「日本映画の感想文」のトップページへ

「サイトマップ」へ


湖畔の人


■公開:1961年

■制作:東映東京

■監督:佐伯清

■脚本:秋元隆太

■原作:源氏鶏太

■撮影:林七郎

■音楽:小沢秀夫

■美術:中村修一郎

■主演:鶴田浩二

■寸評:東映任侠スタアの苦闘時代。


 東京オリンピックまであと3年。太平洋戦争が終わってから16年。日本人が等しく戦争体験者、という時代からじんわりと無戦争世代へパワーシフトしつつあった頃。

 東京の丸の内(ロケーション的には旧丸ビルか?)で事務系BG(現OL)をしている深井三七子・佐久間良子は近々結婚(たぶん寿退社予定)を控えてルンルンである。上司は子持ちの寡男だが二枚目で男気のある緒方覚太郎・鶴田浩二で、三七子は厚い信頼を寄せている。幸福の絶頂にいた三七子だったが、実は父親が火宅の人だったため、姉の比佐子・故里やよいは愛人生活をして家計を支えてきたという暗い過去がある。

 三七子の同僚で、万事お調子者だが根は善人でしっかり者である矢代孝雄・江原真二郎は三七子が大好き。ちょうどそのころ三七子の婚約者が両親に反対されて婚約解消を告げに来た。おまけに姉のパトロンは入院中、姉は正妻と直接対決中で、妾腹の一人息子をかかえて途方にくれていた。

 そういう弱っているところに優しく出るか、強い指導力を発揮するかされると女性はフラフラとそちらへ行ってしまうものだが、ここでは、暖かいが骨太なアドバイスを与えた緒方が、三七子のハートをクリティカルヒットしてしまう。

 そんなこんなで愛人作って行方をくらました父親を三七子は思いっきり嫌っていたのだが、ある晩、その父親が大阪方面に潜伏中でしかも危篤だという電報が届く。

 交通事故でちょこっと怪我したりするのが、この手のメロドラマの二枚目の定石。緒方も同様で、一人娘がハンディキャッパーというプレミアもあるので三七子の乙女心と母性本能にダブルヒットなのだ。そして、女の敵と言えば「商売女」つまり「女のプロ」だが、これに新東宝難民の久保菜穂子がキャスティングされているのが素晴らしい。同性から嫌われる女をやらせたらたぶん、この人の右に出る人はいないかもしれない。出たがる女優もいないかもしれないが。

 タイトルの「湖畔の人」というのは不幸な生い立ち故の孤独感を、山の中の深遠な湖の写真(モノクロ)に例え、そこで出会える、つまり価値観を共有できる人こそが自分の生涯の伴侶であると言う、三七子のポリシーによるものだ。

 一度は若い部下のシアワセと年齢差から身を引いた緒方が、矢代に「恋のライヴァル宣言」をするところの一生懸命さがイイ。ひょっとしたら鶴田浩二は顔から火が出るくらい恥ずかしかったかもしれない(顔がちょっと引きつってるんで)という憶測が、緒方の中年男の精一杯さとシンクロして切ない感じだった。

 で、そんな映画に鶴田浩二だ。東映に入ってすぐ任侠映画のスタアとしてブイブイ言わせてたわけではなく、東映があわててこさえたニュー東映で低予算の映画に出まくっていたのがこの頃で、片岡千恵蔵ですら「地獄シリーズ」というお手軽なアクション映画に出ていたのだから、当然な気もするが、それはともかく。会社のために働く、という時代をちゃんと経た上でのブレイクだということで、後年のフルスイングな「男の美学」ほとばしる時代遅れの特攻隊は、こういう苦節時代あってこそ。

 そういう歴史的検証において価値がある(かもしれない)ので鶴田ファンは要チェックであるが、単に、カッコイイけどちょっと緩んでる一般家庭のお父さん的な鶴田浩二もカワイイので好き、という見方もアリだ。

2002年11月24日

【追記】

2003年01月03日:加筆。

※本文中敬称略


このページのてっぺんへ

■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16