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源氏九郎颯爽記 秘剣揚羽の蝶


■公開年:1962

■製作会社:東映京都

■製作:栄井賢、小川貴也

■監督:伊藤大輔

■脚本:伊藤大輔

■原作:柴田錬三郎

■撮影:松井鴻

■音楽:高橋半

■美術:桂長四郎

■主演:中村錦之助

■寸評:手強い悪役あってのカタルシス。.


 なぜ東映時代劇の二枚目がカッコイイかと言うと、悪役が「ぶっ殺したい」くらいワルだったり、一般ピープルでは太刀打ちできないくらい手強そうだったりするからなのであって、その悪役があんまり強くなさそうだったりすると、なんとなく主役が馬鹿みたく見えないこともありません。

 てなわけで、本作品はオモテの顔は盗賊(てか義賊っぽい)の初音の鼓・中村錦之助、ウラでは白装束の美剣士、源氏九郎・中村錦之助という二つの顔を持つヒーローが、活躍します。

 そろそろ徳川の時代も終わりかけてきた頃、体制が腐る間際にはいろいろ汚い事が起るもの。すっかり落ち目の貴族、冷泉卿の娘、冴姫・大川恵子が、若年寄、高見沢内匠頭・石黒達也の手配により将軍様への賄賂として差し出されそうになります。冴姫は3巻からなる巻物を献上品として京都から江戸へ向かいますが、その途中、片腕が鉄の爪になっている浪人、左源太・戸上城太郎らに襲撃され巻物をゲットされてしまいます。

 左源太のオーナーは高見沢にひっついて甘い汁を吸っていた佐渡屋・阿部九洲男。佐渡屋はイザとなったら一蓮托生、親分を脅迫するネタとして巻物を奪ったのですが、そこへ現れた白装束の剣士、源氏九郎はあっさりと2巻を奪い返して冴姫のもとへ。ところが冴姫いわく「大事なのは巻物じゃなくて軸なのよー!」とのこと。源氏九郎は残る1巻が佐渡屋の愛人、お仙・長谷川裕見子のところにあるのを知ります。

 ちょうどその頃、お仙のところへ盗賊の初音の鼓がやってきて、2巻の巻物を売りつけようとしていました。お仙は彼をだまして地下牢みたいなところへ閉じ込めます。

 ヒーローもの、とはいえ子供向けじゃありません。将軍様の愛妾となる冴姫のオールヌード(後姿、かつ、ほどいた髪の毛でお尻は見えません)や、半裸のお仙の背中からおっとあぶないバストが、、なんてシーンもあったりして存分に大人向きです。

 それと、敵方につかまってしまった錦之助が痺れ薬(実は毒消しのほうですが)を呑まされてヨダレをたらしてヘロヘロになったり、戸上城太郎(胡散臭い役どころを全力でやってくれる素晴らしい人)が斬られた鉄の腕が血まみれでブラーンという猟奇性もあったりするのでよい子にはあまり見せたくありませんし、第一、悪役のトップが石黒達也でセンが細すぎるのであんまりスカっとしないというのがイタイところであります。

 面白いのは貧民窟みたいなところに出てくる、初音の鼓の中間たちのキャラクター。唐子(中国風の髪形や服装をした子供)の曲芸師、模造品をつくる鋳掛け屋、夜鷹、聾唖の娘、喜乃・北沢典子など社会からドロップアウトした人たちの逞しい生活描写。特にニセの按摩に扮する鐚の市・田中春男が黒目を誤魔化すために目に鯉のウロコを入れているというアイデア、コンタクトレンズですねつまり。

 権力者たち、本来ヒーローとなるはずの遠山金四郎・丹波哲郎や源氏九郎の颯爽(タイトルどおり)とした活躍よりも、初音の鼓と喜乃のラブストーリーのほうがはるかに輝いていたのが作者の意図だとすると、映画の狙いからはちょっとどうかな?好きだけど、そんな後味でした。

 底辺に生きる人々のヴァイタリティーとトラジディを描いて反体制のイデオロギーを盛りこんじゃったら、肝心の主役(源氏九郎=美剣士)が死んじゃいました、てな具合。ヒーローが思想を語っちゃいけません、熱血馬鹿(かつ二枚目なら尚可)が一番。

2002年10月14日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16