「日本映画の感想文」のトップページへ

「サイトマップ」へ


怪談


■年度:1965年

■制作:文芸プロ、にんじんくらぶ、東宝

■制作:若槻繁

■監督:小林正樹

■脚本:水木洋子

■原作:小泉八雲

■撮影:宮島義勇

■音楽:武満徹

■美術:戸田重昌

■録音:西崎英雄

■照明:青松明

■特撮:

■主演:三國連太郎、仲代達矢、中村賀津雄、中村翫右衛門

□トピックス:カンヌ国際映画祭・審査員特別賞、イタリア国際映画祭・監督賞/撮影賞/美術賞

ネタバレあります。


第一話「黒髪」

貧乏暮らしに耐え切れず、美人で情の深い妻・新珠三千代を捨てて上京し、実家が大金持ちの高ビー妻・渡辺美佐子と結婚した若侍・三國連太郎は、生活のグレードアップは達成したものの、心の充足感が全然得られないので、何をいまさらですが、任期を終えた後に元妻のところへ帰ってきます。

そこには相変わらず美しい彼女がいて、若侍の侘びを受け入れ、変らぬ愛情を示すのでした。しかし、一夜明けて若侍が見たのはミイラ化した元妻の姿、そして元妻の象徴であった黒い長髪が若侍の目の前で生き物のようにうごめくのでした。

元妻の本意はなんだったのでしょうか?「浅茅ヶ宿」のような夫婦の切ない和解(原題は「和解」)でしょうか?強烈な自責の念からか、現実なのか虚構なのかわからない中で若侍は発狂してしまいますが、自分の美しい姿を見せておいてから現実を見せて、もう少しで手に入ったかもしれないささやかなシアワセをがっつり奪うというのはかなり残酷な仕打ちです。やはり元妻の復讐だったのでしょうか?

第二話「雪女」

巳之吉・仲代達矢は茂作・浜村純と一緒に山に入って吹雪きに見舞われ、小屋に避難します。眠っていた巳之吉が目を醒ますと白くて綺麗な若い女・岸恵子が茂作に覆いかぶさり冷たい息を吐きかけていました。茂作はみるみるうちにフリージングされ、女は巳之吉にも迫りますが、彼が若くてカッコよかったので「今見たことを誰かに話したら許しませんよ!」といわれて命を助けてもらいます。

精神的外傷でしばらく床に伏していた巳之吉は、ある日、ものすごくキレイなお雪・岸恵子に遭遇し、そのまま結婚します。三人の子持ちになってもピッチピチなお雪でしたが、ある晩、巳之吉から雪女の話を打ち明けられ、とうとう正体をあらわし「子供を大切にしないと許しませんよ!」と言い残して雪の中に消えていくのでした。

空に浮かんだ巨大な目玉、もうすっかり気分はサルバトール・ダリのように超シュール。このあたりをどう感じるかがこの映画への評価の分かれ目。実験的な試みなんでしょうが、なんだかなあ?という感じ。年寄りなら殺して、美男子なら生かしとく。浜村純の立場はどうなんだ?という気もしますが、雪女が岸恵子なので妙に納得です。

第三話「耳無し芳一の話」

盲目の琵琶の名手、芳一・中村賀津雄は慈悲深い住職・志村喬のおかげで寺の下男になります。ある日、芳一が琵琶を弾いていると人の気配が。「芳一」と名前を呼んだのは、立派な武者・丹波哲郎でした。武者はさる高貴な方のリクエストだと告げて、芳一を超ゴージャスな館へ連れて行きます。そこには幼子を筆頭に美しい娘や武士たちが大勢いました。

夜毎、出かけていく芳一を追跡した下男・田中邦衛花沢徳衛は、人魂がブンブン飛び交う安徳天皇の墓所で琵琶を弾いていた芳一を連れて帰ります。住職は、平家の死霊に魅入られてしまった芳一を守るために全身に経文を書きますが耳のところだけ書き忘れてしまいます。

あんなにデカイ耳なんだから見りゃ分るだろう!わざとじゃねえのか?などとちびっ子なら(そうじゃなくても)思ってしまいますが、映画は見せたくないところも見えてしまうので許してあげましょう。宴を妨害され怒った死霊たちの命令で戦闘スタイルの武者がやって来ます。しかし芳一の姿が見えません。そこで唯一見えていた芳一の耳をぶっちぎって武者は墓へ帰って行きます。

この猟奇的なエピソードのおかげで有名になった芳一に、金持ちから興味本位の演奏依頼が殺到、寺は大金持ちになります。うんとこさ痛い思いをした芳一でしたが「気の毒な平家の人たちの魂の安寧のために」と、琵琶を弾き続けるのでした。

やはり功徳は積んでおきたいものです。耳たぶはなくしましたが芳一は金持ちになったのですから、死霊たち・中村敦夫北村和夫村松英子は酷い仕打ちをしても自分らのことを語り継いでくれる芳一に感謝していたのかもしれません。「死霊の恩返し」といったところでしょうか?

第四話「茶碗の中」

関内・中村翫右衛門は水を飲もうとして覗いた茶碗の中に美形の若い男・仲谷昇の姿を見つけます。「キモい・・」と思った関内でしたが豪胆な彼は一気飲みします。若い男の姿はその後もあらゆる茶碗の中に登場し関内に微笑みかけます。ある晩、城の警護の任についていた関内の前に若い男が実体化して現れます。

式部平内と名乗る男を、関内は切りつけてしまいます。男は恨み言を言って姿を消します。同僚たちを呼び、逃げた男を探しましたが見つかりません。同僚・田崎潤からは「疲れてんじゃないの?」と慰められる始末。非番でふて寝をしていた関内に下男・宮口精二が来客を告げます。式部平内の家来と名乗る三人の男・佐藤慶玉川伊佐男天本英世は「傷が治ったら主人がリベンジするからな!」と言います。どう考えてもこの世のものではない三人を、関内はぶった切ってしまいます。シュールの一言につきる出来事の連続に関内は無気味な高笑いをするのでした。

人の魂を呑んだ者の末路は?結末のない第四話に、作者・滝沢修はどのようなオチをつけたのでしょうか?たずねてきた版元・中村雁治郎と作者の家の女・杉村春子は姿の見えない主人を探します。そして水がめの中を覗きこんだ二人は腰を抜かすのでした。

作者のラストシーンは、全話のオチとも言うべき重要なシーンだったかと思うのですが、滝沢先生すいません、大爆笑してしまいました。

ところで美男子の式部平内はどうして関内の椀の中に現れたのでしょう?見覚えないし、最初は特に恨みもなさそうだったし、なんか意味不明に笑ってるし、まさかひょっとしてガチムチ系の関内に惚れたのでしょうか?ストーカーってことでしょうか?そっちのほうがよっぽど怖いような気がしないでもおありません。なわけないので、たぶん、憑依霊があの世に関内を引きづり込もうとしたのでしょう。

セットの豪華さが評判の本作品ですが、最高に凄いのは「耳無し芳一」の幻想の館のシーンだと思います。芳一の「見えない目が想像している」ので現実感はありません。現実はひからびた石塔と墓石ですから、そのギャップも哀れでいい感じです。筆者は第三話が一番好きです。

前進座と新劇俳優でほぼ固めたキャストは、様式美(つくりもの感)の世界造りにピッタリ。ちなみに、壇ノ浦の合戦で八艘飛び(ちょっと危なっかしいけど)を見せてくれたのは義経・林与一ではなく、円山応挙の幽霊画そのものの(失礼!)ような無気味メイクの中村敦夫でした。生身も般若系(どんなだよ!)ですが中村敦夫はこれが銀幕デビューだそうで、なるほどこれなら一目見たら忘れません、夢に出そう。

2004年10月17日

【追記】

※本文中敬称略


このページのてっぺんへ

■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2004-10-18