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黒い雪


■公開:1965年

■制作: 第三プロダクション、日活

■制作:池俊介

■監督:武智鉄二

■脚本:武智鉄二

■原作:

■撮影:倉田武雄

■音楽:湯浅譲二、八木正生

■美術:大森実

■主演: 花ノ本寿

■トピックス:

ネタバレあります。


 横田基地近傍で食堂兼ラブホを経営している弥須・村田知栄子の息子、次郎・花ノ本寿は従業員(てか、娼婦)たちからボーヤ呼ばわりされて可愛がられています。ちょっとうらやましいと思う人もいるかましれませんが、母親をひっくるめて女の、ある意味、裏の部分をずーっと見てきた次郎としてはなんともいえない挫折感に日々苛まれており、タクシーの運転手・美川陽一郎の娘、静江・紅千登世に思いを寄せて、彼女も次郎に好意を持つのですが、なんと次郎は静江をお友達の共産党員に差し出してしまうのでした。当然、仰天した静江は全裸で次郎の部屋を飛び出し、隣接する横田基地の金網沿いを延々と疾走します。

 次郎は娼婦と寝た黒人兵を刺殺し拳銃を強奪します。米軍将校のオンリーさんであり、物資の横流しで一財産築いてバーのマダムをしている叔母さん・水町圭子が、米軍将校が横領した2万ドルの現金を手に入れることを知った次郎は、共産党員たちとともに叔母さんを襲撃し、ついでに強姦します。が、百戦錬磨の叔母さんに共産党員2名があっさり喰われてしまいます。そんな叔母さんを、次郎は射殺してしまうのでした。

 歳若い娼婦の皆子・滝まり子に強奪した金の一部で大量のプレゼントをした次郎のところへMPと日本の警察がやってきます。次郎が2万ドルまるごと円に換金したので目をつけられたのでした。そういうことが筒抜けってのもちょっと怖いですが、ともかく、米軍のほうが強いですから、日本の警察に引き渡される前に米軍に尋問された次郎は黙秘します。そこへ静江が尋ねてきます。形ばかりの結婚式を挙げた次郎と静江。次郎は黒人兵殺しと、2万ドルの公金横領のカラクリを告白するのでした。

 イデオロギー強すぎ!でした。映画を見ながら頭を使うことが苦手な筆者には、風変わりなリンチを受けているような映画でしたが、映画史上においても、映画の中身はほったらかしにされスキャンダルのほうが有名であるようです。

 次郎が「なにもそこまで」追いつめられる経緯が今ひとつよくわからないし、最後の独白だけってのもねえ、全裸で疾走するゲリラロケ的なシーンが延々と続き、フェンスに激突してひっくりかえるシーンも、そらまあ「おおっ!」ってインパクトはありますけど、なんかモタモタしていて見てるほうとしてはイライラするだけでした。

 「黒い雪」という題名は、ラストシーンのモノクロ反転(この映画はモノクロです)した雪のシーンのことで、「米軍が黒と言えば、白いものでも黒になる」という意味合いのように思えます。なんだかんだと因縁つけてありもしない証拠で戦争をふっかけ、武器産業を潤すことしか考えていないような21世紀の米国ですが、当時からすでに「自国の利益は地球よりも重い」という分りやすさい方針であったことがうかがい知れますね。

 米軍のスキャンダルが公表されてはタイヘンだとイキナリ暴力的になる米軍の取調べ官がステレオタイプで笑えます。いくら「反米映画」でもストレートすぎやしませんか?というわけですね。時代的の「越後屋」じゃないんだからさあ、ということで。

 民族主義もこの映画のテーマかと思われますが、すいません、まったく共感できませんでした。むしろ「反米」のビラを置かせてほしいと頼みに来た学生に「基地のおかげで喰ってるんだ」と言い放って追い返した母親の弥須が、息子が日本の警察に引き渡されると知ったとたんに「基地なんかなければよかった」と叫ぶところに激しく同意です。女は強く、正直です、理屈で生きてません。

 この映画は、わいせつ容疑でフィルムが押収されたり、監督と日活の関係者が起訴されたりで、そっちの再度ストーリーのほうが有名になったわけですが、東映のピンク映画同様「どこが?」という気がします、今となっては。

2004年05月23日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2004-05-23