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忠臣蔵・天の巻・地の巻


■公開:1938年

■製作:日活京都

■製作:根岸寛一 、藤田平二

■監督:マキノ正博(天の巻)、 池田富保(地の巻)

■脚本:山上伊太郎(天の巻)、滝川紅葉(地の巻)

■原作:

■撮影:石本秀雄(天の巻)、谷本精史(地の巻)

■音楽:西梧郎(天の巻)、白木義信(地の巻)

■美術:

■主演:阪東妻三郎

■トピックス:2003年NHK衛星(アナログ)で放送の快挙!

ネタバレあります。


 忠臣蔵である。こういう国民的な時代劇ネタを映画にするときには、新しいエピソードを発掘するかまたは捏造する、キャラクターをいじる、パロディーにする、飛び道具(トンでもない俳優、怪獣、超能力など)を使う、などあるが本作品はいわゆるフツーの忠臣蔵なので、見所は役者の芸に集中。

 勅旨供応役を仰せつかった浅野内匠頭・片岡千恵蔵、指南役の吉良上野介・山本嘉一が浅野家からの袖の下が期待を大きく下回ったのに腹を立て「言った、言わない」レベルの確信犯的なイヤガラセをしたため、内匠頭は装束を間違えたり、本番に大遅刻をしたりした挙句、江戸城内でさらに嫌味を言われてついにキレ、刃傷沙汰を起こして速攻切腹。赤穂城に残った家老の大石内蔵之助・阪東妻三郎が、脱退、ドタキャンあいつぐ元藩士たちを率いて、江戸の吉良邸に討ち入るまで。

 長谷川一夫の「刃傷未遂」という映画を見ると、吉良がそんなに信用できない奴だと分ったなら他からも情報を集めりゃよかったのにね、言われたことを鵜呑みにするほうが悪いんだよな(「刃傷未遂」では主人公=内匠頭ではない、が供応役の経験者に取材したり、吉良が持っていたマニュアルをこっそり盗み見たりして逆に吉良が恥をかくオチになっている)などとも思ってしまうし、最近では吉良が一方的に悪役というのもなくなりつつあるような気がする。

 古典芸能ではありえないけれども、「その時代の忠臣蔵」というのが存在するというのが映画の忠臣蔵の面白いところかも。

 なにせ頭数の多いドラマであるから、歌舞伎では重要な役どころに大きな役者を二役で当たらせることがある。アップというものが存在する映画ではそういう約束事があまり通用しないものだが、この作品は歌舞伎の体裁を映画でそのまま再現してるようで、片岡千恵蔵が浅野内匠頭と立花左近、嵐寛寿郎が脇坂淡路守と清水一角、月形龍之介が原惣右衛門と小林平八郎、など二役を演じる。

 つまり、歌舞伎と映画のいいとこ取りになってるわけだ。歌舞伎が好きな人が見たら色々な「くすぐり」が発見できて楽しいのではないだろうか?

 いくつかのエピソードはフィルムが現存しないらしいので確認できないが、立花左近と大石内蔵助が見せる腹芸のシーンが最大の見せ場。阪東妻三郎と片岡千恵蔵の芸、っつーか役者の意地の張り合いが、「眉ピク」と「大目玉」の顔芸に現れ最小限の台詞で緊張感をみなぎらせて対決し、互いに相手の心中と情の感動して分かれるところまで一気に見せる。立花左近が立ち去る宿屋の廊下は、下がる方向といい舞台の花道そのままを模していて楽しい。

 吉良の間者である腰元・大倉千代子が瑤泉院・星玲子のところへ「討ち入りなんてあきらめました」宣言をしに来た内蔵助が持ってきた文をギッたところを、戸田の局 ・沢村貞子に取り押さえられ(ほほえましいキャットファイトあり)、それでも腹の虫がおさまらない瑤泉院がヒステリー起こして放り投げた巻物がほどけて討ち入りの連判状であることがわかる、というのもオチがまる分りでも、妙に感動してしまう。

 誰もが知ってる時代劇は、余計なことをしないほうが成功する。

 クライマックスの討ち入りシーンは、ときどきコマ落としになるのがカワイイが、序盤に武器倉庫を破壊するなどプロっぽい(っていうか史実に忠実)ところもあって、なお、嵐寛寿郎のケレン味ありすぎの殺陣も見れて、本当はもっと長く見せろよ!せっかく月形龍之介とかいるんだからよ!と、やや物足りなさはあるけれどまずまず大事なところは抑えて、無事終了。

 顔は立派だが声の細い阪東妻三郎と比較すると、月形龍之介の口跡の鮮やかさが素晴らしい。自分で討ち入って、討たれる二役。ほかはなにせフィルムがないため出演した記録にあっても姿かたちが確認できないのが残念

2003年12月10日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-12-14