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かごや判官


■公開:1935年

■製作:松竹キネマ(京都)

■製作:

■監督:冬島泰三

■脚色:冬島泰三

■原作:

■撮影:伊藤武夫

■音楽:直川哲也、杵屋正一郎

■録音:土橋武夫(土橋=つちはし式発声システム)

■美術:渡辺昭

■主演:高倉健

■トピックス:

ネタバレあります。


 小市民の浅知恵とスーパースタアの大岡越前守の名推理が落語の世界で繰り広げられる戦前の時代劇。

 駕籠屋の権三・坂東好太郎と助十・高田浩吉は、米屋の隠居が百両の金を奪われた上に殺されるという強盗殺人事件の真犯人らしき人物を目撃します。しかしかかわりあいになることを恐れた二人は奉行所へ行きませんでした。犯人と思われる人物は二人と同じ長屋に住んでいる、身持ちの悪い浪人の黒川勘十郎・沢井三郎。しかし実際に捕らえられたのは小間物屋の彦兵衛・井上晴夫で、隠居所の女中のお元・葵令子と主人の証言により彦兵衛には死罪が申し渡され処刑されてしまいます。

 権三と助十は処刑場の近くで事件の真相を語り合いますが、偶然そこへ居合わせたのが彦兵衛の息子の彦三郎・林敏夫でした。彦三郎は父親の無実を信じています。権三と助十は勇気を奮い立たせて奉行所へ訴え出ましたが、取調べの結果、黒川は釈放されてしまうのでした。

 さて、真犯人は誰なのか?というより、どうやって判明するのか?最初はしり込みしていた駕籠屋のコンビが無実の罪で死んだ小間物屋の息子の熱意に動かされ行動に出たとたん、どうやら間違いだったということになり、どうしようかとオタオタしていると、今度はその真犯人らしき人物に「責任を取れ!」と脅迫され、結果的に逃亡の手助けをさせられそうになりますが、それもこれも真犯人を泳がせて動かぬ証拠をつかむためにスーパー奉行の大岡越前守・林長二郎が考えた作戦だった、というオチです。

 妻帯者の権三、兄弟同居の助十が、真実を言えずに「隠し事」をしていたためお互いの家族から追及され、夫婦喧嘩と兄弟喧嘩が同時にスタートし長屋の連中のかっこうの見世物になってしまうところが笑えます。紙のように薄っぺらな長屋の土壁が兄弟バトルの衝撃によって激震したため隣家(権三の家)の台所近辺に被害を及ぼしたところで今度は権三夫婦VS助十兄弟へバトルの対象が変わってしまうところなんか、まるきり落語の世界です。

 まだ林長二郎だった長谷川一夫や、彦三郎を演じた林敏夫の演技が歌舞伎っぽいのは出自のせいなので気にしないで見ましょう。本当に顔がかわいらしくて、この映画でも誤審を詫びようとする越前に「謝らなくてもいいから父親を返してくれ」と懇願し観客の同情を独り占めしている林敏夫は林与一のお父さんです。

 衝撃的に若い高田浩吉は客の期待を裏切ることなく自慢の歌を披露します。同じく松竹の若手スタアとして入社し戦後は堂々たる押し出しで悪役もやった坂東好太郎は、この映画で女房を演じた飯塚敏子と数年後に本当に結婚してしまったのですが、この作品の当時はすでにアツアツだったとのことです。山口百恵と三浦友和みたいなもんだったのでしょうか?

 無実の罪で人が死んでる割には全体にのびやかで明るいのが不思議でありますが、それがどんでん返しのオチにつながっているので観ているほうも安心度200パーセントです。

2004年01月12日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2004-01-18