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日本の首領 野望篇


■公開:1977年

■製作:東映京都

■製作:俊藤浩滋、日下部五朗、松平乗道、田岡満

■監督:中島貞夫

■脚本:高田宏治

■原作:飯干晃一

■撮影:飯干晃一

■音楽:黛敏郎

■美術:佐野義和

■主演:佐分利信

■トピックス:衣装デザインは芦田淳。

ネタバレあります。


 親分が健康であるということは組織の結束力を向上させる最も重要な要素の一つである。それはヤクザだろうが民間企業だろうが、まして政治家ならなおさらである。まかりまちがっても訪問先の歓迎レセプションでゲロなど吐いてはいけないのだ。

 さて、本題。

 過剰な大芝居と貫禄でもって見てくれは堂々としているが生き残るためにかなり他責的な大親分である佐分利信の「日本の首領」シリーズ。

 主治医であり娘婿でもある恭夫・高橋悦史が経営する病院を退院した関西圏の中島組長、佐倉一誠・佐分利信の快気祝いの宴。舞台裏では佐倉を見限って関東のファミリーへ組するフロント企業が続出している現状を憂う男が二人。1人は低学歴で猜疑心の強い片岡・成田三樹夫、もう1人は前作で解散した辰巳組の若衆であり東大出身で野心全開の松枝・松方弘樹

 関東進出をもくろむ佐倉は松枝に一任するが当然ながら中島組の生え抜きであり兄貴分の片岡は面白くない。松枝が対決するのは「関東連盟」でありその親分は政治家と強いコネクションを持つ超大物、大石・三船敏郎である。客の目から見てもとうてい勝てるわけないと思われる相手なので、賢い松枝は三船が苦手そうな色仕掛けでアプローチを開始。大手郵船会社の社長、田代・渡辺文雄が男色家と知ればシスターボーイ系ちんぴら・にしきのあきらを差し向け、無類の女好きである石油産出国の首領・ユセフ・トルコには、許婚のいる純情な看護婦・金沢碧を生贄として献上、没落貴族の令嬢(か?)・岸田今日子の迷惑な好奇心を利用して一気に攻勢に出る。

 「仁義なき戦い」のカラーで登場し、山村親分とは大違いの人徳あるオヤジ・嵐寛寿郎のタマを取られ一匹狼として大・三船敏郎を襲撃した天坊・菅原文太の違和感が物語るように、ここは女のドラマに注目しよう。

 佐分利信の養女で次女の真樹子・折原真紀は不良米国人のアル・ジョシュワ・ロームと一緒に暮らし始めるのだが、アルがとんでもない浮気者だったのでぶち切れた真樹子は泣きながらスポーツカーを暴走させトラックの下敷きとなり炎上した車とともに焼死。おまけにトラックの運転手も死んでしまうという、過激なお嬢様パワーで圧倒的な存在感を示す。そんな不良娘でもやっぱり可愛いので、発作に倒れた佐分利信の夢枕に立つ。

 そしてこの映画の最大のヒロインは、ただでさえうだつのあがらない、だけど人柄だけは良さそうなチンピラ、柴田・星正人と婚約しつつ、佐分利信とユセフ・トルコに言い寄られ、岸田今日子の手によってファーストレディーに育成された看護婦のかおる=金沢碧である。このままいけば「デヴィ夫人」とでも呼ばれたかもしれないが、いよいよトルコの元へ嫁ぐ日の朝、彼女の死体が路上で発見される。

 あらかじめ佐分利信に「ヤクザは女を殺さないが、政治家は手段を選ばない」と意味深発言をさせ、ユセフ・トルコと関西系の命脈を絶つために幹部の鬼沢・小池朝雄が出すぎたまねをしたのではないか?と疑った三船の詰問に対し、否定しつつも含み笑いを残した小池朝雄。自殺を疑わなかった松方弘樹。さて、真実は如何に?筆者的には女の意地と恥で「自殺」と確信したいが、さて?

 菅原文太の襲撃事件では弾丸が肩口をかすめただけで堂々と生き残った三船に対し、関東からの撤退を余儀なくされた佐倉。「身内を統一できなくて、日本が統一できるのか!」と八つ当たりされた松方弘樹が選んだ道は拳銃自殺。インテリの末路というのは共感しにくいが、身につまされるものである。

2004年01月25日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2004-02-01