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無宿(やどなし)


■公開:1974年

■製作:勝プロダクション、東宝

■製作:勝新太郎、西岡弘善、真田正典

■監督:斎藤耕一

■脚本:中島丈博、蘇武道夫

■原作:

■撮影:坂本典隆

■音楽:青山八郎

■美術:太田誠一

■主演:高倉健

■トピックス:

ネタバレあります。


 筆者が北野武の映画をどうしても好きになれない、というか「小粒」に見えてしようがないと思ってしまう原因が俳優でありプロデューサーでもあり、おまけに監督業までこなした勝新太郎の存在でした。そんなわけなので、北野監督が「座頭市」を撮ると知ったときには思わず膝を打ってしまいました。以降、なんとなく気持ち的に北野監督の映画に抵抗がなくなりました。

 ロベール・アンリコ監督の「冒険者たち」という映画は日本でタイヘン人気がありますね。題名が「冒険者たち」という邦題および内容もそのまんまの日本人による作品もあるようで(見たことありませんけど)。

 勝新太郎、高倉健、梶芽衣子、このキャスティングだけで筆者としては満点合格ですが、とかく陰湿で冗長になりがちな邦画なのに、この作品は本家のフランス映画のように「垢抜けないモダンさ」を正直に継承していて、その素直さが高感度大であります。

 まったく出自の違う二人の男が刑務所から出所します。錠吉・高倉健は殺された兄貴分の仇、仙蔵・安藤昇を追っています。玄造・勝新太郎は沈没した船から財宝を引き上げようとしています。錠吉が兄貴分の女房を訪ねて女郎屋へ行くと彼女はすでに病死しており、そこにいた女郎のサキエ・梶芽衣子は錠吉に頼んで足抜けさせてもらいます。逃げる途中の二人は玉井組の磯吉・今井健二と勇作・石橋蓮司に目撃されてしまいます。

 錠吉は玄造が止めるのも聞かず仙蔵を倒し、その仙蔵に兄貴分の殺人を依頼した男がこともあろうに親分の大場・大滝秀治と知ったので親分も殺害。その結果、玉井組と大場組の両方から狙われる状況になった錠吉は、途中で喧嘩別れした玄造とサキエが宝探しをしている入り江にやってきます。錠吉は元潜水夫なのでした。

 潜水夫、お宝、ドリカム、ここまでくればすでにオチは丸見えです。

 三人はあるかないかわらからない宝探しのために、天国のような美しい入り江で夢を追います。そして楽しい日々はそう長くは続かないのです。

 この映画の梶芽衣子は超素晴らしいです。無教養で無邪気な笑顔がたまりません。女優に興味が(全然)ない筆者でありますが、素直に惚れました。「頭の弱い娼婦」というキャラクターは女優にとって美味しい役どころでありますが、それでも、なお、です。村の祭りの雑踏で夢中になって露店を巡っているうちに健さんを見失ったときの表情は、言葉で語られないこの娘の不幸な生い立ちを凝縮しています。笑顔が消えて不安げな視線になったとき思わず胸が「きゅん」としちゃいました。負けてません!本家のジョアンナ・シムカスに!(ファンの人ゴメン!)てか、コンセプト違うから比較できませんが、そもそも。

 大量の汗をかいて走り回る勝新太郎と、静かに立っているだけで過剰にカッコいい健さんの対比も、さすが名プロデューサー(伯楽)カツシン!とでも声をかけてあげましょう。ほかに、泣き売の神津善行はその貧乏臭さが適役過ぎて大笑いです。女郎屋の女将・荒木道子もカッコいいし、勝新太郎の弟分をやった山城新伍も出しゃばらず(無理ですが、あの二人相手では)よい塩梅でした。

 このようにキャスティングもスンばらしかったのですが、なんといってもこの映画はキャメラの美しさに目を見張ります。撮影は監督の斎藤耕一と「津軽じょんがら節」「約束」でもパートナーだった坂本典隆。

 勝新太郎は脚本をすっ飛ばして即興的に演出する人(ね?誰かさんと似てるでしょ?)であったそうで、だからまとまりつかなくなって、面白いんだけど空中分解しちゃうことがあったわけですが、本作品は斎藤耕一という勝新太郎が惚れた監督にまかせた部分(仙蔵と錠吉の対決シーン)もあったため「カツシン・ワールド」化しなかった分、まとまりがあってさらにサービス満点な映画になったと思いました。

2004年01月18日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2004-01-18