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荒海に挑む男一匹 紀の国屋文左衛門


■公開年度:1959年

■製作会社:松竹京都

■制作:橋本正次

■監督:渡辺邦男

■脚本:渡辺邦男、本山大生

■原案:渡辺邦男

■撮影:渡辺孝

■音楽:山田栄一

■美術:川村鬼世志

■特撮:

■主演:高田浩吉

■寸評:台風シーンの特撮が素晴らしい。本作品が特撮映画にカウントされないのが不思議なくらい。


 ゛荒海に挑む男一匹″という看板はダテではない。台風に直撃された船の特撮は東宝や大映の特撮映画に匹敵するほどの迫力がある。のわりにはあまり注目されていないのが気の毒、そのスジの人はよく観ておくように。

 大手廻船問屋、紀の国屋の二代目、文平・高田浩吉は男前で気風も良いので船員たちから慕われている。

 ある日、 積み荷中にご禁制の鉄砲を発見した文平が、ルックスは狂暴だが根はイイヤツで船員たちの精神的なリーダーである権次・名和宏に問いただしていると、同じく船員の死神の半兵衛・藤田進がイキナリ暴れ出した。半兵衛は紀の国屋のライヴァル、南海屋・小堀阿吉雄に唆されて鉄砲の密輸に手を貸していたのだった。しかし文平は半兵衛を役人から守ってやった。貧乏という弱みをつかれた仲間の苦衷を理解してやる文平、さすが後の大物、紀の国屋文左衛門だぜいっ!

 時代が元禄になると世の中ものほほんとしてきて徳川幕府のタガも若干ユルくなってくると元気になるのが豊臣家の残党。将軍綱吉・森美樹(きゃっ!美形!)はイライラついでに紀州大納言光貞・近衛十四郎を含めた譜代大名にも八つ当りして「密輸なんかしてたら速攻取り潰すぞっ!」と脅かす。商人の綱紀粛正に乗り出した紀州家は目付け役の榊原十太夫・ 石黒達也に命じて大手の廻船問屋たちへ強制捜査を断行。

 ちゃっかりヤバいことをしていた商人たちは事が幕府に知れると紀州家が取り潰されると知っておびえるが、紀の国屋庄左衛門・香川良介がスケープゴートになると言い出してヤレヤレ一安心。庄左衛門は爺さんだったのでセガレの文平が身代わりになり入牢、おまけに入れ墨までされてやっとこさシャバに出れたのは4年後だった。面倒見ると宣言していた南海屋、岬屋・海江田譲二、熊野屋・澤村國太郎たちは、紀州の殿様の命令に便乗して没収された紀の国屋の財産をちゃっかり山分けした上に、病身の庄左衛門は頓死、文平の妹、お美輪・中村玉緒は忠義な手代の豊吉・北上弥太朗に引き取られたが結核になってしまう。

 その妹が死んでかなりグレた文平は、江戸へ出た南海屋にタカって夜のクラブ活動に精を出し、遊郭で小判をばら撒いてドンちゃん騒ぎ。たまたまお忍びで遊びに来ていた紀州候と鉢合わせした文平は、そこでかつての剣術の師匠、柳生兵庫・田崎潤に叱責されるが、同席していた榊原十太夫が真相を告白、藩を救った文平親子を気の毒に思った紀州候のとりなしで、文平は船と資金を融通してもらい、台風の中、和歌山のミカンを大量に江戸へ運び大儲けするのであった。

 渡辺邦男は娯楽大作が多いためかどうも過小評価され気味。ま、新東宝で実業家オーナー・大蔵貢による「明治天皇と日露大戦争」というハリウッド映画の「クレオパトラ」みたいな悪口たたかれる大作を撮ってしまったのがケチのつきはじめかもしれないが、本作品を含めて大作を大作たらしめる見せ場の盛り上げ方(多少クサミであったとしても、だ)実力はもっと高く評価されてもイイと思うが。

 で、本作品は松竹グランドスコープでゴージャスこの上ない、だって画面がデカイもん。単なる頑張り屋サンの立身出世物語ではなく、ひととおり不良の限りもやってのけた酸いも甘いも知りぬいた大人のジャパニーズドリーム。サイドエピソードも、貧乏な育ちのお加代・瑳峨三智子とのラブロマンスあり、名より実を取ったブルジョワ娘、南海屋のお妙・伊吹友木子のドライな生き様あり、特撮あり、西洋人が大好きな自己犠牲なんてものを超越した心意気の美しさあり、で見所満載のお得な1作だ。

 いつもなスゴ腕の浪人なんかがカッコイイ近衛十四郎が、大身のお殿様やっても貫禄あって、さすが戦前のジャニーズ系美男子なので上品だよね(ちったあ見習えよ>松方弘樹)、なんて意外な発見もあったりしてチャンバラしないのが残念なところを十分にカヴァー。

 だけど、近衛先生の殿様に田崎潤、藤田進と名和宏が味方になったらどんなケンかにも、いやさゴジラにすら勝てる気がしないか?そんな120%の安心感がイイ。

2002年11月04日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16