリをした敵兵にだまし討ちされて死ぬ日本兵・佐藤允湯原昌幸。現地人をタテに逃亡する英国軍。洋上に漂流している敵兵を空から射殺する海軍航空隊の隊長。米兵に凌辱されることを怖れて手榴弾で自決する民間人・佳那晃子。投降しようとする同僚を射殺する下士官・川地民夫。協力的だった現地人・夏目雅子(二役)を証拠隠滅のために射殺する日本兵。民間人も兵隊もバカスカ殺されて、死体は野ざらし。非戦闘員もヘッタクレもありゃしない。

 戦争映画にはつきものの上層部のアレコレも丹念に描かれる。天皇のために戦争をし、戦争を終わらせ、裁判にかけられる前に自殺、自決する者。戦争裁判の席で「天皇陛下に責任なし」と唱える東条英機。最後の御前会議で涙する昭和天皇。

 男臭くて汗臭くて血なまぐさい戦争映画にあって隅っこに追いやられがちの女優さんたちであるが、日本人と現地人の二役を演じる夏目雅子の美しさはぜひまぶたに焼き付けたい。亭主を戦地に取られ、そして東京大空襲をくぐりぬけた関根恵子の「ちくしょう!負けるもんか!」の叫びを経て、大日本帝国は消滅する。

 玉音放送に涙する者もいれば「ああ、やっと終わった」と明るい笑顔あり、はては「さっさと言ってくれればよかったのにさ」と愚痴る者まであり。

 死んだ兵隊の所持品から食い物を強奪する女子供、自決するくらいなら死んだ気になって生き延びろという幸吉の主張はちょっと現実感がないけれどクールだ。米軍が必要以上に下品に描かれているとか、ま、三浦友和とあおい輝彦が演じる将校さんと兵隊さんがカッコよすぎるという気がしないでもないが、なにせ一人残らず何かに憑かれたように熱演なので文句の言いようが見当たらない。

 この映画で珍しいのは昭和天皇が映像として(役者だけど)はっきりと画面に出てくること。東宝の「日本のいちばん長い日」ではシルエットと声だけで松本白鸚(八世幸四郎)とすぐにはわからない。戦争に反対していたという証言を東条英機にさせるのだが、おどろいたのはその東条が敬虔な仏教徒となってしまい「仏様にくらべればこの世の帝王(天皇)なんてたいしたことない」とまで言い放つのである。いいのか?右翼、これで。いや、たぶんきっと本当に言ったのかもしれないが。にしても丹波哲郎ならいいのか?え?どーなんだ?とツッコむほどのことでもないか。

 丹波だけでなく、クリスチャン将校の篠田三郎に至っては、外地の裁判で虐待され、「戦争に負けても天皇陛下が助けに来る」と本当に信じてる西郷輝彦が射殺されると、自らの処刑の瞬間に「天皇陛下バンザイ」と叫ぶのである。戦後の混乱期、闇屋の運び屋として生き、権力をふりかざす巡査・青木義朗を叱り飛ばす(青木義朗を、だよ)関根恵子が最後の最後に帰還した夫を取り戻す勝利の涙に至るまで、「二百三高地」ではうすらぼんやりしていた反戦というか天皇制への批判パワーには驚く。

 本作品は稀有な存在感がある。ということは、全方位に危ないとも言えるのであるが。見終わって残ったのはともかくも、物凄い天皇批判映画だったということ。

2005年05月04日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2005-05-15