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明治天皇と日露大戦争


■公開:1957年

■製作:新東宝

■製作:大蔵貢

■監督:渡辺邦男

■脚本:館岡謙之助

■原作:渡辺邦男

■撮影:渡辺孝

■音楽:鈴木静一

■美術:梶由造、黒沢治安

■主演:嵐寛寿郎

■トピックス:新東宝のドル箱であり、引導を渡した日本映画史上空前の超大作映画。

ネタバレあります。


 東宝のドル箱シリーズと言えば「ゴジラと若大将」かと思いますが、新東宝においては「明治天皇」であったかと。そしてなにより嵐寛寿郎のなりきりぶりが見物です。

 なんのことだかさっぱり分らない方も多いと思いますが、とにかく、こともあろうに明治天皇を主役にしてしまった途方もなく大真面目な大作シリーズが、かつて「花嫁吸血魔」とか「九十九本の生娘」とか「女吸血鬼」と同じ会社で制作されヒットしたというのは事実です(って生まれてませんが=筆者)。

 日露戦争の経緯について、開戦にはあくまでも慎重派だった明治天皇・嵐寛寿郎が自衛のためにやむなく御前会議で開戦を決意します。クライマックスは奉天、旅順、日本海海戦。すでに「二百三高地」を鑑賞済みである平成の観客としては、大時代な台詞やバリバリの様式美にはやや引くかもしれませんが、本作品における格調の高さと出演者の「明治、大正、昭和一ケタ世代の男優」たちの男っぷりの良さは感動ものです。

 最初は調子よく進軍を続けた日本軍でしたが、難攻不落の要塞・旅順で長期戦に持ち込まれます。早くしないと最強のバルチック艦隊が来てしまうという緊迫した状況で、日本もロシアも戦死者がうなぎのぼり。明治天皇は戦死者の名簿にじっくりと目を通しつつ、乃木大将・林寛を信頼して解任を阻止。

 作戦参謀の島村少将・丹波哲郎がなんとなく自信たっぷりなのが頼もしい限りです。昭和の日本の男優さんは軍人役が似合うと言われましたが、言いえて妙だなと納得。旅順の後は、東郷中将・田崎潤が率いる海軍の活躍です。有名な「東郷ターン」も出てきますし「Z旗」の話も出てきます。広瀬中佐・宇津井健の硬直演技はいつものことですが、今回はそれがあざとくなくて好印象。

 新東宝が社運を賭けたと思われる物量は、アイデア勝負の平べったくてキレイキレイなCGを見慣れた今となっては、ただただ圧倒されます。地平線まで人がいる!(爆)馬がいる(爆)!陸と海上、特撮も丁寧でした。水の特撮は迫力もありますし、東宝特撮に慣れていると素直に感動できます。

 出演者も当時の新東宝オールスターです。戦争映画なので女優さんはほとんど出てきませんが、嵐寛寿郎のほかに、伊藤博文・阿部九州男、山県有朋・高田稔、井上馨・藤田進、山本海相・江川宇礼雄、東郷中将・田崎潤、乃木大将・林寛、お札や肖像がから切り取ってきたような風貌で、ヴェテランのスタアがずらりと揃います。当時の中堅から若手も島村少将・丹波哲郎、伊集院中将・沼田曜一、秋山大佐・明智十三郎、加藤少将・天城竜太郎(若杉英二)、藤井大佐・小笠原竜三郎(小笠原弘)、広瀬少佐・宇津井健、乃木保典・高島忠夫、伊地知少将・中山昭二、橘少佐・若山富三郎、代議士・天知茂、代議士・杉山弘太郎(杉江弘太郎)、出征兵・松本朝夫、あー書ききれない!っつーくらいわんさと出てきます。

 「二百三高地」と比較すると・・・あ、両方に出てるんですね丹波哲郎と天知茂。

 明治天皇の寛寿郎はほとんど動きません。なんてったって一番偉い人ですから、それでいいのです。妙に顔を動かしたり、眼つきをぎょろりとさせたりしたのでは田舎者になってしまいますから、戦地の兵隊さんと同じものを食べてたとか、夏なのに寒いところで戦っているのを慮って冬服着てたとか、そういうエピソードを丹念に拾うだけで、すごく立派なので十分なわけです。出征する兵隊さんたちが家族と別れるのを、そっと見てたりとかするのもいいです。「長」たるものこういう風でなければいけません。多少(か?)の失敗には目をつぶり、乃木大将をクビにしなかった、というのも凄いです。

 今のところ、日本が最後に勝った戦争は日露戦争ですが、このとき助けてくれた国と後で戦争しちゃったわけですから、なんともやり切れませんわね。

 ところでこの「明治天皇」モノは新東宝倒産後、大蔵社長が起こした会社でフィルムがつぎはぎされ「明治大帝御一代記」という総集編まで作られてます。

2004年09月24日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2004-09-26