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さらば箱舟


■公開:1982年

■製作:劇団ひまわり、人力飛行機舎、ATG

■製作:砂岡不二夫、九條今日子、佐々木史朗

■監督:寺山修司

■脚本:寺山修司、岸田理生

■映像:鈴木達夫

■音楽:J・A・シーザー

■美術:池谷仙克

■主演:小川真由美

■トピックス:本作品が遺作となった、寺山修司。

ネタバレあります。


 老人・宮口精二と少年(時任大作)は村中の時計を盗んで穴に埋めてしまう。時任大作・原田芳雄は南国のとある、外界とは隔絶された村を支配する時任家の本家の主人である。その村には同じ血族同士が結婚すると犬の姿をした子供が生まれるという言い伝えがあったが、旅芸人の捨て子である時任捨吉・山崎努とスエ・小川真由美は夫婦となる。しかしスエは父によって貞操帯をつけられており、鍛冶屋・牧野公昭に頼んでもまったく外れず、おかげで捨吉は不能呼ばわりされる始末。そんな捨吉に、使用人のテマリ・高橋洋子といちゃいちゃしてるところを見せつけたりした大作は、闘鶏の最中にキレた捨吉に刺殺されてしまう。

 村にはこの世とあの世をつなぐ穴があって、次第にそれは大きさを増していくのだが、村人はいたってのんきにこの穴の存在を受け入れ、活用し、郵便配達員に手紙を託したりしていた。おまけにその穴は落ちた子供が這い上がってきたときはすっかり女癖の悪い大人になってたりするのだ。大作を殺して村を逃げ出した捨吉とスエは、やみくもに逃げ回るうちにあばら家を見つけ、そこに一晩泊まって目覚めると、そこは彼らのもとの家。やがて捨吉の周囲に大作の幽霊が現れ、捨吉はモノの名前や言葉を徐々に失っていく。

 鋳掛屋・天本英世が村に時計を売りにきた。捨吉は一人、柱時計を購入し、村人たちから掟を破ったためにリンチされて死んだ。本家の床下から金をかっぱらって遁走、2年前に死んだことにされていた時任米太郎・石橋蓮司が自動車に乗って村に現れ、本家の壁に隠されていた金を強奪する。村の人々は徐々に隣の町へ去っていき、たった一人残ったスエは穴に身を投げた。

 かつて文学座で杉村春子の跡目を継ぐかと思われた矢先に退団、見た目同様に強い鼻っ柱で悪女役を中心に、女の本性むき出しの体当たり演技でブイブイ言わせた小川真由美がものすごく、ものすごい映画。なにせ本物の馬鹿に見えるからすごい、愛娘のぶっ飛んだ姿を知っている現代の観客としてはむしろ笑えないという話もあるが、それはともかく。

 もちろん新劇くずれとアングラ出身の男優陣も熱演なのだが、貞操帯をズリズリしながら村の小道を歩いてくる小川真由美のほんのワンシーンによって木っ端微塵である。冒頭、半馬鹿だったスエが狂気に沈んでいく捨吉と対照的に知能がアップしていくところがこれまたグーだ。

 この映画は寺山映画というよりは小川真由美の独壇場。

 箱舟(アーク)は人類浄化プロジェクト。あの村自体が箱舟だとするならば、やがて文明に惹かれて村を捨て、他所で地に満ち、スエの言葉を借りれば「百年経ったらわかる」、変わり果てた(?)姿で確認された村人たちの姿に客は己をダブらせる。かつて(おそらくは)村のあった場所には団地が建ち、町ができている、穴は消えている。人は神代から現代へ堕ちきってしまったのであるから、もう穴は見つからない、ということか。

 柱時計をくるりと回しただけで日没させてしまった鋳掛屋、天本英世なら別に違和感なし。

 このほか、いつも村を走り回っていた下男のアダ・三上博史、犬憑きの修験者・小松方正、弁護士・江幡高志らが出演。

2003年07月27日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-07-27