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鍋島の猫(鍋島怪猫傳)


■公開:1949年

■製作:新東宝、東宝

■製作:佐藤一郎

■監督:渡辺邦男

■助監:古沢憲吾

■脚本:三村伸太郎

■撮影:平野好美

■音楽:鈴木静一

■美術:梶由造

■主演:大河内伝次郎

■トピックス:

ネタバレあります。


 鍋島藩の城下には夜な夜な化け猫が出るという噂でもちきりだったが実物を見たものはいなかった。古道具屋に持ち込まれた立派な碁盤は昔、その上で人が斬り殺されたという因縁つきで寺に奉納されたはずの物だった。左官の棟梁、金兵衛・広瀬恒美が手に入れたその碁盤に目をつけたのは鍋島藩の田沼勘太夫・江川宇礼雄。ひつこく「譲れ」とせまる田沼に金兵衛はしぶしぶあきらめた。

 城主の丹波守・中村彰がさっそく碁を打ちたいというので、田沼が家臣の中から相手を探すが、なぜかここの家来たちはやれ頭が痛いだの、下痢だのとテキトーなことを言って逃げ回る。それならば、と、田沼は今は没落してしまった龍造寺家の又七郎・田中春男を城へ呼ぶ。又七郎は家の再興なんかよりも碁で身を立てたいという世捨て人。しかし、件の碁盤を見たとたん、それがかつて又七郎の父親が殺された因縁のシロモノだと気がついて、顔色を変える。

 たかが碁くらいで目くじら立てんなよなー等と思っていると、案の定、丹波守は打ち損じを又七郎に指摘されて逆上、又七郎を手討ちにしてしまう。又七郎の身を案じた乳母も田沼に斬られてしまい、つくづく龍造寺家、親子二代でお気の毒である。

 さて田沼は又七郎の死体をこっそり埋葬、知らんぷり。しかし金兵衛に発見される。気の小さい丹波守は殺害現場に居合わせた又七郎の愛猫、クロの姿を見て「バケネコ!」と取り乱す。キレた殿様を見た田沼はなぜかニンマリ。

 これは化け猫騒ぎに乗じて、ナイーヴな殿様をパッパラパーにしてお家乗っ取りをたくらむ田沼の陰謀ではないかと推理した藩の重役、小森・大河内伝次郎。そのころ田沼は、又七郎の恋人、お豊・木暮実千代をクロとセットで城中へ。何も知らないお豊はクロを可愛がるが、丹波守はますますパニックに。小森は足軽たちから「化け猫の噂を流せと田沼に命令された」との内部告発を受け、奉納されていた寺から碁盤をくすねて古道具屋に売った寺の坊主もしょっぴいて、田沼の陰謀を暴いた。

 「俺たちは化け物なんぞ見るような人間じゃねえ」という金兵衛の言葉とおり、心にやましいところがなければ祟られることもないという、怪談映画の真理をズバリと突いた映画。

 偉いさんの悪だくみが仲間や職人たちの度胸でひっくり返されるところが痛快。二枚目の仲間、三平・黒川弥太郎をはじめ、棟梁の金兵衛、幽霊にびびった田沼に八つ当たりされて「くそじじい!」とはき捨てる茶坊主、いずれも占領下の日本らしく(?)、お侍さんである小森よりも大活躍してしまうところが面白い。黒猫を抱いた木暮実千代が漫然と微笑むところが、なまじ化け猫本体が出てくるよりも怖かったりするかも。

 猫の恩返し、じゃなかった忠臣という筋立てではなく、化け猫伝説の真相解明という趣。だから木暮実千代がおどろおどろしい扮装で「猫まねき」するんじゃないか?と期待した人たちにはガッカリだけど、たいていの映画が猫の不気味さを出すために大人の猫を使うのに、無邪気で可愛い子猫を使ったのは、悪人たちのおびえる様の滑稽さを助長させて奏功。

 ラストシーンはそんな人間どもの馬鹿騒ぎに呆れた(?)クロちゃんが碁盤の上にちょこんと座って終わるというシャレの効いた演出。ところで戦後の映画では演技派という感じの田中春夫がものすごい二枚目だったことを確認。やはりどうせ観るならイイ男、たとえ化け猫映画でも。神経の細い殿様を演じた中村彰は成蹊大学創立者のご子息で学士俳優第一号、二枚目だけど身体も細く化け猫被害者には適役。

2003年09月23日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-09-28