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江戸へ百七十里


■公開:1962年

■製作:大映

■企画:財前定生

■監督:森一生

■脚色:笠原良三

■原作:山手樹一郎

■撮影:今井ひろし

■音楽:斎藤一郎

■美術:西岡善信

■主演:市川雷蔵

■トピックス:

ネタバレあります。


 昔のやんごとなきお宅では、双子が生まれると不吉だとか、将来の跡目争いを恐れてとかで、片方が始末されちゃったり、こっそり養子に出されたり、鉄火面をかぶせられて地下牢に幽閉されたりする話は映画の題材としてはとても面白いです。まず、顔は同じなのに育ちが違うためキャラクターが正反対だったりして、それを主役スタアが二役やるので観てるほうは二度美味しいわけですね。「王子と乞食」のような極端な設定のほうが面白いですが、本作品では二役とはいえ対面のシーンもなく、あくまでもご落胤のほうの活躍が中心です。

 自分の出自をちゃんと知っている若い浪人、長谷部平馬・市川雷蔵は「剣の道を極めるとヲタクになる」と考え、家に伝わっている名刀を証拠の品として津山十万石の国許家老の中橋茂右衛門・荒木忍を訪問し「絶縁して江戸で暮らすから刀を買い取ってくれ」と交渉、大金をせしめて気ままな一人旅に出ます。ところが本人の意思とは別に、津山藩では、小森家の正嫡であり、かつ、平馬の双子の兄である小森亀之助・市川雷蔵を亡き者にして妾腹の息子を藩主にしようとする、次席家老の大坪兵太夫・香川良介の陰謀が盛り上がってる真っ最中だったので、平馬は亀之助の身代わりとして松平福姫・瑳峨三智子とお見合いをする羽目になります。

 お殿様になる亀之助には実は彼女がいたのですが、相手が身分が低い腰元の桔梗・五月みどりだったので、無理やり別れさせられていたのでした。しかし桔梗は根性のある娘だったので、見合いに向かう津山藩の行列を、平馬と亀之助が入れ替わっているとも知らずストーカーし、あまつさえ陰謀派の襲撃隊長、関屋十三郎・千葉敏郎のパシリに利用されてしまいます。すったもんだあって、平馬とラブラブになった福姫は、用人の塚越助左衛門・中村鴈治郎のイキな計らいで家をオン出されたおかげで平馬と一緒になります。桔梗も亀之助の腰元としてカムバック、万事めでたし。

 やんちゃな若者と高貴な若様、やってるのが市川雷蔵なのでどっちでもめちゃくちゃ似合うわけで、客の期待は裏切りませんが、二人が対面するシーンがなかったのは惜しいです。替え玉なので、うまくイっちゃったらまずいため、お色気ムンムンの嵯峨三智子のモーションを必死で断わる雷蔵の狼狽ぶりはファンとしてはもっとも重要な見どころかと思われます。で、その嵯峨三智子もノリノリなので、かなり笑えます。

 身分を隠してアブソリュートリーな旅をする市川雷蔵のほかの作品に「陽気な殿様」というのがあります。平馬と正反対のライフスタイルを選択した剣ヲタの宍戸丈之進(な、なんてえ役名だい!)・島田竜三の役どころは「陽気な〜」では天知茂でした。勝負をするためには時には(結果的に)平馬の味方になったりする丈之進、「陽気な〜」のときの天知茂さんのマニアックさに比較すると島田竜三のほうがなんとなく人が良さそうなのでイマイチです。

 全体に明るくほのぼのとしたムードが漂うのは、東宝でサラリーマン映画を書きまくった笠原良三のカラーでしょうか。「陽気な殿様」も森一生と笠原良三のコンビだし。マニアックで色気のある「眠狂四郎」もいいですが、雷蔵さんのすっとぼけた妙味のあるこういう喜劇のほうが個人的には好きです。

 若い二人をナイスサポートする年長者の活躍というのは時代を超えて楽しめる筋立てですが、いつもはヒヒオヤジ系で凄みを利かせる中村鴈治郎が大人の風格でいい感じです。悪役の香川良介といい、見合いの仕掛け人として登場する土井信濃守の柳永二郎といい、口跡が美しく押し出しの立派な俳優さんが本当にいなくなった21世紀の日本から見ると実にうらやましい映画であります。ロケも綺麗です。

2004年02月15日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2004-02-15