「日本映画の感想文」のトップページへ

「サイトマップ」へ


現代人


■公開年度:1952年

■製作会社:松竹大船

■制作:山本武

■監督:渋谷実

■脚本:猪俣勝人、斎藤良輔

■原作:

■撮影:長岡博之

■音楽:奥村一、吉澤博

■美術:浜田辰雄、平高主計

■特撮:

■主演:池部良

■寸評:いったいいくつなんだ?良ちゃん!


 万年青年、それは池部良(当時34歳)のためにある言葉である。どうもその、池部さんの映画の話題になると年齢にこだわってしまうなあ。だって当時、池部良は34歳、山村聡は42歳、検事・芦田伸介なんて池部良に説教する立場なのにまだ35歳だもの。ヒロインの小林トシ子なんて二十歳だし、池部良を「ボーヤ」呼ばわりする山田五十鈴は池部良と一つしか歳が違わない。

 国土省建設局の荻野・山村聡の奥さんは結核の療養所にいる。そこを土建屋の岩光・多々良純につけこまれた荻野は、彼から多額の賄賂をうけとり汚職をしていた。また、荻野は岩光の紹介で銀座のクラブのマダム、品子・山田五十鈴と愛人関係を続けてもいた。荻野の一人娘、泉・小林トシ子はダンサー志望で父親の裏の顔については知る由もなく、父母とそろって世界一幸福な家庭建設をめざす前向きな女性。

 荻野の部下の小田切・池部良は、赤本出版をしている父・山路義人、泣き虫の母・水上令子、たぶん無職の兄・安部徹とその家族、そして幼い弟と一緒に国鉄の高架下に住んでいて家庭は悲惨だったがなかなか見所があったので荻野は泉の婿にしたいと思っていた。荻野と一緒に汚職やりほうだいだった部下の三好が左遷され、小田切が後任となったが、岩光はさっそく彼に接近した。

 純情一徹と思われた小田切は意外とドライで、岩光と良好な関係を築き、巧みに小遣いを稼いでしまう。荻野は唖然とするが、真面目な泉に出会ってクラっときた小田切は、泉のために、荻野と岩光、そして荻野と品子との仲を清算させようと決心し、酒の勢いをかりて品子を寝取り、ついうっかり岩光を殺してしまう。

 アプレというのはいかがなものか?ということを描いた映画。アプレと言えば「白昼の死角」で自らの体にも火をつけて死のダンスを踊った岸田森のように、ドライな資本主義者という感じだけど、そういうのに池部良ってどーなんだ?っていう気もしてしまうんだが、実にマッチしているところが凄い。あの、何にも考えないで役者やってる感じが実に良い。だってさあ、最後に良ちゃん死刑になるんだよ。そら、人を殺して証拠隠滅(実は荻野の証拠を隠滅しようとしたんだけど)のために公共建造物に放火しちゃうんだからしようがないかもしれないけどさ、それでニヤリと笑うんだよね牢屋でさ。

 ほーら良ちゃん、何にも考えてないっ!って言うかもっとずっと深刻な映画だと思うんだけど良ちゃんが出てくると画面がすっからかんに明るくなるわけよ。まるで東宝の青春映画みたいでさ、ヒロインがなんで星由里子じゃないんだろうなんて思えちゃう。家族愛なんてのに思いっきり飢えてた小田切が、泉のために後先考えないで行動しちゃうその純粋さっていうか馬鹿っぽさが妙に納得できちゃうんだよね、池部良がやってると。

 深く考えない分、次に何するか予測できない人であるから、さ(役どころが)。

 この映画ではほとんどすべての野郎どもが情け無くて意地汚くて馬鹿でどうしようもないぶん、カッコ良かったのは海千山千の男どもの手玉にとってなお、女の優しさを失わない女傑、山田五十鈴の豪快さ。現代人って池部良のことかと思ったら実はベルさんのほうだったんじゃないかって?そんな気になっちゃうかも。

2002年11月10日

【追記】

※本文中敬称略


このページのてっぺんへ

■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16