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盲獣VS.一寸法師


■公開:2001年(2004年一般公開)

■製作:石井プロダクション

■企画:石井輝男

■監督:石井輝男

■脚本:石井輝男

■原作:江戸川乱歩

■撮影:石井輝男

■音楽:藤野智香

■美術:鈴屋港

■造形:原口智生

■主演:塚本晋也

■トピックス:地獄大使も登場するレビューの観客の中にShimoShimoさん発見!

ネタバレあります。


 一寸法師+踊る一寸法師+盲獣。江戸川乱歩な映画を作る監督の御三家といえば、増村保造、井上梅次、そして石井輝男である(筆者認定)。ようするにエロ(増村)・グロ(石井)・ナンセンス(井上)の三兄弟である。

 彫刻展の会場でレビュースターの水木蘭子・藤田むつみは自分がモデルになった作品をまさぐる盲目の男(盲獣)・平山久能と遭遇、その日から蘭子のストーカーと化した彼は彼女を騙して自宅へ連れて行く。盲獣はおびただしい数の人体彫刻で埋め尽くされた変態趣味の隠し部屋へ蘭子を軟禁。毎日、隠微なセックスを蘭子に要求、彼女を虜にした後に惨殺する。

 地獄大使も登場するムーランルージュで偶然、盲獣と出会っていた小説家の小林・リリー・フランキーは謎の小人(一寸法師)・リトル・フランキーが女の片腕を取り落とすところを目撃、追跡するが古い寺の境内付近で見失う。小林はさる大富豪の後妻、百合枝・橋本麗香から行方不明になった先妻の娘・松本朋子を探してほしいので名探偵の明智小五郎・塚本晋也を紹介してほしいと頼まれる。

 花形レビュースターの失踪、美女のバラバラ連続殺人、そして令嬢の失踪、寺の住職と美人後妻の関係は?これらが同時進行する状況の中で、明智と小林(少年じゃなくて)は二人の男の悲しい運命を目の当たりにしていく。

 風呂屋の三助として女の身体をさぐりこれはと目をつけた真珠夫人を、その仲間の目前で解体する盲獣の悦楽シーンは目を背けたくなるほどの残酷ワールドだが、これでもかというくらいの血飛沫の量よりも、実際に世の中で起きている類似事件を日常的に「体験」している観客にとっては想像の産物ではなく、ごく身近な話として奇妙なリアリティがあり、そのことが「気色の悪さ」の原因であり、人間のドロドロとした「生身」をそのまま突きつけてくる作り手の素直さのほうがまさに異次元体験である。

 石井輝男のグロを現実が凌駕している、そのほうがよっぽど怖いのである。

 殺人狂になった盲獣と身体的特徴からグレてしまい人間を深く恨むようになった一寸法師がアナーキーにかつグロテスクに活躍する映画である。低予算をつきつめると、かような絵柄になるのだなあという見た目のしょっぱさよりも、そのワクの中であいかわらず狂気の沙汰を展開する石井輝男の根性がすごい。

 エピソードは「一寸法師」と「盲獣」のほかに、小人の身体を馬鹿にしたサーカスの女を衆人環視の中で惨殺し、仲間を焼き殺そうとテントに放火、あまつさえ女の生首を持って踊るというビジュアル的にめちゃくちゃキテる「踊る一寸法師」も取り込んでいる。

 原口智生のやりすぎな特殊美術と監督の暴走がかろうじて映画たらしめている感は否めないのだが、「地獄」の幼女殺人犯役で人生おかしくなったんじゃないかと心配していた盲獣役の平山久能の熱演には素直に拍手を贈りたい。素顔は好青年である、今後の大バケに期待しよう。

 映画の芝居は「演じすぎない」をもってよしとする、というのを証明して見せた感のあるリリー・フランキー。本当に何もしてない、しなさすぎ、でもそれがよかった。かつて石井輝男の作品で「正常でいることの異常さ」を一手に引き受けた吉田輝雄のポジションだ。

 丹波哲郎はあきらかに私服でラストにちょこっと登場。ところでなんでこんなところに出てるんだ?及川光博。石井映画の常連と化した薩摩剣八郎は一寸法師の兄の人形師役で登場。兄弟愛をスパークさせて泣かせる。

 ところで、こんなに元気な八十歳の石井輝男監督にはぜひとも映像化不可能と言われている「芋虫」にチャレンジしていただきたいのである。今、何を撮ってもイケてる監督にお金を出す太っ腹求む

 この映画で一寸法師を演じたミゼットプロレス(全女所属)のリトル・フランキーさんは本作品の一般公開を見ることなくに2002年8月に急逝されました。リトルさんの「善人ぶり」がにじみ出ちゃってる一寸法師、マジ泣き。

2004年03月21日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2004-03-21