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人斬り与太 狂犬三兄弟


■年度:1972年

■制作:東映東京

■企画:俊藤浩滋、吉田達

■監督:深作欣二

■脚本:松田寛夫、神波史男

■原作:

■撮影:仲沢半次郎

■音楽:津島利章

■美術:北川弘

■録音:井上賢三

■照明:元持秀雄

■助監:澤井信一郎

■特撮:

■主演:菅原文太

□トピックス:

ネタバレあります。


 敵対する新生会の会長・須賀不二男のタマを取って服役した村井組の権藤・菅原文太が6年ぶりに出所します。ところが出迎えは弟分の大野・田中邦衛のみ。権藤が刑務所にいる間に村井組と新生会は協定を結び、武闘派の権藤は歓迎されるどころか厄介者扱いです。昔かたぎの村井・内田朝雄とインテリヤクザの現組長の佐竹・渡辺文雄は互いにけん制しあってはいますが新生会は村井組を潰そうと画策します。

 目の前で前会長を殺された新生会の幹部、志賀・今井健二は権藤を目の敵にします。組での居場所を無くした権藤は大野に金を工面させます。大野の実家は赤貧で、弟は障害者、母親・菅井きんは新興宗教にどっぷりとハマっています。権藤と大野は売春ビジネスを始めることにしました。大金を手にした権藤が新生会の賭場で遊んでいると、オケラになった男が新生会のジャイアントロボ・土山登志幸に青大将(本物の爬虫類、田中邦衛じゃないです)を担保に借金を申し込み、断わられる現場に遭遇。権藤はロンパリの薄気味悪いヘビ男、谷・三谷昇と仲間になります。

 大野が路上でスカウトしてきた田舎娘、道代・渚まゆみが客とトラブルを起します。頭にきた権藤が道代を強姦してみると彼女は処女でした。道代は田舎の母親に仕送りするために東京に出てきたのにアテにしていた就職先が倒産してしまった気の毒な娘なのでした。狂犬のような権藤でしたが道代のけなげさにはついホロリとしてしまいます。

 新生会の縄張りを荒らした権藤は、乗り込んできた志賀とその子分たちと大乱闘になります。その最中、谷が捕まってしまい志賀の凄惨なリンチで惨殺されます。頭に血が上った権藤は志賀と対決し顔面をぐっちゃぐちゃにして殺してしまいます。新生会との出入りを避けたい村井組の親分から権藤暗殺を頼まれた大野でしたが果たせません。高飛びの費用を工面するため大野はまた実家に金をせびりに行きますが、母親と弟に頭を仏像でめった打ちにされて死にます。

 独りぼっちになった権藤は村井親分を射殺。村井組の内輪もめを煽って自滅させたい新生会は権藤の居所を北村組の代貸、五十嵐・室田日出男に密告します。閉館した映画館に追いつめられた権藤は弟分たちに、よってたかって殺されます。残った道代は権藤の子供を産みました。

 敵も味方も親分も、逆らう奴らは片っ端からぶっ殺す!ここまで大暴れするキャラクターといえば「仁義の墓場」の石川力夫を思い出しますが、ぶっきらぼうな渡哲也さんと違い、本作品で演じているのは芸達者な文太さんですからその暴れっぷりは職人芸の域であると申せましょう。

 この映画の主人公の生き様は随所にちりばめられたゲリラロケのごとく破天荒でメチャクチャですが、なにせ文太さん、歳も歳ですので一緒に暴れる仲間が実年齢では二人とも文太さんより年長ってのがさらに凄いんですが、分別ざかりなのでいささか違和感があったのは否めません。

 文太さんと対決する今井健二も新生会の血気盛んな暴れん坊という設定でありますが、これもかなりのお歳なので無理やりな感じです。映画以外の部分も取り込んでしまう東映の暴力団映画ですから、文太暗殺を命じられビビリまくるちんぴら・小林稔侍誠直也に大変なリアリティがありました。

 「人斬り与太」シリーズでは情念の濃い場末の女といった役どころでいい味出してる渚まゆみですが今回も儲け役です。権藤に犯され処女のマーキングを泣きながら拭く様に、行き場の無い人間の逞しさや哀しさを文字通り身体を張って(台詞なし)熱演、殴られてもなにされても裸で脱走までやらかしても、権藤以外の男には決して身体を許さないのでした。目の前で他の女と一発ヤッちゃう権藤を残して消えた道代の、きれいにたたまれた洋服(権藤からのプレゼント)にぐっとくる権藤。

 昨今のキレイキレイなドラマにはない小細工なしの人間関係。70年代の東映映画は人として何が大切なのかをクソ熱く語ります。人間関係に悩んだり、やることなすこと上手くいかずにクヨクヨしているような人はぜひこの映画を観ることをお勧めいたします。

 ちなみに権藤が射殺される潰れた映画館の破けた看板は深作欣二監督の「博徒外人部隊」。

2005年01月15日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2005-01-16