「日本映画の感想文」のトップページへ

「サイトマップ」へ


誘拐報道


■公開年:1982

■製作会社:東映東京、日本テレビ

■製作:高岩淡、後藤達彦

■監督:伊藤俊也

■脚本:松田寛夫

■原作:

■撮影:姫田真佐久

■音楽:菊池俊輔

■美術:今村力

■主演:萩原健一

■トピックス:新聞業界の内幕。


 大阪で経営していた喫茶店をやくざ・中尾彬に騙し取られて借金を背負った古屋数男・萩原健一は身代金目的で小学生の男の子、三田村英之・和田求由を誘拐します。少年の両親・秋吉久美子岡本富士太の家に刑事たち・伊東四朗中田博久が電話を逆探知するためにやってきます。

 子供の生命を守るために刑事課長・藤巻潤は報道機関に対して報道協定を要請します。読売新聞社(実名で登場、てか制作=日本テレビだから)の社会部長・丹波哲郎は部下の大西支局長・三波伸介に報道はしなくても情報だけは取って来いと命じます。大西は部下の記者・小倉一郎らを県警のトイレに忍び込ませて情報を得ようとします。捜査本部の指揮を取る県警の捜査課長・平幹二郎は、刑事の存在にナーバスになっている両親の意向を無視して、女刑事・亜湖たちを身代金引き渡し現場へ向かわせました。

 当時、実際にあった事件がベースなのでおそらく、地上波で放送されることは50年くらいたってもありえないんじゃないかと思います。21世紀の今日、被害者(誘拐された子供)も犯人も犯人の家族も事件とは無縁の生活を送っているだろうと想像されるからです。なので、今更、事実を掘り返すのは遠慮します。

 のっけから丹波哲郎がカラオケで「ダンシング・オールナイト」を熱唱するというお笑い路線は冒頭の10分で終了。後は事件の被害者と加害者の意外過ぎる接点、犯人の逃避行、そして哀しすぎる結末まで、自然の恵みを得た綺麗なロケーションでもって、時には淡々と、時にはショーケンのクドイ熱演のたまものである緊迫感をはらんで描かれていきます。

 犯人にも被害者にも家族はいて、それぞれにこの事件の後、一体、どんな人生があったのかということに映画は触れませんが、ともかく、報道による人権侵害なんてものがあまりクローズアップされておらず、読売新聞が全面協力ですから最後に犯人とされた人物の家族を撮影したフィルムを健気な子供の一言に感動した新聞記者・宅麻伸がにぎりつぶすなど、概ね新聞屋さんには好都合になっているようです。

 新劇畑の俳優が警察サイドにまわるとどうもパラノイア的になる、というのは「天国と地獄」の仲代達矢に続いて本作品の平幹二郎も多いにそのケが見られます。そらまあ、無事に解決したからいいようなものの、失敗してたらどーすんだ?という疑問はこのテの誘拐映画にはつきものです。

 救出された男の子がたぶん聞かされたであろう犯人の素性に対して、口を真一文字に結んでいたのが印象的。また「報道協定は報道管制じゃないんだ!」という新聞記者の台詞はリアルすぎで報道機関の本音として最も納得できる一言でした。

 このほかの出演者は、1シーンだけですが記者会見で警察の発表にツッコミを入れる若手(でもないか)記者・宮内洋、そのほか東映東京常駐俳優はごっそりと出てきます。ヘリコの操縦士役で菅原文太、宅麻伸の恋人役にすでにロレツが微妙な藤谷美和子、そしてまだお色気魔獣になっていない小柳ルミ子が薄汚れた母親役を熱演します。当時まだ子役の高橋かおりがとても上品でかわいらしい少女役で出てきます。彼女のキャラクターがなければちょっとこの映画、かなり下品になったんじゃないかと思われるので助演女優賞あげたいくらい。

 おまけ。鼻の穴をひろげて小柳ルミ子をテゴメにしようとした中尾彬のシーンの直後、犯人の幼友達であり淫乱女・池波志乃がカーセックスしてたのは大笑い、とんだところで夫婦共演。

2002年10月06日

【追記】

※本文中敬称略


このページのてっぺんへ

■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16