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怪談バラバラ幽霊


■年度:1968年

■制作:大蔵映画

■制作:

■監督:小川欽也

■脚本:津川京一

■原作:

■撮影:岩橋秀光

■音楽:長瀬貞夫

■美術:宮坂勝巳

■録音:田中安治

■照明:石田清三郎

■特撮:

■主演:秋川玲子

□トピックス:

ネタバレあります。


 父親の再婚相手と折り合いが悪くなり海外留学していた正子・秋川玲子は、父親の訃報を聞いて心ならずも帰国します。後妻の友子・清水世津は再婚前から関係のあった五郎・椙山拳一郎と服喪期間中にもかかわらず自宅で真昼間からベットイン。そこへ正子が帰って来ます。

 ダンナの遺産が継子の正子にまるごといってしまうことを、豊満な肉体と引き換えにスケベ弁護士・鶴岡八郎から聞き出していた友子は遺言書をひそかに焼却処分。ところが弁護士の正体、っていうか人間性を見抜いていた故人が用意した別の遺書により遺産は全額、福祉事業へ寄付されることになってしまいます。

 友子は正子の姉の澄江・林美樹そして正子の元婚約者の伸二郎・二階堂浩と結託。遺産の分け前をやるからと伸二郎をそそのかし正子を誘惑させます。一度は相続権を放棄したかに見えた正子でしたが、ドロドロの人間関係にあきれ果て、ついでに元彼に騙されていたことを知り、登場人物の中では相対的に潔癖な正子は意地でもこのエロエロ家族に遺産をビタ一文やらずに「恵まれない子供を助ける!」と宣言してしまったので、欲の皮がパッツンパッツンに突っ張った人々によってたかって殺され、死体をバラバラにされてあっちこっちに埋められてしまうのでした。

 タイトルには「怪談」とついていますが正真正銘のエロ映画です。欲望に正直すぎる登場人物たちが下世話に、あくまでも下品に、あくまでもエロっぽく映画は進んでいきます、なにかというとすぐ「寝る」し。ヒロインのはずの正子もあっさりと脱いじゃうので、なんだかなあって感じです。

 殺された正子はとりあえず血まみれで登場。電話をかけ、手足を飛ばして首を絞めたりなんかして、加害者たちを精神的に追いつめていきます。ある者は発狂し、ある者は警察に追いつめられて転落死、復讐を完了した正子は警察が呼んだ僧侶によって供養され成仏していくのでした。

 商業映画とはなにか?そんな疑問すらわいてくる映画です。

 セットも極限まで貧乏臭いし、登場人物の容姿にも見るべきものがなく、同情を一身に集めるはずのヒロインですら・・・飛び道具として機能すべきお色気後家さんもスタイルが今ひとつ、ストーリーはお定まりの遺産相続にからんだドロドロ、ヒロイン以外は全員悪人という救いようのなさ。

 しかし、この映画は怖いですよ、いや、本当に、だって全然笑えませんもの。

 モノクロなのは意図的ではなくたぶんカラーフィルムが買えなかったのでしょう、と思わせるに十分なジメジメとした陰湿な雰囲気。ブサイクな表情もものかは、継子の首をグイグイ絞める後妻の迫力は他の映画には見られないほどの迫力です。かねがね、映画の中に登場する女性たちを見るに、あれくらいの美人なら目先の金よりももっと効率よく稼ぐ方法があるはずなのになぜここで悪事をするのかなあ?と、なんとなくシラけたりなんかしてたのですが、この映画に出てくる人たちは「人生において数少ないチャンスを生かすために人を殺すもやむなし」という妙な説得力があります。

 そして包丁でざくざくと死体を解体していく加害者(後の被害者)たちの「(包丁じゃ)ダメだ、ノコかしな」というきわめて職能的な会話がさらなる現実感をかもし出して、はっきり言って引いてしまいます。

 現代ホラーと呼ばれる平成の映画では、黒板を爪でひっかくような生理的な気持ち悪さや、特殊効果などの意外性でビックリさせられることはあっても、生々しい事件性を感じさせるような怖さというのはなかなか体験できません。

 現実が映画以上なので作るほうが怖がってるんですね、洒落にならないから。

 平和な時代だからこその絵空事のスプラッター映画であったと言えましょう。

 だからこそ、今見ておいて損はない(かどうかは自己責任で)映画なのかもしれません。

2004年11月21日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2004-11-24