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総長の首


■公開:1979年

■製作:東映京都

■製作:俊藤浩滋、本田達男、田岡満

■監督:中島貞夫

■脚本:神波史男、中島貞夫

■原作:

■撮影:増田敏雄

■音楽:森田公一、ジョニー大倉

■美術:井川徳道

■主演:菅原文太

■トピックス:ノンクレジットであの大物俳優が出演(それほどのものかどうかはともかく)

ネタバレあります。


 ゴミ箱に襲撃をかけるルンペン、脳梅毒にでもおかされた娼婦軍団、盆の踊りのおしろいメークの大集団。この映画の主役は実はこうした時代を語る「その他大勢」だったのではないだろうか?いきなり女性ルポライター・夏純子のナレーションから始まったときには、一体どうなることかと思ったが、菅原文太との強引な因縁話によりトウのたった不思議キャラとして成立。

 松方弘樹が不在だと今ひとつキレがないなあ中島貞夫は、と思うのは私だけ?

 関東大震災の記憶も生々しい昭和初期の東京、震災孤児の兄弟、兄の八代一明・小池朝雄は表向きはペンキ屋を営み裏ではやくざと兄弟盃を交わし右翼の鉄砲玉集団「血桜団」を結成。一明の死後、浅草へ舞い戻った弟の順二・菅原文太と血桜団の若い衆、新堂卓・清水健太郎、金井鉄男・ジョニー大倉、長谷部稔・三浦洋一がそれぞれ恋に生き、苛烈に全滅していくまで。

 タイトルは「総長の首」だが実はそんなものはどうでもよかったらしい。物語は若者たちのドラマに重点が置かれており、ヴァイタリティーあふれる関東侠友会組長・梅宮辰夫の豪腕によって駆逐されていく浅草の地元やくざの花森組組長・安藤昇と、梅宮辰夫の兄貴分でありながらも安藤昇と兄弟分の鶴田浩二の大時代な芝居も完全に脇へ追いやられている。

 愚連隊映画が身上の中島貞夫が撮るやくざ映画らしく、他人様の死に花でさえ自らのアップを要求してしまうナルシスト王・鶴田浩二が、どぐされチンピラ(うち1名は福本清三、どんなに遠くても一目でわかる)に望遠キャメラの彼方でフクロ刺し(地べたを這うシーンはスタンドイン)にされるし、安藤昇は菅原文太のうっかりミスで殺されるし、やはりこの映画の主題は大人の人たちではなかったのである。

 震災のおかげで声が出なくなり街娼になった朝子・ホーンユキと今のようにパンパンに太っていない清水健太郎、肺病病みの娼婦・松田英子と三浦洋一、多情な踊り子のナナ子・森下愛子と中年男の浮気現場に居合わせ朝鮮人だから「接吻しない」とまで言われ逆上し殺人を犯してしまうジョニー大倉、そして、梅宮辰夫の子分・舟木一夫と恋仲の池玲子(現職は貸衣装屋の経営者だが出自はズベ公のリーダー、ファンサービスというものである)、と実に多彩な恋愛ドラマが同時進行してしまうので、ちょっとドタバタしてる雰囲気はあるのだが、そんな中で本線とはあまり関係ないのに異常に活躍した俳優が存在したことは見逃せない。

 梅宮辰夫の命を受け、銭湯で小池朝雄を襲撃した岸田森。ほとんどの出演者が腰タオルであるにもかかわらず、ただ1人手ぬぐい一丁に素っ裸というセクシーな姿で登場し、湯船で小池朝雄にのしかかりこれを刺殺するや、ボカシまで入れて全裸のまま逃走するという大暴走状態。そういえば松方弘樹と伊吹吾郎が裸でからむ「脱獄広島殺人囚」も中島貞夫監督だったな。趣味?こういうの。

 そして、監督の思い入れがたぶんコイツに一番強いんだろうなあと思わせたのが、これといって何のとりえもない海野蛸八・小倉一郎。俳優を目指しドサ周りの劇団に参加するが要領が悪く毎日どつかれ、年寄りのボードビリアン・西村晃による 「天井桟敷の人々」のジャン=ルイ・バローを思い起こさせる「自殺志願」の舞台を見ている観客があまりにも下品であったのでこれに絶望した西村晃が叩き割った一升瓶のガラスを食べ始めたのを見てフルスイングで挫折し、浅草へ自主的に強制送還、警察に追われている仲間の居所をゲロしつつも、生き残ってゲイボーイとなりイキイキとした表情を見せた。

 で、その「どうでもいい存在」と書いてしまった「総長」が誰だったかというと、東映の大物プロデューサーである俊藤浩滋なのであった。娘は藤純子であるから、映画の外では本物の「総長」クラス。襲撃で重傷を負うがどっこい生きてる。

 浅草の露店の一つ、恋人の行方を尋ねられた易者が一言「西、西だな」と一言。鶴田浩二の舎弟として梅宮辰夫を襲撃した代貸・田中邦衛の名前が「丹波」だったので悪い予感がしていたのだが、突然登場したのが丹波哲郎。これは意外というべきか、客の期待に応えたというべきか。たぶん後者ということにしておこう。

 かくして、巨悪は栄え、民衆は何事もなかったかのように日常生活に戻り、回転木馬は回り続けるのである。

2004年01月31日

【追記】

2004/02/04:藤純子は俊藤浩滋の「一人娘」ではありませんでした。お兄さんとお姉さんがいらっしゃるそうです。大変失礼いたしました。

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2004-02-04