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日本暗殺秘録


■公開:1969年

■製作:東映

■製作:大川博

■監督:中島貞夫

■脚本:笠原和夫、中島貞夫

■原作:鈴木正

■撮影:吉田貞次

■音楽:富田勲

■美術:鈴木孝俊

■主演:※オールスタア

■トピックス:小沼正を演じた千葉真一、思い出の1本として本作品を挙げる。


アタマとオシリをくっつけて1本、中盤の血盟団事件で1本くらいはできちゃう、ボリュウムと密度。

暗殺と殺人はどう違うのか?殺人というのはたんに「人を殺すこと」、暗殺というのは「(主に政治的な理由で要人を)ひそかにねらって殺すこと」だそうだが被害者にすれば結果的には同じこと、殺す側の大義名分による区分けにすぎない。本作品が取り上げる、近代日本の暗殺テロ事件オムニバスはおよそ教科書では未達に終わるところだと思われるので、歴史の勉強マインドで鑑賞。ま、生きてるほうはなんとでも言えるってのが歴史の教訓だけどさ。

ドキュメンタリードラマをオールスタアでやってみました。ナレーションは文学座の芥川比呂志。こういうナレーションは新劇俳優が定番か。「日本の一番長い日」は仲代達矢だったしな。

桜田門外で井伊大老を襲撃した一団の有村次左衛門・若山富三郎。大雪の中で大奮闘だが雪多すぎで顔が良く見えず。

大久保利通をふっ飛ばした島田一郎・唐十郎とその仲間達・状況劇場のみなさん。戦隊ヒーローものじゃないんだからさあ、グループのリーダーだからって赤い着物で出てくるってどうよ?目立ちすぎでしょ、それじゃ。けど、残念ながらほとんど顔見えてませんでしたが。

大隈重信に爆弾ぶつけて片足潰した来島恒喜・吉田輝雄。ターゲットの大隈重信が上流階級の証であるトップハット(シルクハット)に燕尾服なのに対して、中産階級の印であるボーラーハット(山高帽)というのがコアですな。負傷して大騒ぎの様子に一礼して、たっぷりタメを作ってから頚動脈一気ぶった切り。血飛沫シャワーで立ったまんまで自決。ちなみに馬場馬術業界では、中級課目まではボーラーハットに乗蘭(タキシード)、上級課目になったらシルクハットに燕尾服である。

その大隈と対立していた豪腕政治家、星亨・千葉敏郎は伊庭想太郎に刺殺されるのだが、犯人は画面に登場せず、カメラが犯人目線で逃げまわる星亨を追い詰めていく。頑強なイメージの千葉敏郎が恐怖に狼狽するのを見ているとだんだん興奮してくる自分がちょっぴり怖い。

安田財閥の当主をジャンプ一閃のち真一文字に切り裂いた朝日平吾・菅原文太はやたらと渋い。が、登場時間は1分くらいだったかも。

人間爆弾計画を土手に寝転がってお友達のテロリストの方々に爽やかに語る古田大次郎・高橋長英。「(ゲーム買う)お金がほしいなあ」と「(爆弾入手のために)お金が欲しいなあ」がほぼ同じテンション。そんなリリカルな大次郎クンは資金源強奪のために罪も無い銀行員を襲撃し、うっかり刺殺。焦った大次郎クンがまるで万引き見つかった高校生のようにマッハ逃げ、でも捕まって死刑。このエピソードが一番心に残るかも。無名の青年が凶行に走る動機があまりにも純粋で幼稚であることと、他の手段を考える金も時間もなかったというところが悲しくて切ない。そういう役どころに、地味だがイッちゃってる役どころが多い高橋長英はハマリ役。

そして本作品においてエピソードのロールがもっとも長く印象的を残すのが、井上準之助を射殺した小沼正・千葉真一である。持たざるものの乾坤一擲が暗殺という殺人しか無いというのが悲しい話。

優秀なのに病弱(には見えないが)、貧乏、不器用、おまけに馬鹿がつくほどの正直者である小沼は、事業にしくじった実家を出て東京で丁稚奉公をするが、非人情な主人夫婦にあいそをつかして一度は帰郷する。しかし、脚気をわずらいまともに働けないのでやっかい者と化し、実直な落合・小池朝雄とその妻・桜町弘子が営むカステラ屋さんに再就職、美人の女中さん、たか子・藤純子がもいたりなんかして小沼は仲間と一緒にそれなりに楽しく働いていた。しかし高利貸に多額の借金をこしらえ、意地汚い所轄の巡査・汐路章に工場の認可をしてもらえなかった落合の店はあっさり倒産、小沼はしかたなく故郷へ舞い戻る。

儲けが少ないからという理由で百姓が芋を川へ捨てている一方で、食うものに困り体を壊して死んでいった民子・賀川雪絵を看取った小沼は、後に血盟団の団長となる井上日召・片岡千恵蔵と出会い住み込みで弟子入りする。根が純粋な小沼は、師匠のところへ出入りしていた海軍軍人、藤井・田宮二郎、鈴木・林彰太郎らに革命を熱く語られたが、理屈はよくわかんないけど、まじめな労働者が馬鹿を見て、公の汚職がまかりとおって、大好きだったお嬢さんがカフェの女給になりさがっちゃうくらい捨て鉢な気分にさせる世相がなんとなく「ヘン」なことは脊椎反射で納得。信頼していた藤井が戦死した後、小沼は井上の暗殺を決行。

二・二六事件。陸軍の相沢中佐・高倉健が対立派閥の少将を「天誅」の気合一発で惨殺。その切り口は武士道というよりは「ザ・ヤクザ」。そしてクライマックスは二・二六事件。磯部浅一・鶴田浩二、村中孝次・里見浩太郎待田京介らが決起するも失敗して全員銃殺。イイトシこいた鶴田浩二に青年将校(実は民間人だけどさ)っていうのは無理がありすぎ。見てるほうがチトツライ。

こういうのオールスタアでやっちゃうのって凄いことだと、今にして思えば、まだまだ存命中の関係者もいて歴史上の事実にすんのは無理、ってことで封印されかかりの本作品。

映画は見る時代によってその印象をさまざまに変えるもんだが、こういう極端な内容は特にそういう見方されるんだろうね。映画としてはちゃっちゃっと作った部分もあって別に取り立てて言うことはないけど、やったもん勝ちという気がしないでもない。イイ気になってる男優陣にまぎれているが、小沼の母・三益愛子桜町弘子藤純子が実は要所を〆る。理屈で生きてないぶん、女性はたくましく、強かな生き物なのでございます。

2003年04月13日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2010-12-05