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満員電車


■製作会社:大映東京

■製作:永田秀雅

■監督:市川崑

■脚本:和田夏十、市川崑

■原作:

■撮影:村井博

■音楽:宅孝二

■美術:下河原友雄

■特撮:的場徹

■主演:川口浩

■トピックス:会社には森繁とのり平と小林桂樹(または加東大介)が必要です。


 漫画とは大胆に省略したカリカチュア(風刺画)のことですから、なるほど公開当時「漫画映画」と呼ばれたのは納得できます。

 一流大学(平和大学)の卒業式で虫歯を悪化させた民雄・川口浩は「ラクダ・ビール」に就職します。そこではたかが30分程度で処理できる伝票をたっぷり就業時間をかけて済ませるという退屈極まりないところでした。独身寮に入った民雄は、隣室の更利満・船越英二と親しくなります。出世とは無縁、万事おだやかで凡庸に見えた更利でしたが実は公認会計士を目指してひそかに勉強していました。そして何度目かの試験に落ちた更利は自殺してしまいます。

 ある日、民雄のもとへ故郷の父親・笠智衆から手紙が来ます。文面には「お母さん・杉村春子が発狂した」と記されていました。びっくりした民雄は産業医・潮万太郎の紹介で、医大でくすぶっている精神科の学生、和紙破太郎・川崎敬三を紹介してもらいます。和紙は民雄の父親が町の有力者であると知り、彼を利用して精神病院を建てさせようとします。

 膝の痛みを訴えた民雄は産業医に変な注射をされてしまい白髪になります。そこへ病院送りになったはずの母親がやってきます。母親は「実は発狂していたのはお父さんなのよ」と微笑みながら伝えるのでした。民雄は和紙のところへ抗議をしに行きますが、彼は民雄の父親のおかげで病院内で出世できると浮かれた途端、路線バスに轢かれて死にます。それを見ていた民雄は電柱に激突してしまい30日間、昏睡状態に。

 日本という国がまだ高度経済成長期直前の頃、最高学府を出た人たちですら十分な椅子が用意されていない、世間は「満員電車」のようなものであるなあ、というブラックユーモア満載の社会諷刺映画。

 出演者の台詞はほぼ棒読みで滅茶苦茶な早口。特にラクダビールの社長・山茶花究と総務部長・見明凡太朗の掛け合いは絶妙、息継ぎが心配で聞いてるほうが苦しくなっちゃうくらいでした。NG3回出したら頭に血ぃ登って死にそう。漫画なので登場人物の名前も更利満=サラリーマン、和紙破太郎=やぶ(医者)たろう、民雄の恋人・小野道子なんか生命感に乏しいと思っていたら役名が壱岐留奈=生きるな。

 大学出という肩書きを邪魔だと感じるようになった民雄は小学校の用務員さんになりますが、学歴詐称(逆ですが)でクビになります。そして新たな出発を小学校の裏手で学習塾を開業することに見出した民雄でしたが、ほったて小屋は今にも風に飛ばされそうになりのでした。

 世間の風は冷たくて、会社という機構の中にあってはどんどん非人間的になっていく。万事お気楽に前向きに考える東宝のサラリーマン映画とは極北の市川崑流、ニッポン・サラリーマン映画。

 おまけ。主人公の卒業写真でひときわデッカイ同期生、立ってる場所は川口浩と同じなのに顔の位置は後ろの列の人と同じ、柴田吾郎(後・田宮二郎)その人でした。うーん、詰襟姿が初々しくてカワイイっす!

2002年10月14日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16