幻の湖 |
|
■公開:1982年 ■製作:橋本プロ、東宝 ■製作:佐藤正之、大山勝美、野村芳太郎、橋本忍 ■監督:橋本忍 ■脚本:橋本忍 ■原作:橋本忍 ■撮影:中尾駿一郎、斎藤孝雄、岸本正広 ■音楽:芥川也寸志 ■美術:村木与四郎、竹中和雄 ■特撮:中野昭慶 ■主演:南條玲子 ■トピックス:ランニング指導の宇佐美彰朗さんは元オリンピック選手。 ネタバレあります。 |
|
この作品は当時、東宝50周年記念映画にもかかわらず公開期間がとてつもなく短かった、て言うかまたたくまに打ち切られたことくらいしか今まで知られて(それすら知っている人が珍しいのであるが)いなかった作品である。 かれこれ1年くらいかけて琵琶湖の周囲を、元野良犬であるセッター系ミックスのシロと一緒にジョギングしているトルコ嬢の道子・南条玲子にはどうしても会いたい人がいる。それはジョギング途中で出会った謎の笛吹き男・隆大介。「きっとこの人が私の運命の人だわ!ありがとうシロ!」この一件からもわかるとおり、道子は思い込みの激しい女である。 さて、そんなこんなで道子の恩人であるシロは、東京から来た人気作曲家の日夏・光田昌弘に出刃包丁で頭をカチ割られて死んでしまう。思ったとおり、道子はリベンジャーと化し捜査に協力してくれた所轄の刑事・北村和夫の説得もものかは、東京まで日夏を追いかけていく。仕事サボりまくりの道子を許してくれた(代償として肉体すら求めない)神様のようなトルコ風呂のマネージャー・室田日出男は、同僚のトルコ嬢たちと相談しシロの代わりになる犬を探そうと主張するが、道子をライバル視する淀君(源氏名である)・かたせ梨乃は「たかが犬一匹でなにがたがた騒いでんの?」と一喝。 単なるペットロス症候群のレベルを超えた道子のクレイジーぶりは、ますますヒートアップ。 東京にやって来た道子は、日夏の事務所で、日夏にはらまされたと主張するファンに「のぼせるんじゃないわよ!」とのたまう性格の悪い秘書を見てさらにエキサイト、あやうく警察沙汰になるところだったが鍛え抜かれた脚力が道子を救う。 元同僚トルコ嬢で正体はCIAエージェント(たぶんね)だったローザ(いねえよ、そんな奴)・テビ・カムダは日本の風俗についてレポートも書くが、謎に包まれた日夏の私生活データもサクっと調べ上げ、道子に教えてくれた。ストーカーと化した道子は日夏に一方的にジョギング勝負を挑み、あっさり敗北する。失意の道子は、信用金庫(こういうところが妙にリアル)の営業マン、倉田・長谷川初範と婚約した矢先に、あの笛吹き男と再会。 「あたしったら、あんなつまんない男(倉田である、おいおい)を選ぶなんて!」と、これまた恩知らずなコメント(独白である)をした道子は、笛吹き男こと長尾・隆大介から、権力者の織田信長・北大路欣也に惨殺された夫の骸を見て逆上した、お市の方・関根恵子の侍女、おみつ・星野知子のエピソードを聞いて、またまたのぼせあがり、偶然、琵琶湖に来ていた日夏を出刃包丁片手にランニングで追い掛け回し、ついに復讐を果たす。 その頃、スペースシャトルで宇宙へ旅立った長尾は、重力バリバリの宇宙船の中でNASAからの指令を受けていた。宇宙遊泳で船外へ出た長尾は、持参した因縁の笛をちょうど琵琶湖の上に(角度を微妙に修正しつつ)宇宙空間へ放置。「琵琶湖が幻の湖となってもこの笛があるかぎり永遠に残る!」と大真面目な顔でつぶやいていた。 で、よーするに、おみつ=道子、織田信長=日夏、おみつの亭主で信長に殺された長尾吉康=シロ、ってことなのか?いや、吉康は末裔がいるから違うかな?それじゃあ「毛が白い=白髪」いうつながりで、シロ=吉康の父・宮口精二なのか(こ、こらっ!)? 時代を超えた女の一途な執念、だからどうだと言われても困るのであるが、権力者の理不尽さにとことん反骨する橋本忍ワールドとしては、一応、一本スジは通っているわけだ。たとえスジが通っていても、作者の中だけで完結してもらっては困るので、客に伝わってナンボだろ?だってこれ金とって見せる映画だろ? 女の一生をかける対象が犬で、権力者って言うのがチンケでダサい女ったらし野郎で、CIAエージェントってなんだよ?とか、ヒロインが一生懸命になるあまり走り疲れてものすごく顔がブサイクになってしまい、おまけに素人だと言う事実を差っ引いてもどうにもこうにも芝居がヘタクソで、特撮に「日本一の火薬馬鹿」を起用したのに得意技を使わせなかったので全然お粗末だったというのがこの映画の目に見える痛い部分、かつ、すべて。 戦国時代から昭和初期あたりまでの時代を主に舞台とし、男性映画で築き上げた自らのワールドを、時代設定を現代へスライドし、主人公を女性にして挑んだのが本作品だということだろうか? そいでもって再度チャレンジしたのが「愛の陽炎」なんだろうか? アイドル女優の「丑の刻参り」と新人女優の「刃物三昧」、見てくれとやることのギャップの物凄さということでこの2作品は兄弟(姉妹か?)作品と呼ばれよう(嘘である)。 金かけてメジャーなスタッフ、芥川也寸志、野村芳太郎、斎藤孝雄、村木与四郎、中野昭慶(は、ともかく)を集め、主役のオーディションまでやったのにフルスイングでこけた本作品は21世紀になってDVD化されテレビ放送された。しかし、この映画のわけわからなさは現代の知識をもってしてもやはり解明不可能。 なによりも「誰か途中で止める人はいなかったのだろうか?」それが最大の謎。 (2003年09月15日 ) 【追記】 |
|
※本文中敬称略 |
|
file updated : 2004-03-14