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瞳の中の訪問者 BLACK JACK


■公開:1971年

■製作:ホリプロ、東宝

■制作:堀威夫、笹井英男

■監督:大林宣彦

■脚本:ジェームス三木

■原作:手塚治虫「ブラックジャック」

■撮影:阪本善尚

■音楽:宮崎尚志

■美術:佐谷晃能

■主演:片平なぎさ

■トピックス:


 大林宣彦監督の映画でときどきすごく居心地の悪い思いを感ずるときがあって、それはどういうシーンかと言うと、いわゆる楽屋オチしているときである。

 手塚治虫の原作で、海難事故に遭遇した女性の網膜に助けを求める恋人の姿が落雷の閃光で焼きついてしまい、そのため女性は新しい恋人と上手くゆかず、いつまでも昔の若い恋人の幻影に囚われていると、ひょんなことから生存が確認されたかつての恋人が記憶を失って今では普通の家庭人として暮らしている事実を知り、女性は静かに身を引くという「ひまわり」みたいなストーリーの「白い幻影」という短編が筆者は大好きなので、この「ブラックジャック」の「春一番」にも同様のネタが使われていたのはかなり嬉しかったのだが、大林宣彦の手にかかったのはいかがなものか。

 ミッション系の女子高のテニス部で活躍する小森千晶・片平なぎさが、優男のコーチ、今岡・山本伸吾が放ったショットに左目を直撃され角膜の移植をしないと失明すると言う危機に瀕したとき、千晶の父親・長門裕之がポンっと資金を用意してモグリの名医、ブラックジャック・宍戸錠に手術を依頼することになり、今岡がアイバンクからフレッシュな目玉をゲットしたので千晶の視力は回復し、パートナーの京子・志穂美悦子とのダブルスも復活。ところが千晶はシャワーあびたり、雨にあたったりすると、不思議な男の幻影を見るようになる。

 おかげさまで千晶はテニス大会の決勝戦で凡ミスして敗退、幻の男に恋心まで抱いた千晶は、その素敵な幻を求めて彷徨するうちに、廃墟でピアノを弾く風間史郎・峰岸徹と出会う。実際、出で立ちからして怪しい風間であるが幻の男にソックリ、っていうか本人、だったので千晶はポーっとのぼせてしまい、再会を誓って風間と別れる。

 ブラックジャックのもとへ、ツルっぱげのタワシ刑事・山本麟一と、アセチレンランプそっくりな、げた刑事・玉川伊佐男がやってきて、千晶に移植された目玉が狭霧湖で殺された人妻、与理子・ハニー・レーヌ(!)のものだと判明、与理子の角膜の「記憶」は間違いなく彼女を殺害した犯人そのもの。そんなこととはつゆ知らず、千晶は風間とともに狭霧湖の屋敷にいた。風間は千晶の左目の「正体」を知っていた…。

 テレビのサスペンスドラマならここで盛りあがるところなのだろうが、どうだろね、このカッタるさは。寮の用務員・藤田敏八、怪しげな医者・石上三登志、色っぽいっつーかエロい事務員・三東ルシア、薄汚いテニスの主審・大林宣彦、ウエスタンの鞍かついだ酔っ払い・千葉真一のケツを悦っちゃんがフライパンでひっぱたくとか、そんな楽屋オチ&意味不明なくすぐり&駄洒落がことごとく話の腰を折りまくるので、映画を楽しもうとしている筆者としては風変わりなリンチを受けているようで喜んでいいんだか悲しんでいいんだかちょっと迷った。

 話に集中してイイのか、コントを見ればイイのか、それとも意外なゲストに驚けばイイのか、そんないっぺんに色々と要求されても困るんだってば。

 思い入れたっぷりに恋に殉じた、第二の赤木圭一郎と言われた頃からちょっとだけ老けた峰岸徹の誠実な大芝居も、悲しめばイイのか笑えばイイのかよくわからないうちに、片平なぎさの笑顔でシメられてしまい映画は終了。アイデア勝負の監督に好きなようにやらせたら、こうなるしかないのかもしれないが、藤田敏八をスクリーンに引っ張り出した功績は大。

 ちなみにブラックジャック役の宍戸錠、アウトロー的なフィット感はあったけれど手塚治虫的なキャラクターとしてはどうだろう?今なら本当に顔がブラックジャックなので再演という話はないのか?ちなみに当時の二枚目、山本伸吾は元ダイエーの秋山選手に似ている、見てみ。寮母役で月丘夢路がゲスト出演、大昔の大女優を飛び道具に使う手法はここでも健在。

2003年01月26日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16