黒い花 |
|
■公開年度:1950 ■制作会社:松竹京都 ■監督:大曾根辰夫 ■脚本:八住利雄 ■原作:梅崎春生 ■撮影:太田眞一 ■音楽:加藤光男 ■美術:水谷浩 ■特撮: ■主演:久我美子 ■寸評:どんなに転落しても久我美子の顔は綺麗なまんま。 |
|
それなりに裕福だった家の娘、鷹野マリ子・久我美子が継母・坪内美子との折り合いの悪さ、男運の悪さの挙句に殺人まで犯してしまう転落人生を描いた風俗映画。 戦時中に女になったのを継母にヤな顔されたのが発端、以降、実父・小沢栄(小沢栄太郎)は仕事にかまけて娘の養育は継母まかせで小遣いだけは潤沢に与えていると言う、放任型の父親。こういう家庭で育つと子供って不良になるんだよなあ、という常識はこの映画の製作当時となんら変わっていないところが可笑しいやら哀しいやら、人間って進歩しないもんですよね。 で、当のマリ子は終戦の日のドサクサで尊敬していた上司に犯されそうになるわ、洋裁学校の先輩・志織克子にレズビアンを迫られるわで散々な目に遭い、それでも偶然に知り合ったイイとこのお坊ちゃま・佐田啓二と相思相愛になったとたんに相手が山で遭難。失意のどん底で自暴自棄になったマリ子は上野をうろつき、ズベ公軍団のリーダー、チコ・若山セツ子と意気投合、まったく家に寄り付かない立派な不良少女になります。 チャリンコ(子供のスリ)に身をやつす幼友達・宇田川博靖と再会、更正しかかったところで彼の兄貴分、浅川・鶴田浩二に犯されておまけに性病にまでさせられたマリ子でしたが、それでも幼友達となんとなく将来を誓い合った矢先、彼に性病をうつしてしまいます。自暴自棄になった幼友達は愚連隊とケンカをして殺されます。 また一人ぼっちになったマリ子は浅川の仲間と一緒に海水浴に誘われます。よしゃあいいのにノコノコついていったマリ子は、押しこみ強盗の片棒を担がされそうになります。狙いをつけた金持ちの家で、そこの娘を襲おうとしていた浅川を見たマリ子は思わず彼を刺してしまうのでした。 しかし、ここまで「不良」とか「ズベ公」というキャラクターがフィットしない女優さんもほかにいないと思うのですが久我美子が以前に主演した「不良少女」という柳の下にドジョウは二匹いなかった、というところでしょうか。 良家の子女というオーラが身体全体から立ち上る久我美子に対して、ヤンキーな若山セツ子はなかなかしっかり者の不良少女を演じます。嫌々ながら親元に連れ戻されたのに、ちゃっかり更正、未だ出口に見えないマリ子へ「あなたまだそんなことやってるの?」とお嬢さま言葉も滑らかに説教垂れるその姿は、いやはや実にアッパレです。マリ子がその不幸な人生から立ち直る最後のチャンスはこの瞬間だったのですが、彼女はとうとう殺人犯にまでなってしまうのでした。 出会う男が片っ端から死んでしまうというのは同情の余地アリですが「こんな人生に誰がしたの?」とクソ真面目に語るマリ子からは、当時の世相をうかがい知ることはできても現代のセンスではちょっと違和感ありすぎと思われます。 キャラクターがまったく似合わない主役に対して、スコーフェイスの鶴田浩二の男の色気は大変に魅力的です。東映移籍後(東宝時代はあえて割愛)時代遅れの中年男としてそれはそれで人気のあった人でしたが、松竹時代の不良性感度は同時代のほかの俳優さんに比べて独特の魅力。ただし当時の風潮を考えるとこうした軟派なキャラクターは受け入れられたとは思いにくく、松竹のカラーからしても、現代だからこそ見なおされる魅力なのでしょうね。 こういうモダンな男の色気、二枚目の魅力をどうも日本映画は軽んじていたように思われますね、当時は。なので、鶴田浩二って「もともと時代遅れ」なのじゃなくて「時代を先取りしすぎてズレちゃった結果としてのモノ」だったと言えるのかも。 (2002年09月15日) 【追記】 |
|
※本文中敬称略 |
|
file updated : 2003-06-22